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力の見極めと防具の店

 マリスの店に入ると、既に彼女は起きていて、テーブルの上にはお茶の準備と磨かれた武器、ミハネが持ってきた、宝石の付いた黒い魔術書などを一つ一つ点検している最中だった。


「ちゃんと十分に休めたみたいね。じゃあ、始めましょうか」


「はい、よろしくお願いします」


「とりあえずあなたが今持っている力を色々知りたいわ。ちょっと外へ一緒に来てくれる?」


 そう言うとマリスは店から出ると、店先の通りから外れた障害物のない場所へとミハネを連れて行く。


「じゃあ、ここから街灯のある十字路まで”疾走”して帰ってきて」


「わかりました」


 ミハネはすぐさま駆け出す。歩いている町人を躱しながらスピードを落とさずに走り続けて街灯を見つけるとそこへめがけて強く飛び跳ね、その硬い鉄の柱を蹴り上げて折り返し、行きと同じように人を避けながらマリスの元へと戻ってきた。


「ただ速いだけじゃなく障害物をよける素早さも備えていると・・・なるほど。次はパンチ力かしら。あなたゴブリンパンチが使えるのよね」


「はい、木を倒せるくらいの力はあると思います」


「そう。じゃあ、ちょっと全力でここを殴ってみてくれる?」


 マリスは手のひらをミハネの目の前にかざし、構えるようにして体勢を整える。冗談には思えないマリスの態度にミハネは狼狽えた。


「え、でも、あのう、全力だとマリスさんが怪我を」


「大丈夫よ。私の体は木よりも硬いから。仮に吹っ飛んだとしたってうちにはいい薬が揃ってるんだから問題ないわ。いいからやりなさい」


 そう言われてもミハネは戸惑いを隠せなかったが、意を決してマリスの手のひらめがけて殴り掛かった。パァン・・!!!と乾いた破裂音と衝撃で耳が痺れそうになる。


「ふぅん、これはなかなか・・・」


 衝撃が直に伝わったマリスの右手は見かけこそ変わっていないが手首から不自然な方向に曲がっており、彼女がぶらぶらさせたところで指先はぴくりとも動かない。

 ミハネが真っ青になって駆け寄っていくと、マリスは涼しげな表情で


「気にすることはないのよ。むしろそれくらいの威力がないと困るの。生半可な気持ちでダンジョンにいっても生きて帰ってこれないからね」


 マリスは乾燥した月下睡蓮の花弁を手首にのせて呪文を唱えながら二、三度撫でると、花弁は青白い光を発して手首全体を包み込んだ。


「乾燥してもさすが月下睡蓮ね。属性を問わない純粋な回復術としてはかなり重宝出来る」


 マリスの指先が元のように動くようになったころ、花弁は光を失い散り散りになって地面に落ちるのだった。


「あとは魔術適正かしら。火・水・風、土の四つを”出現”させてみなさい」


 ミハネは言われた通りに手のひらに魔法陣を指で記した後、念じながら呪文を唱え、それぞれの四台元素を出現させた。火はマッチの先に灯るような小さなものから手のひらサイズのボールぐらいのものを出せるようになっていた。水はコップに半分ほど溜まるくらい。だが、風を起こそうとするとはるか遠くから押し寄せるようにして大風が吹き荒れると、砂を巻き起こしながら町中を駆け巡った。岩を出現させようとすると、砂埃のたつ大地から植物のようにポコポコと幾つもの小さな岩山が生えてくる。そこへ魔力を流し続けると、それはどんどん成長してミハネやマリスの身長を抜くほどの大きさとなった。ミハネが自分を見ていない間、こっそりとゴーグルを外しながら一連の流れを見て、マリスはしばらく考えていたが、


「まあまあね。ゆっくりとだけど確実に成長しているのは認めるわ」


 と曖昧な評価を下した。ミハネの背後からピリついた視線を受け取るが、マリスは呆れながら無視する。


(これはミハネの実力を測るテストなんだから、精霊の手助けが点に入るわけないでしょうが)


