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パンプキンとカカオ  作者: Han Lu
第十三章 僕はそれをいろんな人から教わった
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僕はそれをいろんな人から教わった その2

 シャトルに乗っていたファントムはカウントを入れて五名。みんな白くて柔らかそうな服を着ている。気を失っているあいだに、僕も同じ服を着させられていた。

 自分の体を見下ろしている僕の様子を見て、カウントはいった。

「君の体は徹底的に除染させてもらった。悪いけど着ていた服は処分させてもらったよ」

『ノード・ワン』にはすでにふたりのファントムがいた。たぶんカウントたちを迎えに来た、地球と火星との往還船の乗組員たちだろう。

 地球から来た往還船はこの低軌道ステーション『ノード・ワン』よりもっと高い高度、静止軌道上にあるもうひとつのステーション『ノード・ツー』に停泊中のはずだ。カウントが説明してくれる。

「彼らを運んできたシャトルはまた『ノード・ツー』に戻っている。僕たちはいったんここで打ち合わせをしてから、今乗ってきたシャトルで『ノード・ツー』に向かう。ブリーフィングは一時間後。君にも参加してもらうよ。とりあえず、それまではゆっくりしてくれ」

 イルザたちはみな思い思いの格好で伸びをしたり、くつろいだりしている。

 僕は、近くの窓から火星の姿を眺めた。真っ黒な宇宙空間に浮かんでいる赤みががった惑星。火星の地表がどんどん後方に移動していく。『ノード・ワン』は低軌道上にあるから、ものすごいスピードで火星上空を移動しているはずだ。

 宇宙は、僕を不思議な気持ちにさせた。首のうしろがひりひりする。誰かが僕をじっと見ている感覚。でも、決して不快じゃない。小さな子供がじっと人の顔を見つめることがあるけど、例えばそれは、そんな無垢な視線のようなものだった。そして、まるで誰かが今にもささやきかけてくるような予感。本当に何かが聞こえてきそうな――。

 そんなことを思っていたら、ファントムのひとりが僕に近づいてきて、何かを差し出した。

「これは返しておくよ。大事なものだろ」

 僕の手のひらの中に、ドクター・マチュアの懐中時計がそっと置かれた。彼はセンターで僕から時計を取り上げて、家族の写真を見せた人だった。

「俺はブーンだ。よろしくな」

 僕はブーンに礼をいった。そして、思わず笑い出しそうになった。運命が僕の手のひらの上に転がり込んできてしまった。ヨミ、どうやら君の願いはかなえてあげられそうにないよ。

「彼が例のお客さんだな」

 往還船の乗組員が僕を見て、カウントにたずねた。

「ああ。レナード・マーシュ君だ。こう見えて彼はTBだからね、丁重に扱ってくれよ、ロバート。レン、ここまで来てしまったらもう腹をくくるしかないよ。シル!」

 ステーションの中にシルが現れた。

「たぶんひと通りのことはライブラリで学んでいると思うけど、レンからの質問があれば答えてやってくれ。プロテクト七番まで解除」

「了解、カウント」

「レン、あとでみんなを正式に紹介する。それと、無重力状態の体の動かし方を――」

「僕は行かないよ」

「なんだって?」

「カウント、僕は地球へは行かない」

「今さら何をいってるんだ。私はあのお嬢さんに頼まれたんだよ。それに、地上からのコントロールがなければもう下には戻れない」

「僕だけじゃない。誰も地球へは行かせない。緊急脱出用のポッドが二機あるはずだ。あなたたちは今すぐそれに乗って降下しろ」

 往還船のパイロット、ロバートが一歩前に出た。

「おい、坊や。いいかげんにしろよ――」

「シャトルに爆薬が仕掛けてある。あなたたちが脱出したあと、それを爆破させてこの『ノード・ワン』を破壊する」

「はったりだ、カウント」

 ブーンがいった。

「それはどうかな」

 僕は、ドクター・マチュアの懐中時計に仕込まれたスイッチを押した。

 爆発音は聞こえない。カン、カン、という金属同士がぶつかる音とかすかな振動が伝わってきた。すぐにシルが反応する。

「シャトル破損。『ノード・ワン』の外壁に軽微な損傷。区画閉鎖しました」

 カウントたちが顔を見合わせた。

「今のは小型のほうだ。もうひとつ、本命が残っている。今度のやつは『ノード・ワン』の半分を吹き飛ばせるぞ」

 手に持った懐中時計を、僕はカウントに向けて掲げた。

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