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生きたい

 三虎ミハネは生まれつき心臓が弱かった。母親の胎内にいる頃、既に心臓に穴が開いているのがわかっていた。そのうえ未熟児で生まれたために、常に一刻の余談も許さない状態が続いた。

成長してからも、心身に負担をかけることは許されず、運動はおろか、外へ出ることも難しい状況だった。その為、ミハネには自分の家で何かをしていた記憶はない。

白く清潔で無機質な病院で、窓の外を眺めるか、本を読んだりゲームをするのが常だった。


 だからと言って、両親兄弟が彼女を無碍に扱っていたわけではない。

両親はできうる限り時間を割いて家族の時間を作り、

二つ上の兄も、時に友人を連れて見舞いに来た。

愛情と心遣いにあふれた会話は彼女の心を潤し、

絵本や児童書や漫画、ゲームの世界は、彼女の知的好奇心を刺激した。

 

 想像の世界が教えてくれる外の世界はとても眩しかった。

風を切って走ることも、草木や土の匂い、海の広さ、

人との関わり、例えば友情や恋愛など、どれも経験することができないことだったけど、

そんな世界があるのだという事実が、ある種の彼女の救いとなっていた。


 ミハネが特に夢中になったのは、モンスターや魔王、勇者などが出てくる異世界奇譚だった。

主人公が強くなればなるほど行動の幅が広がっていき、初期の頃にはまるで歯が立たなかった相手でも、パーティーを組んで作戦を練ることで状況を突破できるようになったり、新しい大陸、新しい出会いがあることにとてもワクワクした。


 産まれた頃から、後半年、もって二年、なんとか五年・・・と先延ばしになっていた寿命は、

彼女が14歳になり状態が安定しだした頃から、いつから外に出られるか、という話に変わっていった。

希望の光が見えてきたことに、ミハネ自身はもちろん、家族も期待した。


 自体が暗転したのは、梅雨の時期にミハネが軽い風邪を引いたのがきっかけだった。

軽い熱と咳が長引いたことで、もともと低かった抵抗力が落ちてしまい、徐々に状態は悪化していった。

なんとか心臓を保たせようと投与した薬の副作用によって肺がダメージを受けてしまい、菌の増殖に伴って彼女は危篤状態に陥った。


 つい一週間前までは病人にすら見えないほど明るく笑う少女だったのに、今は苦悶の表情を浮かべながら、点滴を打たれ人工呼吸器によって酸素吸入し、ところどころからチューブが繋がっている。意識の朦朧としている様子は、もはや別人のようだった。

心電図のモニターに移された数値が、徐々に低くなっていく。


 これからだと思っていた。もう病気は去ろうとしていて、これから自分の本当の人生が始まるんだと思っていた。勉強して、恋愛して、旅行や、社会人経験もして。

それらはすべて想像の中の出来事で、ミハネの頭の中から砂のように消え去ろうとしていた。


 私はもう死ぬんだろうか?ミハネは自分の手足の感覚がなくなってきていることに気づき始めた。

嫌だ。まだ死にたくない。そう口に出そうとして声帯が機能していないことがわかる。

どうして?まだ、家族にだって何も返せていないのに。


 今際の際、ミハネは父の初めて聞く咆哮と、母の嗚咽、兄の自分を呼ぶ声を聞きながら涙を滲ませた。


”生きたい”


 そう願った瞬間、体が羽のように軽くなるような気がした。

 

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