プロローグとかいう第1話
"ねぇ、オレがオマエのこと羨ましいと思わなかったとでも、思ってんの?"
なんだよそれ。
一方的にこんなところに呼び出しておいて、其の言い草は何だ。
そんなに羨ましいなら、こんな物くれてやる。
――そう出来るものなら、とっくの昔に。
◇◆◇◆◇
"ちゅーとりやる"とかいう奴を終えると、俺は花畑に立っていた。
花畑っちゅーか。
いや花畑だ。
俺の頭の中がかって?
ちがうそーじゃない。
落ち着け、順を追え。
そう、なんだ。気が付けば朽ちかけた石造りの神殿のような場所に居て、目の前には大きな噴水がそれでも機能を保っていて。
なんならその噴霧された露水滴の仕業とでも説明を付けられようか。
足元には石面の地であるにもかかわらず"花畑"と言う他ない、一面の花。
一面の菜の花。
どっちかっていうと今生きているという事。
それはミニスカート。
ちがうそーじゃない。
いや、そうでなくもない。
見下ろす自分の下半身には、何ともひらひらふわふわしたスコートの様な白いミニスカート。
上は何だか不必要に襟の開いた黒いシャツだ。
なんなら開きすぎて上の下着の肩ひもが自然と露出してしまっている。
くそ。こんなことならほかの選択肢に有ったフードパーカーにしておくんだった。
……さもなきゃ下着の色をもう少し吟味――
ちがうそーじゃない。
それは何だか本末転倒というか。
しかしまぁなんとも。
手を握る。
開く。
見回す。
小鳥のさえずり。
噴水の水音。
視界の端に何か映る。
とりあえず無視する。
すごいな。これが"ばーちゃるりありてー"の神髄か。
俺は、ひとまず朽ちかけた石造りの神殿の、花に埋もれるような祭壇のような場所から辺りを見回して、ひとつ、感嘆と、そして半分は諦念からくる溜息を零すのだった。
――2046年 7月
これが俺にとって国産最大手VRMMO-RPG
ThebesWorldOnlineでの最初の一日の始まりだった。
とある友人の強い勧めで、去年発売された大型のタイトル、TWOをやる羽目になり、つい今しがたキャラクター作成、チュートリアルを経て、いま、ゲーム開始というわけだ。
なんならつい数日前まで現実さながらのリアルな戦闘機に乗って日々空戦に明け暮れていたというのに。
しかもなんだって俺が。
"俺"が。こんなVR空間に来てまで"スカート"を穿かにゃならんのか。
何にせよ、どうせやるなら精々楽しませてもらおうか。
強引に誘われた末とはいえ、国内人気No.1のRPGだと言うじゃないか。
俺は祭壇から降りて、花畑を横切って神殿の出口と思しき方向へ向かう。
途中、先ほど視界の端に映ったものが再び目に触れる。
花に埋もれる様にして、少女が横たわっている。
目に痛いほど鮮やかな桃髪をツインテールに括り、リボンを通した可愛らしいデザインのシャツの上から、サニーオレンジのキャミソールワンピース。
そのシャツの上から下着を着るような様装は、まるで襟口から下着を露出させている俺と対照的な様で。
眠り姫のように横たわるその少女を――
無視して、やはり花畑を横切る。
さぁて、まず何したらいいんだろうな。
初期装備らしいものは服以外何も持ってないみたいだし。
まぁ、ひとまずここから出てみなきゃ何もわからないよな。
そうして俺が出口に差し掛かった時。
「ちょっとー! 話しかけなさいよーッ! なんならそこは王子様のキスでしょー!? へィ! リテイク・プリーズ!!」
声に。
ウンザリして振り返れば、花畑の花をまき散らしながら、先ほどの少女が起き上がって、何やら憤慨している。
ぴょんこぴょんこ。
何ならその姿さえそれなりに愛らしくて困る。
俺は再び溜息を吐き散らかしながら、ちょっと頼りない丈のスカートの端をつまんで持ち上げて。
「王子様……?」
一言そう言って見せると、桃髪の少女はぴたりと動きを止め、ぐぬぬと唸り声を上げる。
「そ、そうだったわね。それはアタシの指示だわ。仕方がない、今回は見逃してあgじゃっなーい! ちょっと"神谷ちゃん"! 無視は無いでしょ! 声くらいかけなさいよ!」
「相変わらず騒がしい人だな。だいたいなんでVRゲームの中に来てまで"リアルと全く同じ格好"してんですか、"きゃみさま"。あと、ネトゲの常識としてリアルの名前呼ぶの禁止」
――彼女は。
この一年来同じゲームを遊んできた友人ではあるが、未だその本名すら知らぬ彼女は。
夏も。秋も。春も。真冬でさえも、その"キャミソールワンピース姿"で。
駅南の大型ゲームセンター"パレス"に現れ続けた、彼女は。
下着姿の天使こと、通称"きゃみさま"
それ以外の呼び名を知らないし、そう呼ぶしかない。
「わ、わかったわよぅ。 "なっつん"」
そして、不本意ながらこのミニスカでなんなら、はみブラゆるシャツの、"なつぴこ"なるキャラクターネームのアバターを動かす俺は。
本名を 神谷 夏彦 という。