14 ペペスト村2
そうこうしていると夕方に差し掛かる前にガイアスさんの家がある村に着いた。
ペペスト村。人口は八十人ほどとのことだけど、村の規模はライラ村と大して変わらない。ここも人間の村だけど、納めているガイアスさんは獣人。……人間と獣人の関係は良好なのかな。
村の奥に周りより少し大きなお屋敷があるから、あれがガイアスさんのお家かな。……貴族のお屋敷にしてはずいぶん古ぼけているけど、まぁ騎士爵家ならそんなもんだよね。
村の中を通ってお屋敷に向かう私達を興味深そうに眺める村人達。
ガイアスさんがいるから怪しい集団とかは思われていないだろうけど、結構な人数が様子を見てる。
「カナ様、ここでも治癒を行うんですか?」
シルダさんが心配そうな表情で私を見ていた。ククリ村でも「無理は止めて下さい」と、ずっと付き添ってくれていたからね。
ちなみにシルダさんには名前で呼んでもらうようにお願いした。皆さんに聖女様、聖女様、呼ばれるのも気が滅入るからね。最初は畏れ多いと断られたけど、ゴリ押ししたよ。一番側にいるシルダさんに堅苦しくされるのも辛いからね。…………ただ、様付けは取って貰えなかった。名前に様付けされると聖女様より違和感があるんだけどねぇ。
「今回はしません。もし大きな怪我とか命に係わるようなものがあるなら治癒しますけど、皆さん全員を見て回るのはちょっと難しいから」
癒しを行わないと信者が増えることはないと思うけど、ただ見境なく癒していたら私の信仰力が持たない。
今も少しずつ回復はしているから、ライラ村の皆さんが私に祈りを捧げてくれてるんだと思う。とっても嬉しいし、本当にありがたいよ。
私の力は信者の方達の祈りに支えられているんだ。
ただ闇雲に救うのは本物の聖者様に任せて、私は人間らしく、損得を考えて動くよ。偽善道を極める!
「良かったです。カナ様のお優しさは分かっていますが、あまり無理をすると先日のような事態になりかねません。ただの村人とご自身の命を同列に扱わないで下さい。……助けて頂いた私が言うのもおこがましいのですけど」
「そんなことないですよ。シルダさんには凄く助けて頂いています。今回も同行してもらえて本当に助かりました。……先日の件があったから私は成長できたんです。村の皆さんにはご迷惑をお掛けしておいてなんですけど、あれのおかげで今の私があるんです」
丸一日寝込んでいたのは予想外だったし、起きたら血だらけだったのはビックリだけど、意識もあってないようなものだったからよく覚えていないんだよね。
「聖女様ぁッ!」
おふ、シルダさんが感極まって抱き着いて来た。お胸の弾力が凄い。
シルダさん、着やせするタイプだね。私にも少し分けて下さいよ。
……少し揉んでみるか。こちらに流れて来るかも知れないし。
「せ、聖女様ッ!?」
わお! これはすごい。ボリューム感半端ないっスよ。うーん、揉みごたえはあるけど、なんだか悲しくなってきた。
「……お前ら、何やってんだ?」
おっと、御者のオジサン忘れてた。
まぁ美女二人が抱き合っている光景を見れたんだから眼福でしょ。
え? 美女と幼女? シルダさん、やっておしまい!
いや、もちろん命令してないからね? その前にお屋敷に着いたし。
◇
「旦那様、お帰りなさいませ」
「パパー! お帰りー!」
「おぉー帰ったぞ! 我が愛しの天使!」
お屋敷の前には綺麗なご婦人と小学生低学年ぐらいの女の子が待っていた。彼女が噂の天使アイナちゃんか。
二人とも頭の上に可愛らしいケモ耳がある。さっき見た限りでは村人に獣人の姿はなかったから、この村でガイアスさん一家だけが獣人なのかな?
「聖女様。お話は伺っております。私はパリオルグ士爵が妻、エリリカと申します。先ずは領民の為、お力をお貸し頂けたこと感謝申し上げます。何もない所ですが、精一杯おもてなしをさせて頂きます」
ガイアスさんと天使ちゃんをスルーしてご婦人――エリリカさんがやって来た。うん、美女と野獣だね。一体どこから攫ってきたのかしらね。
「お構いなく。突然お邪魔するのですから、おもてなしは不要ですよ。家族団らんに少しだけ混ぜて下さい」
「――お姉ちゃんが聖女様?」
あら、天使さんがこちらへ来ましたね。ガイアスさんはもう良いのかな? ……ガイアスが泣きそうな顔でこっちを見てるんだけど。私のガイアス株が下がり続けてる。
「そうですよ。初めまして。私はカナと言います。天使アイナちゃんのことはガイアスさんから聞いてますよ」
私がそう言うとアイナちゃんは驚いた顔をして、ガイアスさんの方へ駆け寄った。照れたのかな? 可愛いねぇ。
「バカバカ!! パパの馬鹿! なんで聖女様に天使って言っちゃうの! 聖女様には天使じゃないってバレちゃうんだよ!!」
「ご、ごめんごめんよぉ。許しておくれ。あまりにもアイナが可愛いものだからつい言ってしまったんだぁ。それにパパの天使には違いないよぉ」
ごふっ、――こんなガイアスさんは見たくなかった。娘に弱いにもほどがあるよ。
ゴリマッチョの厳ついオジサンがデレデレで小さい子を宥めてる。お巡りさん、こっちです!!
「……聖女様、お疲れでしょう? ささ、中へ。お湯の準備もできていますよ」
ナイス、奥さん! ご主人の醜態をこれ以上晒したくなかったんだろうけど、私にとっても最良です!
「行きましょうカナ様、このままではカナ様の耳と目が穢れてしまいます」
シルダさん、正常運転ですね。ガイアスさんには特に厳しい気もするけど。
◇
エリリカさんに案内されて浴室へやって来た私とシルダさん。
もちろん浴室と言ってもタライにお湯が溜めてあるだけですよ。
貴族の家だから、もしかしてもしかすると! と、屋敷の外見を見たあとであってもその希望は捨てなかったのに。ちくせうッ。
まぁ、貴族の妻であるエリリカさんが案内してくれていたし、使用人の姿も見えないから貴族と言っても裕福ではないのでしょうけど。
お湯を用意してくれていただけありがたいです。ご飯にも期待しますよ。
「カナ様、お背中お拭き致します」
「あ、はい」
って、別に一人で良いんですけど?
あ、ダメ? 私の楽しみを奪わないで? えっと、すみませんでした。
私一人拭かれるのはフェアじゃないので、もちろんシルダさんを拭きましたよ。「カナ様にそのようなことはさせられません!」って嫌がるシルダさんに「では、今後は私も一人で汗を拭きますね?」と言ったところ、少しの葛藤のあと黙って拭かせてくれたよ。
……そこまでして私を拭きたいのか。