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魔術の散歩道(1)

 今日は珍しく午前中に用事が済んだユウゼンは、思い切って勇気を出し、シルフィードを乗馬に誘った。

 快く承諾してくれた王女を、アカシア宮の門の側、馬とモリスを連れて待つ。

 頭上は白い雲がぽつぽつと浮かぶ青空。穏やかな気候で、絶好の外出日和だった。

 モリスが伸びをしながら、


「いやあ、いいお天気ですね。不健全なユウゼン様をこんなに健全にするとは、シルフィード様は本当に素晴らしい」

「お前は一言多い」

「あはは、どうもありがとうございます」


 最近の従者は性格が悪いようだ。前はもっと……いや、別に変わってないか。

 ついでに馬にまで頻繁に頭を小突かれて、ユウゼンがこの国の将来を憂いていたとき、ヘリエルとセクレチアを従えたシルフィが姿を現した。 

 

「お待たせしました……!」


 トレードマーク、流行のシルヴァグリーンのドレスを着こなした、ブラウンの髪の美少女。深めの漆黒の帽子がふわりとした全体をほどよく引き締めていて、ほー、とモリスが感嘆の息を吐いている。見慣れても、美しいものはいつまでも美しいということがよくわかった。

 ユウゼンはセクレチアに若干怯えながらも、うきうきと返事を返した。


「少し南へ行くと、いい川辺があるんです。ぜひ、ご一緒してください」

「それは楽しみです」

 

 極度の面倒臭がり・ユウゼンにとって、久々の健全な社交である。

 シルフィに乗馬の経験を尋ねると、あまりマナーに自信が無いと恥ずかしげに俯き、そのかわいらしさに場が和んだ。少し意地悪な気持ちになり、わざと困った顔をすると、期待通りシルフィが慌て、しかしセクレチアが日傘でユウゼンを刺してきた。即行謝罪した。いつか殺されるかもしれないと思った。


「どうぞ、お手を」

「ありがとう……!」


 気を取り直し、出発するためまたがった馬上からシルフィードへと手を伸ばす。

 黒い手袋に包まれた細い手を握って、小柄な身体を引き上げ、自分の前に座らせる。


「かわいい、大人しい馬ですね」

「頭がいいんです。乗り手のことが分かるんでしょうね」


 ゆっくりと走らせ、会話を交わしながら、軽く抱きしめるように密着する少女に、内心どきどきしていた。目を輝かせて喜ぶシルフィは、ほのかに清涼な花の香りを纏っていて、引き寄せられるような気さえした。なぜこうもかわいいのだろう。出会えたのが奇跡のようで、しかもこうして近くにいて、もしかしたら結婚でき──


「こぼっ!!」

「え?」

 

 変質者の顔をしていたユウゼンに、隣でヘリエルと共に馬に乗っていたセクレチアが日傘の骨の部分を突き刺した。痛い。マジで痛い。涙があふれる。


「調子に乗っても乗らなくてもどうしても何をしても認めませんから、どうぞお気をつけ下さい」


 そして氷の微笑で、ユウゼンにだけ聞こえる小声で、暗殺を宣告されたのでした。


「モリス! 俺、殺され──」

「どうぞお気をつけ下さい」


 そして、味方は特にいないのでした。


 晴天の午後、ぱかぱかと五人を乗せた三頭の馬が、人間たちの私情もなんのその、土色の道を進んでいきます。

 やがて木々が増え、その間を縫うように通り過ぎると、明るく開けた川辺に辿り着いた。森に囲まれた川原と五メートルほどの幅の緩やかな流れ。ほとんど傾斜がなく、何人か家族連れも見られ、穏やかな昼下がりの光景だった。

 

「ああ、綺麗ですね! ちょっと行ってきます……!」


 シルフィはユウゼンが完全に馬を止めないうちから歓声をあげ、元気よく馬上から飛び降りると、ドレスの裾を手でまとめて水辺に走り寄った。ユウゼン、モリスもびっくりである。


「殿下ー、マナーをお忘れですよー」

 

 セクレチアがヘリエルの手を借りて地面に降りながら、軽くたしなめている。しかしシルフィは冷たい水に手をくぐらせたり少し離れた岩場に足をかけたりと、子どものようにはしゃいでいた。

 オズの第一皇子とその従者は思わず顔を見合わせる。


「なんというか……ちょっとだけ、ユウゼン様みたいです」

「なんだよそれ。喜んでいいのかどうなのか」

「もちろん褒め言葉ですよ」

 

 なんだか分からないが、モリスは嬉しそうで、ユウゼンも結局は笑ってしまう。馬を繋いでゆっくりとシルフィの方へ向かうと、美しい少女は早速三人の子どもたちと何やら騒いでいた。


「あれなあに? きれいな宝石みたいな」

「ああ珍しい、水のエレメントだ!」

「えれめんと?」

「あ、あれだよね、魔術とかに使ったりする触媒みたいな」

「よく知ってるね。魔術に使わなくても、あれがあれば綺麗な水が手に入るんだよ」

「とってとって!」

「わかった、お姉ちゃんに任せて?」


 三人とも身なりのよい十歳以下の男の子だ。皆川の中間辺りにある岩に埋め込まれた、宝石のように輝く透明の石に夢中になっていた。水のエレメントとはあれのことだろう。

 というか、シルフィはスカートをたくし上げて今にも飛び出しそうで──


「ストップ」


 ユウゼンとヘリエルが両側から、王女の腕を捕まえるのは同時だった。

「あ……えっと」

 はたと目が合い、ヘリエルは無言で目礼をして手を引く。それで若干勢いをそがれつつも、ユウゼンは改めてやんちゃな王女を岸に引き寄せた。


「ドレスじゃ危ないですから、無茶はしないで下さい」

「あ、でも、」

「代わりに採って来ますから」


 言うが早いか、ユウゼンは適当にその辺の岩を伝って目的の場所まで辿り着く。透明な石──エレメントは、岩に埋め込まれていて手では取れそうにない。少し考え、ブーツに仕込んでいた小刀を抜いて、ふちに沿って削り取ってみた。

「お。意外と柔らかい……」

「割れると水に戻ってしまいますから」

「へえー」


 がりがりと調子よく削りだし、軽く水で洗って子どもたちとシルフィの元に戻った。

 子どもたちもユウゼンも、その氷のような手のひらサイズの石を、興味深々で覗き込んだ。触るとひんやりとして、脆い。シルフィは誰よりその結晶に詳しかった。


「水の要素が、偶然凝縮されて固まった結晶ですね。純粋な自然の中でしか形成されません……きっとここは水が綺麗なんです。エレメントは水のほかに、風・炎・土・木・光・闇の要素があるといわれています」

「「ほーー」」


 この水のエレメントは、割ると一定量の綺麗な水が得られるらしい。旅などの際には重宝するに違いない。

 子どもたちはそんな不思議な石を手に入れて、喜んで家族の下へ帰っていった。






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