二十一.始まりの知らせ
暮れ六つ過ぎ。
周囲を堀と高い塀に囲まれ、外界とつながるのはただ一つ、大門のみ。
この朱色に染められた門からしか出入りすることができない街。
無数の提灯に彩られた、魅惑の世界、遊郭、末原。
寒さの緩んだこの街を、一人の青年が足早に行く。
その華奢な身には少々大きめの羽織。
その不釣り合いな感じが、その青年を歌舞いて引き立てる。
柚月だ。
今日は雪原の羽織を借りている。
「おい見ろ。お小姓様のお越しだよ」
男たちが噂する。
「また白玉屋か」
「ああ、十日と開けず通われているらしいからな」
「お忙しいのにわずかな間を惜しんで通われるとは、よほどご執心だな」
「白峯か。どれほどいい女なのだろうな」
柚月は方々から向けられる好奇の目と、それについてくる皮肉交じりの声を気に留める風もなく、真直ぐに白玉屋に入った。
待ち構えていたかのように出迎える若い衆に、慣れた様子で刀を預けると、すでに禿の一会が迎えに来ている。
その後に続き、薄暗い、迷路のような廊下を行く。
両側には装飾された障子戸が並び、どれも毒々しいほど鮮やかで、どこまでも続いている。
やがて、ほかと比べるとやや質素な障子戸の前で、一会が足を止めた。
障子戸が開くと、白峯がいつものように優美に出迎えた。
だが、その表情。
いつもと違う。
緊張に染まっている。
柚月も同じだ。
それでも白峯は花魁らしさを忘れない。
いや、染みついている。
艶やかなしぐさで文箱から手紙を一通取り出すと、すっと柚月に差し出した。
蘆からの報告書。
柚月はすぐには受け取らず、白峯が差し出す手紙をじっと見つめた。
その目に宿る、緊張が増す。
小さく息を吐くと、柚月は意を決したように白峯の手から手紙を取った。
ぱっと開く。
書かれているのは、たった一行。
だが、その一行に、柚月の手は震えた。
『蘆にて、謀反の兆し有』




