表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰かぶり姫に憧れて……  作者: はるあき夢逢
8/8

第8話【新たな王子様誕生】

  

 体育祭の最終競技、クラス対抗リレーで1位となり、みごと総合優勝を果たした週明けの月曜日。

 クラスでは、目を疑うような出来事が起きていた。

 なんと、郡司ブーム……郡司フィーバーがやってきたのだ!

 

 分かりやすく全女子生徒のハートを射止めてしまった『ゴリ王子』こと郡司は、他のクラスの同級生だけではなく、三年生の先輩や一年生の後輩からも休み時間毎に呼び出され、写メやSNSのID交換を求められ大忙しだった。

 あの日のお礼も言えないまま、悶々と不機嫌(きわ)まりない顔をしていると、

 

「どうしたの陽菜? 犯罪者みたいな顔しているぞ?」

「──ヒドイから! ヒドすぎるから、美穂ちゃん!」

 

 席に座ると彼女は郡司フィーバーを一瞥(いちべつ)し、わたしの事を舐めるように見てこう言った。

 

「なんだか、おもちゃ取られた子供みたいだなぁ? もしかして……恋に落ちちゃったとか?」

 

 そう聞かれ、ふてくされ顔で首をゆっくり(ひね)って見せる。

 

「あの時は、すっごいすっごいカッコよく見えたけど、今の郡司はなんかムカつく……」

 

 ぶうぶう言うわたしに美穂ちゃんは、気怠(けだる)げな感じで本心をついてきた。

 

「それってヤキモチじゃね? てかあんなのされたら、誰だって普通に惚れると思うけどね」

「だってゴリだよ? 原人だよ? モアイだよ? 絶対おかしいよ……」

「でも陽菜……耳まで真っ赤じゃん」

 

 言われて気づく自分の体温。確かに痛く感じるほどに、熱くなっている……。

 

「言っとくけど、郡司って元々近い奴らからは、結構人気あるからね?」

「っへ? それって?」

「アイツ……ああ見えてすごい人の事見てるし、気遣いとかさり気ないんだよ。実際アタシも何回か、アイツの言葉に救われているしね」

「ええっ! 美穂ちゃんが⁉」

 

 こんなに大人の美穂ちゃんを、あの郡司如きから何回も救っていたなんて有り得ない。

 っと疑うも、わたしはカラオケでの一件を思い出していた。

 確かにあの時、わたしも郡司の言葉や気遣いに救われたのだ。

 

 突然湧き上がる歓声。

 なにやら郡司を取り囲む、即席ファンクラブの彼女達が甲高い声で騒ぎ始めた。

 

「えー何それ? 郡司君ってキャンディー持ち歩いてるの? かぁわいいぃ!」

『えーちょうだい、ちょうだい!』

「申し訳ない。コレは俺のじゃないんだ。だから……すまない」

 

 人のクラスまで来て、なんて騒がしいのだろう。

 悲しいかな……フツフツと黒い憎しみが、わたしの中で沸き上がってくるのを感じる。  

 

「そういえば……郡司って、なんでいつもキャンディーばっか、持ち歩いているんだろ。郡司が食べているところを見たこと無いし、人にあげている記憶もないんだけど」

「ああ…………あれね。陽菜さぁ、覚えていない? 入試の時なんだけど」

「入試? この学校の? なんかあったっけ……」

「まあ覚えてないよね……。入試テストの時間中アタシらの隣の席でさ、マスクつけて苦しそうに咳してたヤツなんだけど」

 

 マスクをつけた風邪の人? 居たのかなぁ……。

 ポクポクポクポクポクポク………………チーン! 

 その時わたしの脳内で、記憶の鈴が鳴り響いた。

 

「いた! 横にいた! ずーっと咳して苦しそうにしてた人。…………あれ、まさか郡司⁉」

 

 わたしの答えに、静かに頷く美穂ちゃん。

 

「それからこの学校に入って、アタシは美術部で郡司と再開したんだよね。っで入試の時の話になって、あの時キャンディーをくれた子は? って聞かれて──」

「それ、わたしだ! そうだ、わたしキャンディーあげたんだ。…………あれ、郡司だったんだ。でも、それと郡司がキャンディー持ち歩くのと、つながらないんですけど?」

 

 謎だ。謎すぎる郡司。

 

「それは郡司が言うには、咳が止まらなくって苦しんでいたところ、テスト時間の合間に陽菜が紙に包んでキャンディーをくれたんだって。っでその紙には『ツラい時にナメると楽になるヨ? お大事に~』ってメッセージが書いてあったって……」

