憧れのあの人に
「うわぁぁぁぁん!振られたぁぁ……でもやっぱり好きぃぃ…うわぁぁぁぁん」
この状況オレにどうしろというのだろうか。見た目より大きい彼女の胸に顔をを埋め、頭が真っ白になりながらオレはそう考えていた。
それは突然の出来事だった。いつも通り悠希を訪ねてきて楽しそうに談笑していたはずの彼女が、オレの部屋に飛び込んで来たかと思うとベットに背中を預けて本を読んでいたオレの頭を抱きしめて泣き出したのだ。
回想を終えたオレは読んでいた本を投げ出し、息が苦しいと彼女の腕をタップして抗議する。すると彼女ははっとして、腕の力を緩めてくれた。その隙を逃さず彼女の腕から逃げ、ちょっと紅くなった頬を隠しながら泣き止んだ彼女に怒鳴る。
「な、何するんだよいきなり!」
「え?……………ひっく…ひっく…ごめんね…お姉さん|に振られたショックで…ひっく…うわぁぁぁぁん」
彼女、篠原美空さんの言葉にズレた考えだとしてもショックを受けてしまう。男として見られて無い…。
「えっと…美空さんって…その…お、女の人がすきなんですか?」
「ち、違うよ!悠希さんが女の人って知ったのはさっきだし、普通だよ!ふつ…う…ぐすっ」
一瞬引いた涙がまた溢れそうになっている美空さん。
「あー!あー!冗談ですって!格好いいっすもんね!姉貴」
「うん…かっこいい」
と、そこに悠希が入って来る。
「悠希…お姉ちゃん」
「っ!?……やっぱりここに居たか。ごめんね美空、まさか伝えてなかったとは思ってなくて。本当にごめん!」
一瞬何かを堪えるように詰まった悠希だったが、気を取り直して申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんなっ!?大丈夫です!だから頭を下げないでください!」
「そうかい?よかったぁ。泣かせちゃって頭が真っ白になってたからね。安心したよ」
悠希は苦笑いでもさまになる。美空さんは頬が紅くなっていた。くやしい
その後、悠希のこんなところではなんだからと失礼な評価を甘んじて受けとり、リビングに場所を移したオレたちは楽しく談笑した。
「あ、そろそろ帰らなくちゃ。すいませんもっと色々話していたいんですけど」
「あははっ!大丈夫!また今度話そうね。家まで送ろうか?」
「いえいえ!そんな!大丈夫!大丈夫です!」
焦った美空さんは持ってきていた鞄を背負うと玄関に走って行った。顔を見合わせるオレと悠希。
「またね?気をつけて帰るんだよ?」
「はい………っ!あの!」
「ん?なあに?」
「あの…友達のままでも良いですか?………それとお姉様って呼んでも…いいですか?」
「もちろんさ!呼び方は……まあ、いいけど…」
「ありがとうございます!それじゃっまた来ますね!」
美空さんはそれはもうとびきりの笑顔で帰って行った。
「今の笑顔、どっちだろうね」
「そんなの友達の方…であってほしいけど……どうだろう。そ・れ・よ・りぃ、僕のことお姉ちゃんって呼んだでしょ?」
「っ!?そ、それは」
「んっふっふっふぅ。分かるよ分かる、光輝は美空に粗暴なところを見せたくなかったんだよねぇ?だから、僕のこと呼び捨てた後慌ててお姉ちゃんってつけたんでしょ?」
悠希はオレの顔を覗き込みながらからかってくる。オレは恥ずかしくて顔を背けてしまった。
「ま、本当にお義姉様って呼ばれるのを楽しみにしてるよ♪」
「ん?もう呼ばれて……ねえ?今なんかニュアンスおかしくなかった?ねえ!」
「んふふふふ♪さあ?」
悠希は機嫌良さげに去っていった。
半年後、オレは美空さんに告白して付き合うことになるんだけどそれはまた別の話。