清廉道化(1)
目を通してくださってありがとうございます。
多少のリアリティのなさに目をつぶって気軽に楽しんでいただければ幸いです…!
好きな人が風邪を引いたと聞けば、きっと大抵の人間は気になるものだと思う。
そういうわけで、ユウゼン・パンサラ・オルシヌス・アレクサンドリアは、女性の──はっきり言ってしまえば好きな少女の部屋へ、勇気を出して内心あせりながら自己暗示などかけながら見舞いに訪れたのだ。
オズ皇国の大都市ヘテロクロミヤ・アイディスにあるアカシア皇宮。
その上級な客室の一室。
殿下は気分が優れないので面会はご遠慮願います、という自国の侍女に食い下がりまくって、見舞いの品だけでも直接渡そうと頑張ったユウゼンに、ヴェールを被った意中の王女は弱い声で優しく仰った。
「しつこい、というのはゴキブリ並みの欠点ですよね。すいませんけど、最低三回転生してから出直してきてくれたら哀れんであげてもいいかな、と思います。優しいですよね私って」
──どうやら 部屋を間違えたようだ──
とっさに辺りを確認し始めたユウゼンに、ベッドに腰掛けた少女は優しく仰った。
「挙動不審、というのは人類にあるまじき汚点ですよね。もしよければ半径10km以内に金輪際近づかないで頂けたら──」
「いやいや、ちょっとストップ!? 明らかにおかしいって! あんた誰だ!」
なんだか涙も出ない。悲しいとか驚いたとか軽く通り越して若干いらっとする。
しかしなんとそれが幸いしたようで、ユウゼンはヴェール越しの少女の瞳の色に気付くことが出来た。
黒。
ユウゼンが見惚れた朝の森のような、シルヴァグリーンではない。
「本当に、誰?」
我に返る。
ユウゼンが女の腕を掴んで表情を硬くすると、女ははっと顔をしかめてもがいた。残虐極まる言動とは裏腹にたいした力ではない。それをいなして押さえつけ、ベッドに押し倒すようにしてヴェールを引き剥がそうと手を伸ばし、
「ユウゼン様?」
聞き覚えのある綺麗な声が、入り口のほうから聞こえた。
振り返ればつやめくブラウンの髪に、澄んだグリーンの瞳をした精霊の如き王女が目を見開いて立ち止まっていた。その美貌は間違いなく本物の証。
しかし、豪華なドレスでなく、なぜか女官の姿。
というか、その前に、この状況は?
偽物の王女が、ユウゼンの身体の下からユウゼンにだけわざとだと分かるような素晴らしい悪意を持って、悲鳴を上げた。
「シルフィード様! この変態野郎チキンの癖に見境なく襲い掛かってきたんで早く殺してください」
「エーー!? ちょっ、ひどっ!!」
好きな人の前で誤解を最大限に引き出すなど鬼畜以外の何者でもない。
この展開の真相とか、追究とか、とりあえずいいので、泣いてすっきりしてこようかな、とユウゼンは目に涙を浮かべた。