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29 罪には制裁を2

「っ! バデン男爵様! ようこそお越しくださいました!」

店員のお姉さんが見事な営業スマイルを浮かべて入ってきた二人の下に駆け付ける。私達は置いてけぼり。そして店の奥の扉が開いて男性と女性の店員さんが慌てて走ってきた。……私をスルーして男爵の下に。私達の接客は放置かい! いや、支払いは終わっているし、品物はもう着てるけどさ!


「……うん? なんだ、この店は平民にも服を売るようになったのか? そんな安物しか扱えないなら儂らが買うような品はないようだな」

「いえいえ! 当店は変わらず、最高品質の物しか取り扱っておりません! あちらはお忍びでいらした富豪の方でありまして。オーダーメイドにするかお悩みになられていたのです」

いや、オーダーメイドにするつもりはありませんが。というか、変なこと言うからエロオヤジの関心がこちらに向いたじゃないか。なんかのそのそとこっちに来るんですけど。目つきがイヤらしいんですけど!?

「ほう、見ない顔だな。獣人を傍仕えにしている商人であれば記憶に残っていてもおかしくないのだがな。して、名はなんと言う? 扱っている品物を見せてみろ」

えぇ、なにこの上から目線の貴族は。なんで私達が商人になってるのよ。店員もなんで私がお忍びできた富豪なの? 伯爵様に貰った革袋っていくら入っていたのよ!


「申し訳ございません。お嬢様はお忍びの身でありますので名乗りはご容赦くださいませ。また我々は商人ではありませんので、お見せできる品物はございません」

「なんだと? この儂が聞いてやっているのに名乗らんと言うか! その上、商人でもなく富豪だと? 怪しい、すこぶる怪しい。これは儂の屋敷に連れ帰る必要がありそうだ、ぐふふふ」

ぬおぉぉ、全身に鳥肌ががが。ガマガエルのような顔で笑みを浮かべるなぁぁ! 

「我々の身元はルーベルト伯爵様が保証してくれております。現在滞在しているのもルーベルト伯爵様のお城です。ご確認頂いても構いません」

シルダさんとリンドさんが私の前に立って庇ってくれる。伯爵様の庇護下にいるわけだし、男爵くらいブチッてしたらダメなのかな。その方がこの領地の為だと思います!

「ぐふふふ。儂はそのような連絡を受けておらん。伯爵の懐刀である儂が聞いておらん以上、お主たちが嘘を付いていることになる。これは大罪だ。領主であるルーベルト卿の名を騙る不届き者だ。屋敷で詳しく調べる必要がありそうだ、身体の隅々までな。ぐふふふ!」

 伯爵様の懐刀? この人が? ……本当なら伯爵様の目は飾りじゃないだろうか。他国や他領の関係者かも知れない私達を相手に事実確認も取らずに屋敷に拉致しようとする輩が懐刀? 獅子身中の虫ではなかろうか。

 そして男爵が合図を出すと店の扉が開いて二人の強面筋肉マンが入って来た。盗賊と山賊のお頭だろうか。……ガイアスさんで慣れたからあんまり怖くない。ガイアスさんの方が身体が大きくてムキムキだったし、この二人より引き締まっていて強そうだった。……とはいえ、今はリンドさんしかいないから結構ピンチかも。ドスドスと地面を揺らしながら筋肉マン二人が近づいてくる。

 ……まさかこの変態男爵は事実確認もせずに本当に私達を捕まえるつもり? 私達が他国の貴族だったらどうするつもりなの?


「抵抗するな。そうすりゃ怪我せずに屋敷まで連れて行ってやる。……その後は知らんがな」

……まさかガイアスさんがいなくなってすぐにこんな事態になるなんて。――私のミスだ。ガイアスさんの言う通り私を守る騎士が必要だった。まさか伯爵様がこんなにも役立たずだったなんて! 配下の貴族くらいしっかり躾なさいよ!

「ぐふふふ。まぁ、お主たちの言い分を信じてルーベルト卿に確認を取ってやっても構わんぞ? ただしその間、その侍女には儂の相手をしてもらおうかのう! ぐふふふふ!」

プチッ。――今、なんて言った? ッ! 私の大切な人に手は出させないッ! 

リンドさんに視線を向けると真剣な表情でコクリと頷いてくれた。うん、ごめん。痛い思いをさせることになっちゃう。でも、お願い!!  

「――リンドさん、やっちゃって! 怪我なら何度だって治すわ! ――私達を守ってッ!!」

「御意!!」

 シルダさんが私を抱きかかえて店の奥に走り、リンドさんは剣を抜いて筋肉マンに斬りかかった。

 リンドさんの二回り以上大きな相手。人を何人か殺していそうな相手に怯むことなく向かって行ってくれた。私達を守るために。

「な、貴様!」

「貴族を相手に抜きやがったな!」 

「グヘヘヘ、これで言い訳はできたな。さっさとその邪魔者を殺せ!」


筋肉マン二人も剣を抜いた。二対一。ただでさえ体格が全然違うのに卑怯だ! 

ガキン、ガキン、と剣がぶつかり合う音が響き、店員さんの悲鳴が室内に響き渡る。

っ、怖い、でも、私が見てなきゃ。リンドさんが怪我したら全部治すんだ。何度だって! だから私が見てない、と?

「……ふぅ、終わりましたよ、聖――お嬢様」

「あ、あれ? ……リンドさんって、もしかして――強いの?」

 筋肉マン二人は床に転がって筋肉になっていた。いや、たぶん死んでないし肉片にもなってないよ。気絶しているだけなのかな? 二対一で怪我もなくリンドさんが圧勝してしまった。……私の決意を返して欲しい。

「村ではお嬢様に不甲斐ないところをお見せしましたけど、魔獣や魔物を相手に闘っていたのですから弱いつもりはありませんよ。そうじゃなかったらいくら助けられた命とはいえ、護衛役に抜てきされることはありませんから」

「ガイアスさんがカナ様に言われて大人しく戻った理由もリンドがいたからですよ。……とはいえ、私も村を出たのは初めてだったので外の者がこんなにも弱いとは思いませんでした」

「シル姉、そこは俺が強かっただけだろ?」

「調子に乗らないように。貴方が弱弱しいからカナ様が怯えて、怖い思いをしたのですよ。もっと精進しなさい」

「――そうだった。聖――お嬢様に不快な思いをさせた償いをさせないとな」

 リンドさんの視線が筋肉マンに潰されてグフグフ呻いている塊に向けられた。背筋がゾクリとしたけど、これはリンドさんの殺気なのか、はたまたヒキガエルの醜さゆえなのか判断ができない。

「ッ、こ、この無礼者どもが! 早く儂を助けんか! 男爵である儂にこのような仕打ちをしておいて覚悟はできているのだろうな!」

 思ったより元気そう。でも変な恨みを持たれるのは迷惑よね。……伯爵に取りなしてもらった方がいいかな。

「リンドさん、お店の人にロープを貰って縛ってください。伯爵様のところに連れて行きましょう」

「分かりました。――聞いた通りだ、ロープをもらえないか」

「は、はい! ただいまお持ちします!!」

リンドさんに睨まれた男性の店員さんが慌てて店の奥に走り去った。女性の店員さん二人は店の片隅に座り込んで怯えているみたい。可哀そうなことしちゃったな。全部この男爵のせいだからね! ……とはいえ、私達はもう出禁だろうね。

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