 もちろんその力を行使できるのであれば、ミハネの実力は格段に跳ね上がるだろう。けれども彼女はそれらの存在をはっきりと自覚したわけではない。ましてや目視することだってできないのだ。それをミハネ自身の力として認めることは、成長の妨げや過信に繋がるとマリスは考えていた。


「まぁ、大体貴方の力がどんなものかはわかったわ。武器はうちに置いてあるけど、まず防具を見に行きましょうか」


「でも、市場は午前中までですよね。一体どこで・・・」


「市場は観光客用よ。本当にいいお店はお昼からひっそりと始まるの。まぁ、初めましてのお客さんは大体門前払いされるけどね」


 大都市ラズダーザは色んな表情を持っている。だいぶ慣れたつもりだったのに、この町はまだ全貌を見せてくれてはいなかったようだ。多様性に満ちた人々を住まわせ溝や襞の間から零れる秘密の匂いで酔わせるように、見方を変えないと姿を現してはくれない何かは、訪れる人を次々と魅了し続ける。ミハネはどぎまぎしながらスタスタと歩くマリスの後ろをついて行った。


 その店は、表の大通りと魔術通りを繋ぐ細い路地の道程にあった。深いブルーに金色の縁取りが成された大きなドアには、装備やを表す鎧のシンボルが刻まれたプレートが貼られていて、ドアノブには”開店”を意味する言葉で綴られた木の板が紐でぶら下げられていた。

 そんなドアの奥に装備屋はマリスの言う通り、ひっそりと存在していた。真っ白な建物の隙間を塗って進むような道でったことと、深い緑やチャコールグレー、紺などの渋くて深い色合いの似たようなドアが幾つもあるためによくよく見ないと中々見分けがつかない。ミハネはこの路地にあるどの店にも正確に辿り着く自信がなかった。

 ノックもなしにマリスは店の扉を開けると、ずかずかと中に入って行く。ミハネもおずおずとそれに続いた。


「ダッソ、来たわよー!」


 マリスが大声で店の主を呼ぶと、奥からくぐもった声で返事が返ってきた。


「今行くよー。適当にその辺見てくつろいでってー」


 のんびりとした男性の声だ。マリスはその辺にある丸椅子を手に取りハンカチで埃を払うと、勝手に座ってくつろいでいる。ミハネは店の様子をきょろきょろと見まわしていた。天井から所狭しと中世の鎧や鎖帷子などが吊り下げられている。そのすぐ横には魔法使いが着用するローブや毛皮のコート、マントなどの布や毛皮でできたものがある。部屋の奥には素材となる様々な種類の金属の板や棒がぎっしりと並んでいて、それを裁断する機械が備えられている。鎧の関節部を滑らかにしたり、毛皮の毛並みを整える油の匂いや粉塵の所為か、店内は独特の匂いが充満している。床には何かの金属の破片や切りくずがそこら中に散らばっていた。雑然とした様子の店内だが、不思議と居心地は悪くないとミハネは感じていた。


 お待たせ、と言いながら体躯の良い大男がのっそりと姿を現す。ふぅ、とため息をつきながらマリスは椅子から立ち上がり、彼の傍へと寄った。二人が並ぶとまるで親子ぐらいの身長差がある。


