第2話【学校にて】
「うううぅぅ、今日も川内クンがカッコいいよぉぉ。物語の王子様みたく、わたしの事を迎えに来てくんないかなぁ……」
心の吐露が止まらないわたし。
もうかれこれ十ヶ月。なんの進展もなく、彼の事を見つめ続けているのだから仕方がない。
「だーから、ヤメときなって? あんな色白もやし」
「色白もやしって美穂ちゃん! たった今、全校の女生徒を敵に回したよ⁉」
お弁当を食べ終わり、昼休みの教室。
頬杖ついて悪態をつくのは、中学の時からの親友で桑原美穂ちゃん。
すっごい大人っぽい雰囲気の彼女は、かなりのモテモテさんで、クラスが変わる度に毎回数人からコクられている。
だけど、ぜーんぶ断っているのです。
しかも断り方が、「アタシ……車持ってない男とは、付き合った事ないんだよねぇ」とか、「遊びに? クルージングとかなら、行っても良いかなぁ」って、そんな高校生が居るだろうか?
かといって、お金持ちなら良いのか? というと、そうでもない。
つい先日、そこそこ有名な会社の御子息に声かけられた時には、「自分で稼いだお金以外で誘われてもね?」っと断わったていた。結局誰が誘ってきても行く気が無いのだ。
そんな彼女は陰口で『ビッチ』呼ばわりされているが、むしろビッチで上等と全く気にしていない。
ここまでくれば、アッパレだとわたしは思う。
「てか美穂ちゃんは、川内クンを見て何も思わないの?」
「川内? うーん…………そもそも魅力を感じない。顔も趣味じゃない」
「んまぁぁぁぁ……美穂ちゃん! 一回眼科に行ったほうが良いよ。絶対視力悪いよ」
「いやいや、アタシ両目共に2・0だし」
「だったら美穂ちゃんは視力が悪いんじゃなく、好きになる人の趣味が悪いんだね?」
この暴言に美穂ちゃんは、細くてキレイな指を大きく広げ、わたしのこめかみを鷲掴む。
「ゴメン美穂ちゃん! 謝るから! 無言でアイアンクローはヤメてぇぇっ‼」
わたしの魂に叫びに、舌打ちしながら手を離す彼女。
ジンジンするコメカミ……痛みが少しでも早く引くよう、一生懸命両手で擦ってみる。
でも引かない……。
「てかさ……川内の誰でも優しいって態度が、嘘くさくって好きじゃないんだよね。だったらまだ、川内のツレの方が好感持てるよ」
「川内クンの友達?」
美穂ちゃんの視線の先を追う。
「………………って、まさか郡司⁉ めっちゃゴリだよ? てかオジサンじゃん⁉」
美穂ちゃんが言っている川内クンの友人とは、郡司源人のこと。
人間離れした身長に、すっごい彫りが深い顔立ちなので、みんなからは『モアイ』とか、名前の源人からかゴリっぽいからか『原人』と呼ばれからかわれている。しかも大量のキャンディーを常備しているのに、食べもしないし欲しいと言われてもあげないという謎の人なのだ。
「いやぁ無いから! 流石に美穂ちゃん、無いから!」
「陽菜、言い過ぎだって。てか郡司って川内と仲いいんだから、フォローしてもらえば良いじゃん?」
「ムリだよ! てか郡司と接点ないし……。それに好きとか知られるの、恥ずかしいじゃん」
生えてもいないウサ耳の代わりに、左右の前髪を両手で撫でおろし、照れくささを誤魔化してみる。
すると川内クンが郡司の胸辺りに、顔を近づけて……何かを探し始めた。
「みーなと……なんか甘い匂いしない?」
「甘い? ああ、コレだろ。新商品らしくってな。買ってきたんだ」
「えー、すっごい美味そうじゃん。いいなぁ、一個ちょうだいよ?」
「すまん。コレは予約済みなんだ。スマンな恒星……」
そう断られると川内クンは唇を尖らせ拗ねてみせる。
てか、キャンディーの一つや二つあげろよゴリっ!
ああぁぁ……わたしがお菓子持ってたら、いくらでも川内クンに差し出すのになぁ。
鞄の中をまさぐるも、クッキー一つ見つからなかった。……自分の愚かさを呪わずにいられない。
「ってか、なに? ホントに郡司と川内クン、仲いいんですけど!」
「だから言ってんじゃん。てか気づかなかったの? それだけ川内ばっか見ていて?」
「うん……むしろ川内クンを見たいのに、郡司邪魔だなって思ってたくらい」
苦笑いを浮かべる美穂ちゃん。
うーん、コレはありなのか? 確かに昔の偉い人は『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』と言ったし、王子のハートを射止めるなら、先ずはゴリか⁉
「やっぱり美穂ちゃんのアイデアに乗っかろうかなぁ……。今のままだとモブ壱号から昇格しなさそうだし、だったらワラじゃないけど、ゴリでも掴んでみよっかな」
流石に調子に乗りすぎたらしく、わたしの頬を摘み悪態を諌められる。
確かにこれからお願いしようって思っている相手の事を、冗談でも悪く言うのはダメだよね。
わたしは反省した気持ちを込め、美穂ちゃんに大きく頭を下げて見せた。
そんなわたしに態度に、小さくため息を溢しつつ、頭を軽く小突く美穂ちゃん。
「でも、どうしよう。郡司なんて川内クン以上に絡んだ事無いのに、いきなり間を取り持ってなんて言えないし」
「うーん……じゃあ陽菜の気持ちは伏せて、一回軽く遊びに行ってみたいって感じで、郡司に話振ってみるよ。どうせ部活で会うし」
「マジっすか! ………………って郡司も美穂ちゃんと同じ美術部なの⁉」
「うん。アイツああ見えて、結構繊細なの描くんだよね。中学の時には入選した作品を、区役所だかに飾らた事とかあったはずだし」
「ちょー意外だぁ。人は見かけによらないね。でも……本当にお願いしていいの? 美穂ちゃんそういう面倒なの好きじゃないじゃん?」
「まあ今回はアタシから振った話だし、陽菜も頑張って見ようって言うなら、応援くらいしてあげたいじゃん」
「美穂ちゃんマジ神! 美穂ちゃんが男の子だったら、わたし絶対惚れてるよぉ」
「はいはい、ありがとうありがとう。まあ上手くいくか分かんないけど、どうなったか後で連絡入れるよ。てか、あんま期待すんなよ?」
「ううん、する! 失敗しても文句は言わないけど、ガンちゃんに美穂ちゃんが昨日掃除サボった事チクる」
鬼の形相で美穂ちゃんは、わたしの額を再度鷲掴んできた。
今度は必死に謝っても、中々離してくれなかった……ううぅぅぅ。
ガンちゃんはウチらのクラス担任であり、美術部の顧問で美術の教員なのです。
美穂ちゃんは言わないけど、きっとガンちゃんの事が好きなんだと思う。
てか、見てれば分かる。
いつもクールで気怠い感じの美穂ちゃんが、ガンちゃんと話す時は声のトーンが上がり、凄いウキウキしているのが伝わってくるのだ。
でもわたしは気づかないフリをする。だってその恋は美穂ちゃんにとって、大切にしたい想いなんだと思うから……。
ちょっと寂しいけど、何でも言い合えるのが親友じゃないしね。
聞かない優しさ気づかない優しさっていうのも、友情の一つと思う。