 

 書いたっけ? 全然覚えてないよぉ。

 

「それで入学式で陽菜を見かけて、いつかお返しできたらって……。それからずーっと誰かさんにあげる為だけに、持ち歩き続けているんだって。奥手というかチキンというか……まあ、サッサと持ってこいって話だよねぇ」

「なにそれ? じゃあ郡司は入試の時のお返しにって、ずーっとずーっとキャンディー持ち歩いてたの? 一年の時なんてクラスも違うじゃん。接点ある訳ないのに……⁉ ────まさか! 郡司って、わたしの事を好きなの?」

 

 ビックリして立ち上がり尋ねるわたしを、ニヤニヤしながら頷く美穂ちゃん。

 そうだったんだ……だからあの時郡司は、わたしにキャンディーをくれたんだ。

 ツラい時って、そういう意味じゃないし……てかもぅ、なんなのアイツってば!

 ズルいよぉ……。

 

「どうしよう、美穂ちゃん。ドン引きするくらいキモい話なのに、わたし……泣きそうなくらいに嬉しいって思っちゃってるよぉ」

 

 何が楽しいのか、小さな頷きを繰り返し満面の微笑みで見てくる美穂ちゃん。

 だが、鋭い目つきで郡司の方に視線を向けると、やり手の占い師ばりに鋭い未来予測をお告げしてきた。

 

「でもアイツ…………早々に彼女デキちゃうかもね?」

 

 そうなのだ! もうゴリでもモアイでも原人でもない郡司は、すっかりモテキャラ扱いなのだ。

 

「さっさと告っちゃえばいいじゃん」

「無理だよ、そんな勇気ないよ! それに郡司が……わたしを好きだって思ってくれてるんなら、待ってればそのうち……」

「一年十ヶ月もの間、行動を起こせなかったチキン郡司が? ちょーっと厳しいかもねぇ……想像つかないわ」

「かなぁ……。それにアレだけモテモテなら、違う子に惹かれるかもだもんね……むぅぅ」

 

 意気消沈するわたしに、美穂ちゃんが真剣な顔で(さと)すように話しだす。


「アタシが言う事じゃないけど……陽菜? シンデレラも、舞踏会に行きたいと思って行動したから、幸せになれたんだぞ? 一回くらい頑張ってみなよ」

「うううぅぅ、分かってるけどぉ……言えないよ。絶対に恥ずかしくって、パニクっちゃうもん! それにシンデレラは、魔法使いが応援してくれたじゃん。一人じゃシンデレラも、勇気出なかったと思うよぉぉ」


「────だったらアタシが、陽菜の魔法使いになってやる!」

  

 そう言うと美穂ちゃんは、化粧ポーチからアイライナーを取り出し、とある言葉をわたしの手の平に書き連ねだした。

 書き終えると彼女は、わたしの両手を外側から包むように握りしめ、強い口調で後押ししてくる。

 

「この魔法が効くのは、次のチャイムがなるまで。あとは陽菜……アンタ次第だよ?」

 

 どうしよう……。

 クラス対抗リレーの時より、心臓がバクバクいってる。

 

 ──────だけど!

 

「美穂ちゃん。わたし……いってくる。うまくいく様に祈ってて!」

 

 すると彼女は、「頑張ってこい!」と言って右手を開き、コチラへと突き出してきた。

 すべてを理解しハイタッチで気合を入れると、わたしは真っ直ぐ郡司へと向かっていく。

 

 つい数日前まで、他の人が好きだったクセにって思われないかな?

 体育祭で、ヒーローになっちゃたからって思われないかな?

 不安と怖さが入り混じり、指先まで震えているのがわかる。

 逃げ出したい恐怖心に揺らぐけど、他の誰かに渡したくないから……。

 

 わたしの魔法使い(しんゆう)がくれた勇気を手に、全力を振り絞って彼に伝えるんだ!

 

「ぐ、郡司。イエスなら、わたしに……キャ、キャンディーちょうだい?」

 

 緊張から、一世一代のセリフを噛み倒すわたし。

 彼の周りにいる女の子達が、クスクス笑いを溢して(いぶか)しげに睨んでくる中。

 わたしは彼に向かって震える両手を差しだし、ゆっくりと開いて見せる。

 

『好きです。つきあってください!』

 

 そう書いてくれた魔法の言葉に、あらん限りの想いと祈りをこめて…………

 

「灰かぶり姫に憧れて……」は、これにて完結です!

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