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パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第三章 馬鹿みたいだって思うでしょうけど
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馬鹿みたいだって思うでしょうけど その2

 TBってけっこう有名だったんだ。

「バーニィ! こいつは――」

「大丈夫。お互い今は仕事抜きってやつだ。それより、部屋は空いてるか?」

「運が良かったな。あと二部屋で満杯だ」

「珍しいじゃないか、いつもは風通しがよすぎるくらいなのに」

「なんだ、知らないのか。明日この町でちょっとしたイベントがあるんだよ。あんたたちもそれを見に来たんじゃないのかい」

「なんだそりゃ」

「マックスって変人が空を飛ぶ機械を作ったんだとさ。明日はそのお披露目だそうだ。わざわざそれを見にあちこちから人が集まってる。まあ俺はかなり眉唾だと思うが」

「ふうん」

 バーニィは無精ひげを撫でながら考え込んだ。

「本当に知らないのか」

「ここしばらく留守にしてたからな。ところで、人を探してる。あんた、ドクター・マーシュを知ってるよな」

「ああ、あの医者の旦那か。最近見ないな」

「そうか。じゃあ、黒い髪の女の子と眼帯をした男のふたり連れはどうだ」

 宿屋の主人は無言で僕たちの背後を指さした。僕たちはいっせいに振り返る。窓際に置かれたテーブルの前に黒いフード付きのマントを着た小柄な人物が座っていた。

 あの子だ。全然気付かなかった。フードがすこし動いて、黒髪がこぼれ落ちる。

「あんたも焼きが回ったな、アリソン。私が卑怯者だったら背中から撃たれているぞ。それに情報収集もなってない」

「どういうことだ」

「聞いただろう、さっきの話。明日、ファントムが動くぞ」

「それじゃあ……」

 そのとき、入り口とは反対側のドアが開いて、「げっ」という男の声がした。

 僕たちはまたいっせいにふり向いた。『眼帯』が立っている。バーニィは銃に手を掛け、TBはスッと腰を落とした。『眼帯』も同時に腰に手を伸ばす。

「いいかげんにしろ、馬鹿ども!」

 ガタン、と椅子を鳴らしてヨミが立ち上がったのと同時に二階から銃声が聞こえた。二発だ。次いで、女性の悲鳴と派手な足音が頭上から響く。

「くそっ、もう来たか」

 ヨミが椅子を蹴って外に飛び出し、『眼帯』も裏口からあわてて出て行く。僕たちもヨミを追って外に出た。

 砂嵐はだいぶ弱まっている。二階から下ろしたロープをつたって男が通りに飛び降り、ちょうど尻もちをついたところだった。起き上がったけど立ち往生している。すでに通りの向こう側には『眼帯』が、こちら側にはバーニィが銃を構えていた。

「あいつ、本当にファントムの手下か?」

「そのはずだが……」

 バーニィの言葉に答えながら、ヨミが周囲を見渡している。男はじりじりと宿屋の向かいの建物に追い詰められていく。一階がガラス張りの空き店舗だ。

「待ってくれ、俺にもよく――」

 突然、男の体が吹き飛び、通りの反対側の宿屋の壁にぶち当たって地面に転がった。銃声がしたはずなのに僕にはその感覚がない。それほど、その銃の威力は衝撃的だった。

 まっさきに動いたのはTBだった。僕の襟首をつかむと、宿屋の床下に放り投げた。

 まったく荒っぽい。でも僕がいても足手まといになるだけだ。僕はずるずると床下から這い出て通りを覗いた。

 宿屋の向かいの建物のガラスが割れている。ということは、銃を撃った人間は建物の中か。バーニィと『眼帯』が両側から建物の扉に銃を向けた。

 でも、狙撃者は建物の中にいたわけではなかった。黒い影が建物の屋根を軽々と越えて、通りのど真ん中にストンと着地した。TBと同じ身体能力。バーニィと『眼帯』が慌ててふり返る。あいつが狙撃者だとすると、建物の向こう側から男を撃ったのか。

 ゆっくりと立ち上がったそいつの姿はこれまでに見たこともない、異様なものだった。

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