第8話【新たな王子様誕生】
体育祭の最終競技、クラス対抗リレーで1位となり、みごと総合優勝を果たした週明けの月曜日。
クラスでは、目を疑うような出来事が起きていた。
なんと、郡司ブーム……郡司フィーバーがやってきたのだ!
分かりやすく全女子生徒のハートを射止めてしまった『ゴリ王子』こと郡司は、他のクラスの同級生だけではなく、三年生の先輩や一年生の後輩からも休み時間毎に呼び出され、写メやSNSのID交換を求められ大忙しだった。
あの日のお礼も言えないまま、悶々と不機嫌極まりない顔をしていると、
「どうしたの陽菜? 犯罪者みたいな顔しているぞ?」
「──ヒドイから! ヒドすぎるから、美穂ちゃん!」
席に座ると彼女は郡司フィーバーを一瞥し、わたしの事を舐めるように見てこう言った。
「なんだか、おもちゃ取られた子供みたいだなぁ? もしかして……恋に落ちちゃったとか?」
そう聞かれ、ふてくされ顔で首をゆっくり捻って見せる。
「あの時は、すっごいすっごいカッコよく見えたけど、今の郡司はなんかムカつく……」
ぶうぶう言うわたしに美穂ちゃんは、気怠げな感じで本心をついてきた。
「それってヤキモチじゃね? てかあんなのされたら、誰だって普通に惚れると思うけどね」
「だってゴリだよ? 原人だよ? モアイだよ? 絶対おかしいよ……」
「でも陽菜……耳まで真っ赤じゃん」
言われて気づく自分の体温。確かに痛く感じるほどに、熱くなっている……。
「言っとくけど、郡司って元々近い奴らからは、結構人気あるからね?」
「っへ? それって?」
「アイツ……ああ見えてすごい人の事見てるし、気遣いとかさり気ないんだよ。実際アタシも何回か、アイツの言葉に救われているしね」
「ええっ! 美穂ちゃんが⁉」
こんなに大人の美穂ちゃんを、あの郡司如きから何回も救っていたなんて有り得ない。
っと疑うも、わたしはカラオケでの一件を思い出していた。
確かにあの時、わたしも郡司の言葉や気遣いに救われたのだ。
突然湧き上がる歓声。
なにやら郡司を取り囲む、即席ファンクラブの彼女達が甲高い声で騒ぎ始めた。
「えー何それ? 郡司君ってキャンディー持ち歩いてるの? かぁわいいぃ!」
『えーちょうだい、ちょうだい!』
「申し訳ない。コレは俺のじゃないんだ。だから……すまない」
人のクラスまで来て、なんて騒がしいのだろう。
悲しいかな……フツフツと黒い憎しみが、わたしの中で沸き上がってくるのを感じる。
「そういえば……郡司って、なんでいつもキャンディーばっか、持ち歩いているんだろ。郡司が食べているところを見たこと無いし、人にあげている記憶もないんだけど」
「ああ…………あれね。陽菜さぁ、覚えていない? 入試の時なんだけど」
「入試? この学校の? なんかあったっけ……」
「まあ覚えてないよね……。入試テストの時間中アタシらの隣の席でさ、マスクつけて苦しそうに咳してたヤツなんだけど」
マスクをつけた風邪の人? 居たのかなぁ……。
ポクポクポクポクポクポク………………チーン!
その時わたしの脳内で、記憶の鈴が鳴り響いた。
「いた! 横にいた! ずーっと咳して苦しそうにしてた人。…………あれ、まさか郡司⁉」
わたしの答えに、静かに頷く美穂ちゃん。
「それからこの学校に入って、アタシは美術部で郡司と再開したんだよね。っで入試の時の話になって、あの時キャンディーをくれた子は? って聞かれて──」
「それ、わたしだ! そうだ、わたしキャンディーあげたんだ。…………あれ、郡司だったんだ。でも、それと郡司がキャンディー持ち歩くのと、つながらないんですけど?」
謎だ。謎すぎる郡司。
「それは郡司が言うには、咳が止まらなくって苦しんでいたところ、テスト時間の合間に陽菜が紙に包んでキャンディーをくれたんだって。っでその紙には『ツラい時にナメると楽になるヨ? お大事に~』ってメッセージが書いてあったって……」
書いたっけ? 全然覚えてないよぉ。
「それで入学式で陽菜を見かけて、いつかお返しできたらって……。それからずーっと誰かさんにあげる為だけに、持ち歩き続けているんだって。奥手というかチキンというか……まあ、サッサと持ってこいって話だよねぇ」
「なにそれ? じゃあ郡司は入試の時のお返しにって、ずーっとずーっとキャンディー持ち歩いてたの? 一年の時なんてクラスも違うじゃん。接点ある訳ないのに……⁉ ────まさか! 郡司って、わたしの事を好きなの?」
ビックリして立ち上がり尋ねるわたしを、ニヤニヤしながら頷く美穂ちゃん。
そうだったんだ……だからあの時郡司は、わたしにキャンディーをくれたんだ。
ツラい時って、そういう意味じゃないし……てかもぅ、なんなのアイツってば!
