僕はそれをいろんな人から教わった その7
「なにか方法があるはずだ。シル、生還の可能性を探し続けろ」
しばらくシルが表示した画面を操作してから、カウントが口を開いた。
「結局、君の目論見通り、ステーションは破壊されることになったな」
「確かに、さっきはあんなことをいったけど、僕の目的は破壊じゃない。火星の人たちが地球と対等の立場になることだ。そのためには多少無理なことはする。でも、誰かを傷つけたりしたくない」
カウントは操縦席に座ると計器盤を操作し始めた。
「レン。君も心のどこかでは地球に行ってみたいと思っていただろう。隠しても無駄だよ。私には分かる」
「あなたも心のどこかで思っていたはずだよ。本当に自分たちのやっていることは正しいのかって。僕には分かる」
カウントは苦笑した。
「それでもやっぱり、君は馬鹿だよ。前にもいったけど、地球へ行けば君の未来は無限に広がっているんだ。それに、みんな私たちに希望を託している。火星の生活に意味が無いとはいわない。でも、これはチャンスなんだ。向こうへ行けば君は何にだってなれるのに、なぜチャンスを掴もうとしない」
「そうだよ、カウント。その通りだ。
僕のいたところでは、大人になったら何になりたいかなんて、そんな質問は誰もしなかった。だって、大人になったらたいていは農場で働くか、職人になるか、商人になるか、それくらいしかないんだから。
誰にもいったことはないけど、子供の頃、僕はカウボーイになりたかった。うちの土地のすぐ近くがロングキャトルドライブのルートだったんだ。だから、彼らと一緒に夕食を食べたりした。まだ母さんが生きていた頃は母さんの作った料理を持って行ったりしてね。それから、賞金稼ぎ(バウンティハンター)にもなりたかったな。
もちろんそんなことは無理だって分かってたよ。たぶん僕は父さんの職を継ぐんだろうと思ってた。特に不満も疑問も感じずに」
カウントは無言で僕の言葉を聞いていた。
再び僕は窓の外の火星の姿を眺めた。さっきの不思議な感覚がよみがえってくる。誰かに見られているような、誰かの声が聞こえるような感覚。本当に誰かの声が聞こえた気がした。それはこんな声だった。
――キミの望みはなに?
僕の望み。ラオス―の言葉が脳裏に蘇る。お前さんの夢はなんじゃ。
僕の夢は――。
「カウント。今の僕の夢は、火星のみんなと――ヨミやTBやバーニィたちと幸せに暮らすことだ。もしもその夢の実現に近づけるのなら、僕は父さんのあとを継いで、火星人として生きる」
僕は目を閉じた。
「僕は最近こう思うんだ。本当に大事なのは、何になるかじゃない。どう生きるかなんじゃないかって。僕はそれをいろんな人から教わった」




