馬鹿みたいだって思うでしょうけど その7
あくる日。
こんなにたくさんの人が集まっているのを僕は見たことがなかった。まあ田舎者だからといってしまえばそれまでなんだけど。
町の中央広場には即席のベンチが円形に何重にも並べられている。座りきれない人たちがそのまわりにひしめき合っていた。
ガラガラと小さな荷車を引いてやってきた男が、ビンに入った飲み物を売り歩いている。
広場の真ん中に、マックスの機体があった。飛行機というそうだ。巨大な翼の下に人が座るスペースが作られていて、足元にはミシンのペダルのようなものが付いている。それを踏むと、先端に付いた4枚の羽根――プロペラというらしい――と車輪が回るようになっている。あんなので本当に空を飛べるのだろうか。でも、マックスとヨミは成功を確信していた。
僕とヨミとバーニィは人ごみの中にまぎれて不審な人物がいないか見て回った。TBとキャット――『眼帯』はザ・キャットというその世界では結構有名な盗賊だった――は狙撃できそうな場所をチェックしている。今のところ、怪しい動きは見当たらない。
パン、パン、という派手な音に僕たちはぎくっとなった。爆竹と花火だった。どうやらいよいよ始まるらしい。この町の町長が広場に設けられた演台に上がった。
「えー。紳士淑女の皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。この町出身の発明家、マックス・フィッシャー君の発明による空飛ぶ機械がいよいよ飛び立ちます。
えー。フィッシャー君は、十五歳でこの町を出て、かの有名な機械職人、ハロルド・ベッカー氏に弟子入りし――」
「能書きはいいから、さっさと始めろ!」
「あんたのつまんねぇ話を聞きに来たんじゃねぇぞ!」
「マックス、早くやれ!」
町長の演説をさえぎって次々と野次が飛ぶ。
「さあ、さあ、もうないか? 今ならまだ間に合うよ。さあ、張った、張った」
オッズの書かれたボードを背中にしょって男が声をかけて回っている。どうやら賭けまで行われているようだ。あえてオッズは見ないようにした。
顔に流れる汗を拭きながら、町長はたじたじになっている。
「えー。それでは、始めてもらいましょう。マックス君、どうぞ!」
盛大な拍手とともに、マックスが広場を横切って機体に向う。
その光景をじっと見つめているヨミのそばに僕は立った。
「何も起こりそうにないね」
「まだ分からん」
「ねえ、君たちの乗ってたMAってやつも空を飛べるんじゃないの?」
「MAは飛行機じゃない。ただジャンプして移動するだけだ。それにMAはファントムから奪ったもので私たちが作ったものじゃない。でも、あれは違う。あれは私たちの力だけで作り上げたものだ」
マックスが機体に乗り込むと、大柄な男たちがふたり出てきて機体のうしろに手を添えた。マックスの右手が上がり、ペダルを踏み込む。男たちが機体を押し始めた。




