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バリーの過去と魔物の今昔

 若かりし頃、バリーはその頑強な肉体を活かして北のニヴル国で一攫千金の生活を夢見て北上した。あの頃は西の国も栄えていたし、餞別にと特殊な加工を施した武器や防具まで揃えて送り出してくれた。

 ツテも何も持たずに身一つで訪れたニヴルで、まず行ったのは魔物退治専門ギルドの登録だった。この頃は主に北方で野生の魔物が頻発し、民家や移動中の馬車を襲うなどの被害が相次いでいた。そこでニヴル国は国策として魔物退治専門のギルドを打ち立て、倒した魔物の数や強さによって相応の報酬と称号が与えらえた。

 魔物を倒すようになりバリーはめきめきと腕を上げた。手持ちの剣に物足りなさを感じ、様々な武器を試す余裕も出てきた頃、大剣に出会った。

 大剣はその特性から一撃が重く、強い腕力と技量を要する武器だ。当たれば一撃必殺だが、振り下ろしたところで敵が避けると隙ができやすく返り討ちに会いやすい。帯刀しているだけで目立つが、好んで使用する者はいなかった。調子づいた若造が自己顕示欲に駆られて使ってみる道具、ぐらいの位置付けだ。

 ところが、大剣を手にしたバリーは水を得た魚のように生き生きと武器を使いこなすようになる。集団で襲い掛かる魔物の群れを大剣を横一文字に振り抜き一瞬で全滅させる。民家の屋根ほどもある巨大な魔物を屋根の上から飛び降りて真っ二つに切り裂く。敵からの攻撃には大剣を立てて身を護った。片手でも軽々と大剣を扱えるようになると、その重みが心地よいとすら感じるのだった。

 一番下位の鉛の称号から始めたギルドだったが、気が付けばマスタークラスの金の称号を持つまでにバリーは成長した。

 その頃、ニヴル国は国民を襲おうとする魔物を駆除するだけではいずれは国が滅ぼされかねないと危惧し、魔王討伐へと踏み切った。そのメンバーの一人にバリーは選ばれた。


 もう、20年以上も昔のことだ。


 目の前の少女は緊張した面持ちで何かを話そうとしている。無理に話すなとは言ったが、やはり、森でどうやって生活していたのかは気に掛かっていた。たった6歳の女の子が一人で森で4年間も過ごすなど、どう考えても不自然なのだ。森には薬になる草や実も多くあるが、反面毒になる物だって沢山ある。生き物の種類によっては獰猛な性格の獣だっているだろう。それをどうやってやり過ごしていたというのか。それも、定期的に森の点検に入っていた守衛団にもわからないように。

 様々な可能性について考えを巡らせたが、最適解にすらたどり着かない。バリーは諦め、努めて穏やかに見えるよう、口角を少し上げて少女の発言を待った。


「私は6歳までミルの村にいて、魔物を見たことがなかったです。だから、魔物は怖いと思っていました」


「魔物は怖いものよ。私も昔、この国へやってきたときに襲われたことがあるもの。もう遠い昔のことだけれども・・・」


 リンデル魔物の恐ろしさを思い出して身震いした。そう、昔は魔物というと人間を見ると襲い掛かるような化け物だったのだ。今とは違って国境を越えるのにも魔物が出るのを警戒して護衛の為のギルド登録者が付いたものだ。いつどこで、何故襲ってくるのかわからない。それが魔物だった。ところが、ここ数年、目立って被害を及ぼすような魔物はいない。魔物の仕業を装って旅行者を襲う者はいるが、素性を明かせば人間が山賊をやっていたという報告もある。

 ヴェインには、魔物がどれだけ恐ろしくて害を与えてきたかという話を幼い頃から聞かせていた。子供の頃など俺も勇者になる!!と張り切って稽古に励んだものだが、最近は難しい年ごろの所為か、口数も少なく稽古にも身が入っていない。息子といる間、ついに魔物が襲ってくることはなく、悪い魔物を倒す父親を見せることは叶わなかった。


「でも、私が出会った魔物たちは、違ったんです。聞いてください。・・・凍えるような冬の夜に助けてくれたのは、森の主のラヴィでした」


「・・・ラヴィとは?」


「えっと、ヴィジュ・ヘアーという種類のウサギで、300年くらい生きているから、ヌシさんて呼ばれていました」


 ヴィジュ・ヘアーとは絶滅危惧種の貴重な品種だ。毛皮や皮膚から生えてくる鉱石を求めて乱獲する輩が後を絶たず、数年前から違法な繁殖によってペットとして販売されているのを摘発されたりしているが、野生種は存在が確認されていない。それがまだあの森にいたとは。それにしても300年だと?バリーは眉を顰める。あの種類は、長生きして4,5年の寿命の小動物だからだ。

 少女は話を続ける。ラヴィに連れられ大樹の根元にある家で介抱された事、起きたらゴブリンとスライムが居て、草を食べさせられたこと。それで食中毒から回復したこと、一年間を通じて過ごし方を教わったこと。魔物と対峙していながら、剣も魔法も必要ないファンシーな世界観が邪魔をして中々頭が付いて行かない。


