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ヘテロクロミヤ侯爵夫人(1)

「ユウちゃんおはよう! ねーねーねーちょっとキミ不相応にもほどがある恋をして違う人に襲い掛かったあげく猫はリンチでチキンだって本当っ?」


 ある朝ユウゼンが目覚めさせられると、胸倉を掴みあげられ、短い黒髪の女に激しく揺さぶられていました。


 太陽が眩しい。

 どうやら今日は厄日のようだ。助けて天国のおじいちゃん。

 ユウゼンが朦朧としていると、勝手にイラついたらしい女は柳眉を逆立てて理不尽に怒鳴り始めた。

 

「いつまで寝ぼけてんだよぅ! 起きろ答えろ吐きやがれっ!」

「止めろ! いつまでって今三秒ぐらいだよ! 望みどおりなんか出そうだよ! ああ俺は正常に目を覚まして一日を始めたいんだ! それだけなんだ! なんで俺はカカシなんだよ!」


 だめだ自分意味ワカラン。あー眠いよー。講義聞きたくないし親父の仕事手伝いたくないし会議出たくないよー……。

 そうしてユウゼンがどこかのひょろい小学生のようなことを考えて意識を手放そうとしていると、急に胸倉の手が離れる。

 結果、シーツに勢いよく頭を突っ込む羽目になった。


「!!(言葉にできない)」

「そ、そうだよね……ごめん、ちょっと、どうかしてたわ……そう、キミはカカシでも、ちょっとは人間っぽいと思うから」


 そして演劇の如き独白は全く聞き捨てならなかった。


「っぽい!? もうカカシ前提!?」

「当たり前でしょうっ? ずっとそうだったじゃない! この馬鹿野郎!」

「そんなばなな!!」

「……古いんだよこの絶滅危惧種が」

「……すいませんでした……」


 完全に目を覚まさざるを得なかったユウゼンは、くらくらする頭を押さえながらぐったりと起き上がる。そして改めて目の前に立つ短い黒髪の女性と目を合わせた。


「おはよう、姉上」

「おはよぅ、弟」

 

 そう。腰に手を当てて、悪戯っぽい瞳を向けるこのトンデモ人間はユウゼンの実の姉なのだった。しかもこれが、ヘテロクロミヤ・アイディス侯爵の妻である。

 つまり、オズ皇国の第一皇女にしてヘテロクロミヤ侯爵夫人。

 アルコートとローリヤの母なのだ。

 身分が高い女性の常識にあるまじき短い髪は、「鬱陶しい、邪魔」という彼女の雑多な性格をよく表していて、すらりとスレンダーな身体はとても子どもを二人も生んだとは思えない。

 赤と金のそれでいてシックなドレスも良く似合っていて、色白ですっきりした目鼻立ちにぷっくりと綺麗な唇を持ち、まあ贔屓目にもかなり美人なのだが、一言で言うと残念だ。

 残念な理由は冒頭以下略。


 姉──ラティメリアは、先ほどよりは落ち着いた様子で、だが再びずいっと身を乗り出してきた。


「ねえ、それでどうなのよどーなのよぅ? キミ不相応にもほどがある恋をして違う人に襲い掛かったあげく猫はリンチでチキ」

 ユウゼンは静かに遮った。

「落ち着くんだ。よく言葉の意味を考えてみよう。いいか?」

「ぇ、え? うん」

 ラティメリアはぱちぱちと瞬きをしながらも、素直にこくりと頷く。

「よし。まず不相応というところがおかしい。俺は仮にも豊かなオズ皇国の次期皇帝だろ? 身分的に不相応はありえない」

「あ、なるほど」

「それから違う人に襲い掛かるほど俺はへたれ設定を卒業した覚えがない。そして猫はリンチをしない。群れないし。最後に俺はまだ生物学的に人間で、チキンじゃない。さすがの魔術もまだそこまでは達していないんだ」


 ユウゼンが悲しい事実を涙をこらえて他人事のように話して聞かせると、ラティメリアは悲しげに目を伏せて、細い指で自分の頬に触れた。艶のある黒髪がまとめて揺れる。


「そ、そっか……そう言われればそうだよね。ユウちゃんごめん……私、なんて馬鹿なんだろ……ちくしょう、鶏はあんなに高尚でかわいいのに、キミ呼ばわりだなんて──」

「うわーそう来るんだー存在価値なくす方向なんだねーもうゆるしてゆるして」


 二人はお互いにぺこぺこ謝っていた。






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