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曖昧になる妄執(ゆめ)と現実(いま)の境界線②

すると、光流達の隣で彼等の話を聞いていた華恵が「そう言えば」と前置きをした上で、光流達に話し掛けて来る。



「去年のセミナーは新潟でしたが、今年の開催地は何処になるのでしょう?」



彼女のその疑問に、「確かに」と頷く光流達。



夏期のセミナーは毎年行き先が違うので、皆非常に気になっているのだ。



「去年の新潟はさ?お風呂の後の自由時間に食べたお米のアイスや笹団子、超美味しかったよね~。今年も、何か美味しいものがある場所が良いなぁ」



観光は出来ないけどホテルの食事はご当地が誇る食材がふんだんに使われてるから嬉しいんだよねぇーーー。



学力向上の為のセミナーだということも忘れ、未だ見ぬ食材達に思いを馳せながら瞳を輝かせる楓を見遣り、苦笑いを浮かべる光流。



「おいおい、僕達は食い倒れに行くんじゃないんだぞ?」



光流は未だ期待に瞳を輝かせたままの楓を、やんわりとそう嗜めるが、光流のそんな言葉等何処吹く風で、楓の夢という名の食欲と妄想は徐々に大きく膨らんでいく。



と、まるでそんな彼女の望みを断ち切るかの様に



「残念ながら、今年は志賀高原にある夏季休業中のスキー客用のホテルを貸し切って行う。昨年のような、一歩ホテルを出れば土産屋が沢山並んでいる観光地とは違い、近くにあるのは雪のないゲレンデと湿原だけだぞ」



日之枝がすっぱりとそう言い切った。



日之枝のその発言に、絶望のあまり膝から床に崩れ落ちるや、両手で頭を抱え、「神よ!」と叫び出す楓。



そんな、余りにもやっすい絶望と、それに反比例した・・・まるで、さも自分が悲劇のヒロインであるかの様な深い嘆きの淵に沈んでいる楓に光流はついつい突っ込みを入れる。



「って、絶望安っ!!!グルメがないとそんなに絶望するの、お前?!」



しかし、楓は突っ込んだ光流を即座に振り返るや、親の仇でも見ているかの様な物凄い眼差しで彼を睨み付けながら一気に捲し立てた。



「当たり前でしょ!!毎日勉強勉強!明日も勉強明後日も勉強!しかも平均して一日十時間位勉強漬けの毎日で、何か楽しみが無かったら私死んじゃう!!もしかしたら生きたまま干からびるかもしれないよ!!」



真顔で先程より更に磨きのかかった阿呆なことをぬかす楓に最早脱力し、がっくりと肩を落とす光流。



(でも、楓なら・・・グルメがなかったら本当に干からびるかもしれないな・・・)



ふとそんなことを考えるとーーー薄暗いホテルの部屋の中、テスト用紙に己の血で『アイス』と書いたものを握り締めながら、エジプトのファラオのミイラの如くかっさかさに干からびてお亡くなりになっている楓を想像し、その余りの嫌な絵面に力なく頭を振る光流。



(・・・勉強のやり過ぎでミイラになって死亡なんて嫌すぎる・・・)



だが、この極度に勉強嫌いな友人ならば有り得ない話ではない為、ちょっと死んでないか毎日気を付けて彼女に声かけでもしてやるかーーー光流がそう考えると同時、彼の前に立っていた日之枝が口を開く。



「楽しみになるのかは分からんが、我々が宿泊する志賀高原の『白蛇(はくじゃ)(がはら)』周辺は可愛らしいオコジョが沢山生息しているらしいぞ?」



日之枝の言葉にぱぁっと瞳を輝かせる華恵やクラスの女生徒達。



まぁ、可愛らしいものに興味がある盛りの花の女子高生としては放ってはおけない話だろう。



「絶対カメラ持って行かなくちゃね」やら「餌とかホテルで売ってるのかなぁ?」とオコジョトークに花を咲かせる女子を尻目に、光流と楓は全く違うことを考えていた。



普段悩むこと等ない楓が見せる苦悩の表情。



彼女は、その苦しみに満ちた表情のまま、目の前に立つ日之枝や、隣にいる光流、親友である華恵等をぐるりと見回すと、やおら非常に苦悩に満ちた声で彼らに問い掛ける。



「・・・オコジョって・・・・・・美味しいのかな?」



「喰うな。っていうかそもそも喰おうと思うな。第一な、オコジョってのは準絶滅危惧種らしいぞ?捕まえた瞬間、お前のが捕まるわ。止めとけ止めとけ」



手をひらひらさせながら、膠も無くそう告げた光流の言葉に、ぷくぅと頬を膨らませ、分かりやすく拗ねる楓。



光流は、そんな彼女に苦笑を浮かべながら、頭では全く別のことを考えていた。



(・・・白蛇ヶ原・・・・・・)



そうーーー光流は、セミナーの目的地の名前が如何しても気にかかっていたのだ。



(・・・・・・白い、蛇・・・)



良くないことではあるが、彼がつい先程まで授業中に居眠りをしていた時見た夢の中にも白い蛇が登場した。



そして、今、日之枝から告げられた目的地の名前が白蛇ヶ原だというーーー。



(・・・これは、果たして偶然、なの、か・・・?)



顎に手をやり、考え込む光流。



彼が引っ掛かっていることは、他にもある。



光流の夢の中に出てきた純白の少女ーーーー彼女は確か、言っていなかったか?



『・・・私は貴方を待っています。私を・・・私達を、この百年の因果から解き放ってくれる力を持つ方を。ですから・・・どうか、私を忘れないで・・・。そして、必ず会いに来てくださいね』と。



夢に出てきた白蛇、直後に聞いた白蛇ヶ原という名前、そして何より『待っている』というあの白い少女の言葉。



全てが、『偶然』と呼ぶには余りによく出来すぎている。



そう考え込む光流の目の前に、突然差し出された大きめのパンフレット。



「白蛇ヶ原が気になっているのだろう?ほら。これが、その白蛇ヶ原という所だ」



相も変わらず愛想ゼロでそう言いながら、ずいっと日之枝が差し出したパンフレットを受け取り、「ありがとうございます」と答える光流。



一番目につく上部にでかでかと真っ赤な飾り文字で『ようこそ!白蛇ヶ原へ!』と書かれたそれは、恐らくホテルとの仲介をしてくれている旅行代理店が持ってきたものなのだろう。



すると、ぱらぱらと、まるで雑誌を読んでいるかの様にパンフレットのページを捲っていた光流の指があるページを開けた瞬間、ぴたりと止まる。



「・・・此処、は・・・・・・」



そこには、見開きで大きく、今最新のパワースポットして注目されている『縁結びの樹』の写真が載っていた。



白蛇ヶ原を見渡せる小高い丘にあるというその樹は、まるで二匹の巨大な大蛇が互いに絡み合っているかの様に、白い二本の巨木が絡み合っておりーーーその姿は、まさに、光流が夢で見たご神木そのものだったのだ。



その写真を見た瞬間、光流は確信する。



理由は分からないが、自分はこの白蛇ヶ原の地に『呼ばれている』と。

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