馬鹿みたいだって思うでしょうけど その1
「くそっ、こんなに早く嵐がくるとは」
風の音にかき消されてバーニィの声が切れ切れにしか聞こえない。
砂嵐は一定の周期でやってくる。今の季節は毎週のようにやってくるけど、確かに今回は間隔が短すぎる。
横殴りに吹きつけてくる砂で前がほとんど見えない。そもそも眼を開けていられない。僕たち――僕とバーニィとTB――は、はぐれてしまわないように密集して動いていた。スカーフで顔を覆っているのに、口の中がじゃりじゃりする。
バーニィの話だと、奴らの拠点まで二日の行程だった。一日目は砂漠を横断、二日目も何もない荒野を行く。その先に今は使われていない鉱山があって、ヨミたちはそこを根城にしているらしい。
いったんその鉱山跡近くの町に腰を落ち着けて作戦を練る。そういう予定だったんだけど……。
一度引き返したほうがいいんじゃないか、そういいかけたとき、TBが馬を降りた。ぽーんと大きく前方に跳躍して砂のカーテンの向こう側に消えていく。
「どうしたんだろう」
「何か見つけたな」
しばらく待っていると、TBが戻ってきて、ついて来いという仕種をした。
彼女が見つけたのはあのMAと呼ばれていた機械の乗り物だった。うずくまるように地面に座っている。中には誰も乗っていない。僕たちはMAの影に身を寄せ合った。
「故障か何かで不時着したらしい。坊や、MAは二機だといってたな」
「うん。ひとつは父さんが乗せられて、もうひとつは女の子と眼帯をした男が乗ってた」
「TB、追えそうか?」
TBは首を振った。この嵐では足跡はもう消えてしまっているのだろう。
「この近くにメイソンという町がある。乗ってた奴らが向うとしたらそこだ。そっちに行く予定はなかったが、どうする。行ってみるか」
TBは即座にうなずいた。
「よし。このまま嵐の中を進むわけにもいかないしな」
僕たちは再び馬にまたがった。
町にも砂嵐は吹き荒れていた。でも、砂漠ほどじゃない。建物があると威力は小さくなる。通りに人影はない。僕たちはバーニィの顔見知りの宿屋の扉を開けた。
スカーフで顔を隠し、全身砂まみれの僕たちを見て、宿屋の主人は一瞬ぎょっとしたみたいだけど、すぐにバーニィだとわかるとカウンターから声をかけた。
「昼間っからうろうろして大丈夫なのか、バーニィ。また懸賞金が上がってるぞ」
バーニィは苦笑いを浮かべながら、TBを親指でさした。主人は眼を見開いた。
「もしかしてあんた――ニキータ・ヴェレチェンニコフ!」