「紹介するわ。こちらあたしの薬草の取引相手のミハネ。ミハネ、この人は防具の店の店主ダッソ」


「ミハネ、こんにちは。初めまして」


 くしゃっとした緑のくせ毛を簡単に後ろで一つに束ねている。瞳は明るいヘーゼルだ。ダッソは人懐っこい笑顔を向けて挨拶をしてくれた。


「初めまして。よろしくお願いします」


「そんなに緊張しなくていいよ。よろしくね。で、この子が今度初めてダンジョンに潜る子?」


「そう。だからちゃんとした戦闘用の装備を用意してあげたくてね」


 自然な流れでマリスとダッソは打ち合わせを始める。なれ合いではなく、真剣勝負で長年付き合ってきたのが分かるような緊張感が生まれたのを、ミハネは肌で感じ取る。


「そっか。体型からしてあまり上から下までがちがちに固めるのは良くないよね」


「さっき基礎的な力は一通りテストしてみたんだけど、素早さと回避力はなかなかのものなの。良さを殺してまで守備力を高めても仕方がないかなと思ってるわ。魔法も一応使えるからローブも考えたんだけど、そこまで守備力を無視して魔力を高めるのもなって感じ」


「なるほどね。じゃあ、部分的に気になる箇所をガードできるような装備がいいわけか」


「そうね、首から上は何とか出来るから、胸当てやアームガードのようなものを一式欲しいわ。素材はミスリル銀か、それよりも軽くて硬いものがあればそっちでもいいわよ」


「それじゃあ最近作った試作品なんだけど、試してほしいものがあって。それちょっと持ってくるから待ってて」


 ダッソは顔をほころばせながら奥の部屋へと入って行った。


「彼とは長い付き合いなの。ラズダーザ中で飛び切りの腕を持つ防具屋よ」


「試してほしいものがあるって言ってましたね」


「彼、重度の素材マニアだから、しょっちゅう新しい素材を使っては防具を作るのよ。宝箱に入っていたり、魔物の骨や毛皮、落としたアイテムなんかを買い取ってくれるから、こっちとしてもかなり助かってるの」


「魔物の骨や毛皮・・・?それってどういう」


 ミハネが言い終わらないうちにダッソは奥の部屋から戻ってきた。ミハネの防具はダッソが両手で包めるくらいに小さくまとめられている。それを机の空いている部分に置くと、ダッソは説明を始めた。


「今回作った防具は、ビーストボーンをまず型にはめ込んで、そこにミスリル銀を流し込んで作っているんだ。軽くて硬い魔物の骨が芯になっているから従来のミスリル銀の防具よりも重さを感じにくく、丈夫で曲がりにくくなっているんだ。ちょっと服の上から装着させてもらうよ」


 ダッソは手慣れた調子で胸当てを装着し、両サイドの金具をパチンと嵌めて固定する。次に肩に防具を乗せ、胸当てと連動する箇所にある金具を嵌める。どうやら装着しながら組み立てていくタイプらしい。動いてみて、と言われてミハネは肩を少し回してみる。思っていたよりも動きを防具に邪魔されることがなく、自由度の高い動き方ができそうだ。一つの防具を作るのにいくつかのパーツを繋いで作られている為、体に沿った可動が出来るのだ。


「大体体型はマリスとあまり変わらないって聞いていたから、後で微調整するつもりで作ったんだけど、これなら調整は要らなさそうだね。


 お腹周りをガードするビスチェと膝当て、手首と親指の付け根まで守れるアームガードを装着してみてダッソは満足そうに言った。


「ミハネさんどう?きつかったり重たいと感じるところはない」


「大丈夫です。重たいどころか、しっくりとしていてまるで何も身に着けていないような」


「それが一番大事なんだよ。合っている証拠だね」


 ダッソは手慣れた調子で防具を外していくと、ひとまとめにして紙の箱に入れていく。


「お代はどちらが払うの?」


「・・・初回だし、あたしが払うわ。その代わりこの子も今後贔屓にしてあげて」


「そんな、私払います!!」


 ダッソは請求書をミハネに手渡す。そこにはミハネが今見積もりを頼んでいるミルの村の家の数倍高い金額が提示されている。ミハネがびっくりして口をパクパクさせていると、


「ダンジョンに入るのに一番大事なことはね、命を守るための防具をケチらないことよ」


 こともなげにマリスは言った。

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