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清廉道化(2)

 佳人(フェア)シルフィ。

 ユウゼンの生まれたオズ皇国の東に位置する小国、マゴニア王国の王女の事を、貴族たちはそう呼んでもてはやしていた。

 病弱という理由から社交界には姿を現さないにも関わらず、その美貌は各国に噂されていたのだ。


 まあそれだけならそこまで好色でないユウゼンにはなんの関わりもなかったはずだが、この幻のような王女が、先日突然オズ皇国の王宮を訪れた。

 急な出来事に、彼女が出席した舞踏会はいつにも増して人が集まり、皆驚きをもって噂の事実を認めることとなる。

 

 マゴニア王国第一王女、シルフィード・フリッジ・テンペスタリ。

 朝の輝く森の緑を表現した、シルヴァグリーンの衣装を身に付け、柔らかそうなブラウンの髪を結い、濡れた緑の瞳をした絶世の美少女。


 華奢で、透明に白い肌や優しげで清楚な姿が、ユウゼンの心を奪った。

 文句なしにかわいい。

 本気で、一目ぼれだった。


 といっても、そんなシルフィード殿下にお近づきになれるかどうかは別問題だった。

 ユウゼンは一応これでもオズ皇国の第一皇子という冗談のような身分で、国自体もマゴニア王国の十倍は広く、豊かだ。

 これで次期皇帝の素質とか才能があれば上から目線でいけることは間違いない。


 そしてユウゼンはというと、なんということでしょう────素質がなかった。


 正直言って、ゼロだった。

 そもそもやる気がなかった。

 しかもあんまり愛想よくなかった。

 むしろ遊び人だった。

 政務とか学問とか適当にやってた。

 次期皇帝とか弟のカラシウスがやればいいのにと思ってた。


 結果、冗談交じりについたあだ名がカカシ皇子(ユウゼン・オブ・スケアクロウ)だ。兄弟とは思えぬ顔よし愛想よしの弟カラシウスが言い出したのだが、不名誉極まりない。

 おかげで第一皇子にも関わらず、ユウゼンはあまり褒められた評判ではなかったわけで。

 自業自得だが、シルフィード王女も別の優秀な貴族やカラシウスのような好青年に興味を持つのだろうとほとんど諦めていた。

 だが、いた。

 そう。神様が。

 

『あの、ユウゼン様。以前からお会いしてみたいと思っておりました』


 なんと挨拶は抜きにして、個人的にシルフィードが話しかけてくれたのだ! 

 王女はユウゼンがこよなく愛する文化や芸術といった娯楽に興味を持ってくれ、意外にも話が弾んだ。

 その勢いに乗じてどさくさにダンスを申し込み、その他大勢の妬ましそうな男共の視線も一顧だにせず(ホントは怖かったけど)何曲か一緒に踊ってもらえた。

 

『お上手ですね……! 実は不安だったのですが、とっても楽しかったです』


 しかも社交界に慣れていないために、少しぎこちない踊りをユウゼンがリードする形になって、シルフィード殿下の花のような可憐な笑顔を間近で拝むことが出来たという奇跡。

 

 それがキッカケでその後も会話をし、二人で最近流行のボードゲームを楽しんだりした。王女はルールから覚えていったが頭の回転がよくすぐに流れを飲み込んだ。慣れたユウゼンが最終的には勝つこととはなるが、素直に感心され、その純粋さに逆にくらっときた。


 清楚で身体が弱くて、でも好奇心旺盛で優しく笑う少女。


 初めて、本気で憧れたのだと思う。





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