ズルいよぉ……。
「どうしよう、美穂ちゃん。ドン引きするくらいキモい話なのに、わたし……泣きそうなくらいに嬉しいって思っちゃってるよぉ」
何が楽しいのか、小さな頷きを繰り返し満面の微笑みで見てくる美穂ちゃん。
だが、鋭い目つきで郡司の方に視線を向けると、やり手の占い師ばりに鋭い未来予測をお告げしてきた。
「でもアイツ…………早々に彼女デキちゃうかもね?」
そうなのだ! もうゴリでもモアイでも原人でもない郡司は、すっかりモテキャラ扱いなのだ。
「さっさと告っちゃえばいいじゃん」
「無理だよ、そんな勇気ないよ! それに郡司が……わたしを好きだって思ってくれてるんなら、待ってればそのうち……」
「一年十ヶ月もの間、行動を起こせなかったチキン郡司が? ちょーっと厳しいかもねぇ……想像つかないわ」
「かなぁ……。それにアレだけモテモテなら、違う子に惹かれるかもだもんね……むぅぅ」
意気消沈するわたしに、美穂ちゃんが真剣な顔で諭すように話しだす。
「アタシが言う事じゃないけど……陽菜? シンデレラも、舞踏会に行きたいと思って行動したから、幸せになれたんだぞ? 一回くらい頑張ってみなよ」
「うううぅぅ、分かってるけどぉ……言えないよ。絶対に恥ずかしくって、パニクっちゃうもん! それにシンデレラは、魔法使いが応援してくれたじゃん。一人じゃシンデレラも、勇気出なかったと思うよぉぉ」
「────だったらアタシが、陽菜の魔法使いになってやる!」
そう言うと美穂ちゃんは、化粧ポーチからアイライナーを取り出し、とある言葉をわたしの手の平に書き連ねだした。
書き終えると彼女は、わたしの両手を外側から包むように握りしめ、強い口調で後押ししてくる。
「この魔法が効くのは、次のチャイムがなるまで。あとは陽菜……アンタ次第だよ?」
どうしよう……。
クラス対抗リレーの時より、心臓がバクバクいってる。
──────だけど!
「美穂ちゃん。わたし……いってくる。うまくいく様に祈ってて!」
すると彼女は、「頑張ってこい!」と言って右手を開き、コチラへと突き出してきた。
すべてを理解しハイタッチで気合を入れると、わたしは真っ直ぐ郡司へと向かっていく。
つい数日前まで、他の人が好きだったクセにって思われないかな?
体育祭で、ヒーローになっちゃたからって思われないかな?
不安と怖さが入り混じり、指先まで震えているのがわかる。
逃げ出したい恐怖心に揺らぐけど、他の誰かに渡したくないから……。
わたしの魔法使いがくれた勇気を手に、全力を振り絞って彼に伝えるんだ!
「ぐ、郡司。イエスなら、わたしに……キャ、キャンディーちょうだい?」
緊張から、一世一代のセリフを噛み倒すわたし。
彼の周りにいる女の子達が、クスクス笑いを溢して訝しげに睨んでくる中。
わたしは彼に向かって震える両手を差しだし、ゆっくりと開いて見せる。
『好きです。つきあってください!』
そう書いてくれた魔法の言葉に、あらん限りの想いと祈りをこめて…………
「灰かぶり姫に憧れて……」は、これにて完結です!
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!




