第4話【カラオケにて】
そしてカラオケ当日……事件が起こる。
「だからシツコイって! 陽菜、ゴメン。アタシ帰るわ」
そう言うと美穂ちゃんは、カラオケ代にと二千円を手渡し、部屋を飛び出していった。
「ちょっと、待ってよ桑原さん! 源人わりぃ立替えといて? 矢杉さんもゴメン、また明日」
矢継ぎ早にそう言い残し、美穂ちゃんの後を追っていく川内クン。
わたしと郡司は突然の事に、呆気に取られてその場から動けず、ただただ見送るしかできなかった。
なんでこんな事に?
ことの発端は川内クンが、美穂ちゃんに唄う曲を進めたのが始まりだ。
何故か川内クンは、美穂ちゃんの好きなバンドとかアーティストに詳しく、彼の唄った曲も全部そうだった。
会話もそのバンドのアルバムとかアーティストの話で、詳しくないわたしは頷くだけ。
そうなると知っているであろう、美穂ちゃんにばかり話かけていく。
きっと彼女はわたしに気遣ってくれたのだろう。川内クンが話しかけてきても美穂ちゃんは、言葉数少なめに話を切り上げて、話題を変えようとしていた。
それに気づかず同じ話を続けるもんだから、どんどん変な空気に……。
挙げ句に川内クンは美穂ちゃんにと勝手に曲を予約して、「これ、桑原さん好きでしょ? 唄ってよ?」とマイクを渡したけど、美穂ちゃんは気分じゃないからと断った。なのに川内クンは「良いじゃん、聞かせてよ?」と再プッシュ。
そうして美穂ちゃんは爆発してしまった。
なんでこんな事に……あまりに空気読めなさすぎでしょ。
「…………そっか。川内クンって、美穂ちゃんが好きなんだ」
不意に出た言葉だったけど、妙に納得してしまった。
ああ……そうなんだ。マジですかぁ……わたしの恋のライバルは、美穂ちゃんなのですかぁ。
「恒星が桑原をか……知らなかったな」
そういえば郡司……あんた居たんだ。存在忘れてたよ。
「そして矢杉さんは、恒星の事を好きだったのか……」
どれだけ直球ですか! てか顔に似合わず察し過ぎでしょ?
むしろゴリならではの、野生の勘ってヤツですか⁉︎
「そうか。あの桑原が、用もなく誘ってくるから変だと思っていたが、矢杉さんを応援したくってって考えれば理解だな……」
「ねね? わたしが川内クンの事、好きって言ってない」
好きでいて良いのか分からないけど、少なくともこのまま郡司なんかに、わたしの気持ちを知られたくない。
すると郡司はおもむろに、棒付きキャンディーをわたしに差し出してきた。
「すまん。赤の他人が勘ぐる事じゃないよな? 忘れてくれ。これは詫びだ。辛い時は甘い物を食べると、少し気分が楽になるらし──」
「────だからっ! 好きとか言ってないじゃん。なんで勝手に決めつけて、慰めようとすんのよ? ツラいとか意味わかんないし!」
「だって、矢杉さん。………………泣いてるから」
その言葉に驚き、自分の顔に手をあて確認する。
──嘘でしょ?
わたしは指で受け止めれない程、めちゃくちゃ涙が溢れ出ていたのだ。
「辛いよな……。好きな相手が、自分じゃない誰かを見ているのって……」
なんなの? 郡司のクセに、郡司のクセに……!
ここがカラオケルームで良かった。
だって……ビックリするくらいの大声で、泣きだしちゃったと思うから……。
多分、二時間くらいかな?
郡司は何も言わず、ずっと一緒に居てくれた。