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和解

 ミハネの言う事には、巣の中に転がり込んで宝石を物色していたら、巣の持ち主の怪鳥に物凄く威嚇されたらしい。腰が抜けてしまい、動けなくなったところを食べられてしまうと思ったら、鳥は何故かミハネの後ろにいる何かに気づき、攻撃を止めたのだそうだ。それどころか急に態度を変え、こうして断崖絶壁の下まで送ってくれたという事だった。


「そうか・・・。説明ありがとうな、ミハネ。けどな、悪いんだがお前の言ってることがさっぱりわからないんだよな」


 ファリスは明らかに困惑した表情を浮かべている。そりゃそうだろう。長年一緒にいるヴェインですら、何が起こってもおかしくないと思えるようにはなったものの、ミハネの周りで何が起こるかという予測なんて全くできない。


「まず、なんであんな断崖絶壁を登ろうなんて思ったんだ?」


「え?えーっと、そこに崖があったから・・・」


「普通は登れないし登ろうとも思わないと思うんだが・・・。で、なんで鳥の巣に入ろうとしたんだ?」


「木に登って巣を見てたら、探していた石に似てるのを見つけたから!」


「ほぉー、いい返事だよなぁ・・・。で、その手の中にある本はなんだ?」


「その石を取ろうとしたらくっついてきちゃったんですよ」


「ヴェイン頼む説明してくれ。ミハネの言ってることがさっぱりわからん」


「安心しろ俺もわからん。こいつとはそういうもんだと思って付き合っていったほうがいい」


 ヴェインがそういうとファリスは長いこと思い悩んでいたようだが、やがて結論を出すことを放棄することにしたらしい。屋台でヴェインに説明したことをミハネにも説明を始めた。


「・・・というわけで、昼飯は私が作るしガキどもも集まってくるだろうから、昼食時に屋台に来てくれよな」


 それだけ言い残すと、ファリスは走って去っていった。ミハネが珍しく弱気になっていたのでヴェインがそれとなく聞いてみると、


「私、ファリスさんを怒らせてしまいましたか?」


 と泣きそうな顔で訴えてきた。初めてミハネから森での生活のことを聞いた時のことを思い出す。そもそも普通の生活をしていた娘ではないのだ。あの日、森での生活をどうしていたかをみんなに伝えるのは勇気が要っただろう。ミハネの中にも、人とは違う相容れなさを何処かで感じながら生きてきた部分もあるんではないだろうか。


「いや、あれはただ自分の中で話を消化しきれなくて困惑しているんだと思うぞ。あれだけ仲良くなったんだ。ころころ気が変わる奴でもなさそうだし、気になると聞いてみたらいい。きっと答えてくれるだろ」


 そう言うと少し安心したようだ。


「そうですね。今度から崖を登るときは一言伝えてからにしますね」


 そう微笑みかけるので、是非ともそうしてくれとヴェインはミハネに頼んだ。



 屋台で待っていると、ファリスに連れられて4人の少年がやって来た。皆少し拗ねたような顔で不貞腐れている。


「ほら、お前らヴェインとミハネに謝りな」


 ファリスはそう促すが、皆、明後日の方向を向いて口を聞こうとしない。だんだん不穏な空気が渦巻きだし、ミハネとヴェインは少々居心地の悪さを感じてきた。


「俺は嫌だぞ。この女、俺の二輪車を壊したんだから。弁償しろよ弁償」


 一番年上っぽい少年がミハネに噛み付いた。ボロボロでつぎはぎだらけの車体だったが、それでも自分なりに大事にしていたという。


「そんな大事な二輪車使ってなんで盗みなんかするんだよ」


 ファリスが呆れて口を出す。


「いえあの、すみません、二輪車は良かったら弁償しますから」


「よかったらじゃねぇんだよ。壊したら弁償は当たり前だろ!!」


「何偉そうに言ってんだコラ!」


 今度はファリスと少年が言い争いを始めた。もはや何を言っても埒が明かない。ぎゃあぎゃあと暴れる少年たちを、ミハネは懐かしそうに眺めている。


「これを言ったらヴェインさんには怒られるかもしれませんが、私たちが出会ったときのヴェインさんてこんな感じで怒っていましたよね」


 それを聞いて彼はひどくばつの悪い想いをする。あの頃は目に見えるすべてが気に入らなくて、自分でも不思議なくらいに荒れていた。自分と世界との歩幅がまるで合わなくてちぐはぐで、気持ちが悪かった。そのくせ体力だけは持て余していて、そのエネルギーを全て怒りに変えていた。

 多分少年たちもそうなんだろう。自分と同じで居場所がないわりに力を持て余している。


 ヴェインはしばらく少年たちがファリスに殴られているのを眺めていたが、ファリスとミハネに席を外してもらうよう頼んだ。ミハネとファリスは互いに目を見合わせたが、食事の用意をしようかとその場を離れて行った。


「上から目線で偉そうに説教垂れんじゃねぇぞ」


 そう言うと少年たちはヴェインを威勢よく威嚇していたが、彼女たちが去ってしまうと途端に勢いを無くしてしゅんと押し黙った。


「女の子には聞かれたくなかったんだろ?」


 ヴェインがたずねると彼らは小さく・・・ッス。と呟いた。


 それから少年たちの言い分をじっくり聞いてみると、現状への不満や客の態度の悪さ、自分たちの不甲斐なさが愚痴になってつらつらと出てきた。他の物言わぬ少年たちも真面目な顔をして頷いている。


