第1話【カガミよカガミ】
午前五時三十分。
わたしはシャワーを浴び、カガミに向かう。
そして魔法使いが振るう杖の代わりに、マスカラや口紅を使ってお姫様に変身するのだ。
大好きなあの人に、わたしを選んでもらう為に……。
時間は……八時二十分。
いつものコンビニで外の様子を伺いながら、スマホで最終チェックを入念に行う。
髪の毛良し、まつ毛も目元も良し、リップは……大丈夫。
────来たっ!
急いでコンビニを出ると、乗ってきた自転車を押しつつ息を整える。
そして小さくこぶしを握り気合を入れ、『好きになれ、好きになれ!』って願いながら声をかけるタイミングを見計らう。
「──おはよう、川内クン」
「あー矢杉さん、おはよう。十月になっても、まだまだ暑いよねー?」
顔を手で扇ぎながら、屈託ない笑顔を見せる。
彼は、川内恒星クン。二年のクラス替えで一緒になったんだけど、端正な顔立ちもさることながら身長にも恵まれ、尚かつ物腰の柔らかい喋り方をする彼に、わたしはいつの間にか惹かれていた。
彼女がいない事は、親友の美穂ちゃん情報で得ている。だけどライバルが多い……。
その風貌から『王子』と女子から呼ばれている彼は、入学当時からイケてると周りから揶揄され、近寄ってくる女子も告白してくる女子も後が立たないのだ。
そのくせ…………、
「ねぇ、じゃんけんしよ?」
そう言って毎朝会う度に、じゃんけんを持ちかけてきては、
「うわっ、負けちゃったよぉ。じゃあ自転車貸して?」
っと、学校までの坂道を押して行ってくれるのだ。
しかも勝ったら勝ったで、「やりぃ! じゃあ自転車貸してね?」っと、結局運んでくれる。
こんな事されたら、誰でも好きになっちゃうと思いませんか?
てかむしろ、わたしの事……好きなんじゃって思うよね?
だけど、王子のコレは違うって分かっている。
王子はひたすら優しいだけなのだ。