「それで、最近になってラヴィが何者かに襲われてしまって、重症だったんです。それを治すのは魔王様ぐらいしか無理だから、魔王城にお願いしに行って」


 待て待て待て。魔王?魔王城?この子が?バリーはそう口を挟みたいのをぐっとこらえた。ほかの二人も目を丸くしていたが、目で制して続けてもらった。


「なんかセメントみたいなのを飲んで、月下睡蓮という花をもらって帰ってきたんです。傷は治ったんですがラヴィは死んじゃいました・・・。それでそのまま寝てしまって、気が付いたらここにいたんです」


 長い沈黙が続いた。皆、話が想像力の域を超えすぎていて話についていけていない。やっとのことで口を開いたのは、ヴェインだった。


「魔王城に行ったっていうけど、北のニヴル国のふもとだろ?行くとしてもかなり時間かかるだろ?どうやって行ったんだ」


「あ、走ってです」


 走って!?と三人は同時に声を上げた。


「ラヴィの真似をして走ってたらなんだか早く走れるようになって。数時間くらいで行けましたよ」


 お互い顔を見合わせながら、今度はリンデルが質問する。


「魔王城の周りは瘴気が濃くて普通の人間なら近づけないはずよ?どうやって行ったの?」


「森には瘴気を治す草があって、それを食べながら行きました。森には毒とか麻痺とか、状態異常に効く草が沢山あるって沢山教えてもらったんです」


 ミハネが話し終えると、沈黙が辺りに流れた。なんという濃厚な人生をこの子は歩いてきたのだろう。話だけ聞くとなかなか悲惨だが、でてくる魔物たちは皆この子を大切に扱っている。


「ミハネちゃんは、もしかしたら森が魅せられて匿っていたのかもしれないわねぇ。ほら、昔からあるじゃない。見えざる者から愛された子は神隠しに遭うって。そんな感じだったのかしらね。けれども、本当に無事でよかったわ」


 彼女の話を皆が受け止めてくれたという事を悟ったのか、ミハネは泣きそうな顔で笑っていた。


「それで、今後ミハネはどうしたい?色々聞かせてくれないか?」


 バリーが声を掛けると、ミハネは少し考えてから、ぽつりぽつりと自分の考えを言った。


「あの、一度森へ戻って、お世話になったルーファスとロメロに会いに行きたいんです。話もしないまま出てきちゃったから、きっと心配してると思う」


 ラヴィがどうなったのかも気になるし、今後どうしていきたいかを伝える必要もあるだろう。


「あとはミルの村を少し見てみたくて。それから、出来たら私、学校へ通いたいんです。アルファベットや簡単な単語はわかるんですが、文章になるとさっぱりわからなくて・・・。何かいい方法はありますか?」


「そうねぇ、この辺りは子供が少なくなってるから、ほぼ廃校になってしまって、余裕のある家庭だと家庭教師を付けたりしているわね。国の城下町まで行けば、ちゃんとした校舎のある学校はあるけど、それなりにまとまったお金が必要なの。基礎的なことで良かったら、私が時間を作って教えてあげる」


「ありがとうございます!」


「俺も教えるよ。ちょっと前まで姉ちゃんに勉強を教えてもらってたんだ。国語も必要だけど、計算とかも必要だろう?」


「ヴェインさんも・・・いいんですか?」


「いいよ。その代わり後でそのすごく速い走りっていうの、見せてくれないか。何か戦いの参考になるかもしれないから」


「お安い御用です!」


 食事も話し合いも無事に終わり、リンデルは教会での奉仕活動へと戻っていった。

ヴェインとミハネも話の通り走るために外に出た。先にヴェインは出てしまい、ミハネが後に付いて行こうとしたとき、バリーはミハネを引き留めた。


「ちょっと訪ねたいんだが、いいかな」


「はい。大丈夫ですよ」


「その・・・・魔王の事なんだが・・・」


 バリーは口をつぐむ。勇者たちとパーティーを組み、討伐に向かっていた頃の思い出が蘇っては消えてゆく。あの時自分がした選択が正しかったのかどうか、未だに答えが出せていなかった。だが、この少女を見て思う。ここ何年も魔物が町や人を襲うことなく一つのところに留まっているのは、あの時の選択が正しかったと思っても良いのかもしれないと。


「元気そうだっただろうか」


「うーん・・・ちょっと顔色は悪かったですが、偉そうでした。でも、とても親切で可愛がってもらいましたよ」


 時折ミハネはニュアンスを大きく外した発言をする。この時もおそらくは”まるで身分の高い人のようにふるまっていた” というべきところだったのだろうが、色々と間違ってしまったようだ。バリーもそれを何となく感じ取り、苦笑した。


「そうか、偉そうだったか。そりゃあいい」


「少しだけさみしそうでしたけどね」


「そうか・・・。いや、それだけだ。引き留めて悪かったな」


 ミハネはにっこり笑って走って行った。

教会の裏手で約束通り、ミハネはヴェインに”疾走”するところを見せた。四つん這いになって走り回るのがずいぶんと久しぶりの事のように感じられた。ヴェインはミハネが風のように走り去り、見えなくなっていくのを見て、すげぇ・・・と呟いた。俺の中にも、何か自分だけの特技が眠っているんじゃないだろうか。そう考えると、父のようになれないわだかまりが、少しだけ晴れたような気持ちになるのだった。

 見えなくなったと思ったのも束の間、フェルトでできたロングスカートがところどころ擦り切れ伸びきってしまい、泥だらけになって泣きながら走って帰ってくるミハネを見て、こうしてみるとちょっとあほな只の女の子なのだがとヴェインはひとりごちるのだった。

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