「自分達でも他に何かやりようはあるだろうっていうのはわかってるんすよ。こういう憂さ晴らしではなくて、自分の力が試せるみたいなやつがあればやったほうがいいとは思うんですけど、ここにはそれがないんすよ。客には見下されてるし親には呆れられるし。ファリスの姉貴にだって迷惑かけちまってる。一体どうしたら、男らしくなれるんですかね。俺ら、情けなくって」


 ヴェインには彼らの気持ちが痛いほど理解ができた。かつて自分が通った道を今彼らはもがきながら進もうとしている。


「君らは将来、どういう自分になって行けたらいいとか考えた事があるか?」


 え、と言ったきり、少年たちは絶句した。

 ここミズガル国には美しい海と自然がある。人が営んでいる村がある。けれども、教育や親から教わる生き方の姿勢のようなものはなく、その日暮らしでこの先の未来を見せてくれることはない。少年たちが抱えている焦燥感や無価値感はここから来ているのだろう。


「とりあえず、今よりも強くなって稼げるようになりたいっすね。それぐらいしか思いつかない」


「だよなぁ。偉そうに言っときながら俺だって君らに進言できるような力はねぇよ。向いていることが見つかったのもここ最近だしな」


「いや、いいんすよ。俺ら、なんか煮詰まってしまって。どうしても吐き出したかったんで」


 話がちょうど落ち着いたところでどん、どんと大皿が置かれた。蛇の様な形の生き物をぶつ切りにした煮つけと塩焼き、十ツ足と似た足の形をしているピンク色の坊主頭の生き物は塩ゆでと薄切りのカルパッチョになっている。


「兄さん、これうまいっすよ。八ツ足とナワウオ。まだ食ったことないなら是非!!」


「また魔物みたいな・・・」


  そう言いかけたが、八ツ足は十ツ足とは違った弾力があってぷりぷりとした歯ごたえがくせになる旨さだったし、ナワウオは見た目とは違ってふわりとくちどけがよく、あっさりとした味わいでいくらでも食べられた。朝食べていないせいもあるのか、ミハネも無言で黙々と口に入れている。腹がはち切れそうになるまで食べてしまうと、少年たちは


「ありがとうございました。話を聞いてもらえてよかったっす」


と言って去っていった。表情が変わったな、とファリスは小さくなっていく少年たちをずっと眺めていた。


「ヴェイン、ありがとな。色々力になってくれたみたいでさ」


「いや、俺は話を聞いただけだし。本当は力になってやりたいんだけどな」


 二人してしみじみしていると、ミハネが唐突に話し出した。


「そうだ、ファリスさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「どうした?」


「あの、村の奥のほうにあった石像って、いったいいつぐらいに建てられたものなんですか?」


「あれはニヴル、ニダヴェル、ムスペルの三国がこの国の自然の美しさを称えたいと共同制作したものだと聞いている。今よりもずっと海が穏やかだったころだな。もう十年近く経つか」


「あの像のモデルとかっているんでしょうかね」


「モデル・・・。どうだろうな。何か気になるのか?」


「崖の上に泉が湧き出ていて、そこで会った精霊とよく似ていたんです」


 ミハネがそういうと二人ともしばらく沈黙していた。また何言ってるかわからないっていわれるかなぁと彼女は不安そうにしていたが、ファリスがまず重たい口を開いた。


「そうか・・・。実は私も、何度か同じような背格好の子を海辺で見かけたことがあってな」


 村の子供たちはよく浜辺に集まって遊ぶ。ときには旅行客が連れてきた子供や、集落から抜け出して寂しさから仲間に入れて欲しいと言ってくる子もいる。だから、子供たちはいつも何処の誰かなんて気にはしなかった。一つ二つ、年月が過ぎるにつれ集落は消滅してしまったのだろう。客足も遠のいたことで家族連れも減った。だから、その子がいつから姿を現さなくなったのか、誰も知らないし、もう覚えていないかもしれない。


「どういう因果があるか、はたまた全く無関係か。そこまではわからんがな」


 続いてヴェインも初日に見た夢の話をした。みつけてほしい、かえしてほしいと訴えていたこと。


「精霊さんは姉に会って欲しいと言っていたんです。それで、もしかしたら石像と何か関係があるのかなって思ったんですけど」


「・・・それもまた、ミハネの不思議な感覚がモノを言う話なのか?」


「そうなると思います。確か、魔物の中には石化現象を起こす者も居たはずで。石化をどうやって戻すのかもわからないんで、いったんラズダーザに戻ってマリスさんに相談しないといけないんですけど。変だって思いますよね。けれども、崖に登ってから起こったことすべてが変だし不自然なんですよ。このくっついてくる魔導書だってどうにかしたいですし」


「なるほどな。石像が石にされた人間か精霊かだというんだな。仮にその者が石化から解かれたとして、どこへ返せばいいんだろうな」


 話はいったんそこで途切れた。霧雨程度だった雨は先ほどから激しくテントを打ち付けるほどになっていた。

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