─ 序 ─
庭園の木々を照らす日は高く、その下に零れる光が薄緑の影を伴ってきらきらと輝いていた。
吹き抜ける風がそれらを揺らし、踊らせる。
乾暖季の空は青く高く、無言で対峙する二人の心とは裏腹に、どこまでも爽やかだった。
ゼグは暫く俯いていたが、遠くで鳥が鳴いたのを機に、ゆっくりと顔を上げた。
拳は強く握り込まれたまま。眉間に刻まれた皺も深く、眦は憤りに赤く染まっている。
瞳に滲むのは、憤怒なのか悔恨なのか、シュエには判別できなかった。
あるいはその両方なのかも知れない。
「従騎士の務めも果たせなさそうな小娘が、シュエルバ姫の体で生きながらえるとは、恥を知れ」
ゼグの低い声が、侮蔑の響きを宿してシュエに向けられる。
そう告げずにはいられない心情は痛いほど理解できるが、許せるかは別だ。
相手が憧れた騎士であるならば、なおさらシュエの心は強い落胆を覚えた。
「──その言葉、侮辱と受け取りました。決闘を申し込みます」
「なに?」
シュエの言葉に、ゼグが僅かに目を見開く。
そんなことを言われるとは微塵も思っていなかったという態度が、シュエの怒りを後押しした。
ゆっくりと鞘から剣を抜き、切っ先をゼグに向ける。
「決闘を申し込みます」
怒気の込められた声音と眼差しに気圧されるように、ゼグの手が腰に佩いていた剣の柄にかかる。
それでも握ることを躊躇った指先を咎めるように、シュエは再び口を開いた。