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曖昧になる妄執(ゆめ)と現実(いま)の境界線④

暫し呆然と、無惨な姿に変わり果てた『男子生徒であったモノ』を見つめる光流達。


余りにも突然のこと過ぎて、今彼等の目の前で鮮やか過ぎる赤をぶちまけ転がっているのが先程まで話していたあの男子学生だとはーーー況してや、眼前に広がるこの地獄絵図が現実だとは、如何しても思えないのだ。


だが


「い・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


目の前で繰り広げられた酸鼻極まるこの光景が、間違いなく現実のものであると彼等の頭が理解したその瞬間、その事実に耐えきれなかったのか、楓が絹を裂く様な悲鳴を上げる。


彼女の鋭い悲鳴に、まるで魂が抜けたかの様に呆然としていた光流もはっと我に返るや


「そ、そうだ!通報!通報しないと!それに救急車も!」


そう口にすると、男子学生を追う為席を立った際、そのまま持ってきていたスマホのダイヤル画面を開き、震える指で警察の番号をタップし始める。


けれど、焦りに震えーーーしかも、未だ冷や汗に濡れたままの彼の指では思う様にダイヤルキーをタップすることが出来ず、まるで彼を嘲笑うかの様に時間だけが無情に過ぎ去っていく。


と、不意に、そんな彼の耳に届く、パトカーのサイレンの音。


「えっ・・・?」


まさか、誰かが先に通報してくれたのかーーー?


光流がきょろきょろ辺りを見回してみると、その手に持ったスマホをまるで手を振る様に光流に向けてひらひらと振っている、後方の葉麗と目が合った。


「・・・結城・・・何時の間に・・・」


彼女が神出鬼没なのは何時ものことだが、今回は一体何時光流達に合流したのか。


あの男子学生が自転車に跨がった時までは、確かにテラス席で優雅にドリンクを楽しんで居た筈なのに。


まさか、瞬間移動の様な妖術でも使っているのかーーー?


光流は其処まで考えると、「いや、やっぱり考えるのは止めておこう」と思い直す。


そもそも彼女の存在自体がそうである様に、この世界には幾ら人間が頭を捻っても答えが出ない様な疑問や秘密が沢山存在するのだ。


それに、何より今はそんな事を考えている場合ではない。


目の前で人がーーーしかも、同じ学園に通う学生が死んだのだ。


根底に、例えば『白蛇の祟り』の様な、どんな超常現象が在ったとしても、今目の前で起きた事は紛れもない『交通事故』である為、警察が到着するまでは誤って何かに触れたり、現場を荒らしてしまったりしない様、細心の注意を払い、その場で警察の到着を待つ光流。


すると、やはり何時の間にやら・・・気付かぬ内に光流の隣に移動した葉麗が、光流と、地面に派手に撒き散らされた男子生徒だったモノを交互に見つめながら、ふと呟いた。


「・・・これで、この方も白蛇の祟りを信じざるを得なくなりましたね。まぁ、もっとも・・・もう、今では何も聞こえてはいないでしょうが」


そう静かに口にした彼女の瞳は、目の前に凄惨な死体が転がっているにも関わらず、まるで真冬の今にも凍り付きそうな湖の様に冷たくーーーそれでいて、何処までも静謐で、彼女という存在が今までどれ程の死線を潜り抜け、数多の『死』に触れてきたかを光流に思い描かせる。


と、彼女はその静かな眼差しのまま、光流を見上げると、やはり眼差しと同様静かな声で告げた。


「・・・残念ですが、あの学生は、白蛇の怒りに触れてしまったのです。ですが・・・これで、分かりましたか?今、貴方がどれ程危険な存在に魅入られているのか、が」


葉麗のその言葉に、大きく・・・限界まで瞳を見開くや、声もなく膝からその場にがくりと崩れ落ちる光流。


(・・・そう、だった・・・)


そう、元はと言えば、最初に白蛇の祟りの話をしていたのは光流達であって、あの名前も知らない男子生徒は、それを小耳に挟んでちゃちゃを入れて来たに過ぎないのだ。


確かに、あの生徒は少し言い過ぎたし、やり過ぎたかもしれない。 


だが、それでも、ちょっとした悪戯心でちゃちゃを入れた結末が、まさかこんな凄惨なことになろうとは。


一体誰が思い付いただろう。


そして、ほんの悪戯心で踏み込んできた者ですらこの様な最期を遂げるのならばーーーその白蛇の祟りとも言われている夢を見た張本人である自分は、これから如何なってしまうのか。


(如何考えても、昔話みたいな良い話になんかなりっこなさそうだ・・・)


膝をついたまま、大きな溜め息を一つ吐き出す光流。


すると、丁度其処に警察が到着し、トラックの運転手や光流達目撃者に話を聞きながら事故の時の実況見聞が始まる。


だが、光流達にとって大変なのは此処からであった。


カフェの外で男子生徒を待っていた、彼の友人達は事故をしっかりと目撃していたのだがーーーなんと、事もあろうに、光流達がトラックに向けてあの男子生徒を突き飛ばしたと言い出したのである。


「はぁぁぁっ?!」


まさに藪から棒、光流達にとっては青天の霹靂とも言える男子生徒の友人達の証言に、慌てて反論する楓や光流達。


けれども、彼等と男子生徒が激しく言い争っていたのを見たという一般の客まで現れる始末で、遂に光流達は警察署まで連行され、事情聴取を受ける羽目になってしまったのであった。

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