タケル、ルードと『奴隷制度』について語り合う
5分も歩くと親父さんに教えてもらったお店の前に来る。
・・・なんか、ボロボロだな。
でも、何だろう・・?『胸の鼓動が高鳴る』のを抑えられなかった。
「ごめんください・・」
扉を開けるとギィッと金具の錆びた音がする。
中に入ると、ボロボロの外見とはまるで違い、綺麗に飾られた防具の数々があった。
「うわ~。なんて綺麗な鎧なんだ・・・」
飾られた鎧はどれも綺麗に磨かれていた。
輝きが半端ない。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
カウンターから声がする。振り向くが、そこには何も見えなかった。
カウンターを覗き込むと、ずんぐりムックリな女の子がいた。
「・・あの、戦闘用のブーツと腕部や脚部に着ける装備品ってありますか?」
「俊足のブーツがお薦め。腕部と脚部それぞれの防具もあるけど、ここはルーンメイルが良いと思うよ」
「ルーンメイル?」
「魔術を施した鎧だよ。物理攻撃を35%減少させ、魔法攻撃は50%まで防いでくれる。その上、軽い。俊足ブーツは敏捷を3倍にまで引き上げてくれる優れものだ」
「・・あの、2つでいくらですか?」
「そうねぇ・・。銀貨15枚ってところね」
「皮の鎧は買い取ってもらえますか?」
「血がついてるから銀貨1枚が関の山だね」
「じゃあ、皮の鎧は買い取りで、ルーンメイルと俊足のブーツをください」
「まいどあり~」
シューズをアイテムボックスにしまい、俊足のブーツを履く。
皮の鎧を渡し、ルーンメイルを着用する。
か、軽い。それにスムーズに動ける。なのに身体にピッタリくるフィット感。
「これ、普通の鎧じゃないですよね?着る前は大きい感じだったのに身につけたらちょうどいい感じになりましたよ」
「おれは、魔法が施されているからだよ。身に着けた者にピッタリになる様になっているのさ」
これで、銀貨15枚って・・・。
「あの・・安すぎなんじゃ・・・」
「もちろん、リターンもあればリスクもあるものさ。たとえば、その鎧は魔法で防御力を補ているが耐久力は皮の鎧に毛が生えたくらいの代物さ。俊足のブーツも、戦闘時スピードが3倍にはなるけど、その機能に身体が付いていけるかは本人次第なのさ」
「確かに、リターンにつられて買ったけどリスクを分かりやすく言ってもらえて助かりました。大事に使わせてもらいます」
「騙されたとは思わないのか?」
「金額が金額でしたしね。それよりも、リスクをちゃんと教えてもらえたことの方が嬉しかったですよ」
「・・・ふうん。君、面白い子だね。気に入ったよ。これも持っていきな」
そう言ってカウンターの上に置いたのは『盾』だった。
「これは、力の盾だ」
「力の盾?」
「持つと筋力を戦闘時20%UPしてくれる。ただし、敏捷は10%ダウンする」
「あの・・良いんでしょうか?」
「だから、持っていきなと言っただろう」
力の盾は腕に通して握り込むタイプの盾だ。
一体感が悪くない。
「アタイの名は『リシリル』・・・『リリィ』と呼んでくれ」
「俺の名はサトー・タケルです。タケルと呼んでください」
お互いに名乗り、俺は店を後にした。
後は武器屋に行ってダンジョンを少し探索したい。
武器屋は防具屋とは反対の通りにあった。
こじんまりとした感じだが、隣の『工房』らしき建物は逆に立派だった。
店に入ると、所狭しと武器が無造作に置いてあった。
「へ~。色んな武器があるんだな。でも、なんでこんな無造作に?」
武器と言う武器を一本ずつ確かめていく。
見ていて気付いたのは、装飾に凝った武器ややたら輝き放っている武器はなんとなく『ダメ』な気がする。
上手く言えないが、『使える』気がしないのだ。
「・・これ」
気がつくと一振りの細身の剣を手に取っていた。
刀身が刀のようにわずかに反っている。
まるで俺に呼びかけるかのように力強さを感じる。
「初心者にしちゃあ、いい目を持っとるようじゃのぅ」
「え?」
「この店の主のパージじゃ。おまん、そいつに気に入られたようじゃのぉ」
「サトー・タケルです。『気に入られた』って・・どういう意味ですか?」
「人が武器を選ぶんじゃない。武器が持ち主を選ぶのじゃよ」
「武器が持ち主を選ぶ・・・」
剣を持ち、全身を見る。
銀色に輝く刀身。
目を瞑り、剣に身をゆだねる。
すると、その細身からは信じられないほどの力強さを感じた。
「シルバーブレード。ワシが遊び心で作った『逸品』じゃ。買う気なら銀貨1枚でええぞ」
「これで、銀貨1枚?安すぎなんじゃ・・」
「言ったじゃろう。遊び心で作ったと。だが、モノは本物じゃ。そこは安心せい」
「それで、遊び心ってことは何かの特殊な力があるとか?」
「銀は魔力を通しやすい。じゃが普通に作ると重くてのぅ。だからギリギリの密度と強度で魔力を通せるモノをと作っておったら出来上がったのがそれじゃ」
魔力を通す・・。
魔法を使う要領で柄を握り込むと、刀身が白銀に輝く。
「そうすると、攻撃時に与えるダメージが20%UPするんじゃよ。上手く使うんじゃぞ」
「ありがとうございます」
「ただしじゃ、最低限の強度しかないからのぅ。ダンジョンに潜ったら見せに来い。無料で研いでやる」
「重ね重ねありがとうございます」
こうして俺は、装備を一新することが出来た。
さあ、ダンジョン『探求の洞窟』に行こう
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ただ今のタケルのレベルは、
サトー・タケル
年齢:15歳 種族:ヒューマン クラス:ヒーロー 職種ジョブ:戦士 ランク:G 所持金:9G(金貨)・80S(銀貨)・66C(銅貨)・20M(銅銭)
装備:「頭部: 腕部:ルーンメイルの籠手・力の盾 胴部:ルーンメイルの鎧 脚部:ルーンメイル脚甲 足部:俊足のブーツ 武器:シルバーブレード(銀刀)」
Lv.3 HP:21/21 MP:12/15 Exp:(2/100) アイテムボックス:(17/999)
筋力:15 体力:19 敏捷:10 器用:10 知力:13 理性:29 幸運:8
アーツ: 剣術Lv,2(0/100) 武術Lv.1(0/100) 槍術Lv.1(0/100) 斧術Lv,1(0/100) 弓術Lv.1(0/100) 棒術Lv.1(0/100) 刀術Lv.1(0/100) 忍術Lv.1(0/100)
マジック:火魔術Lv.1(75/100) 水魔術Lv,1(0/100) 風魔術Lv.1(55/100) 土魔術Lv.1(0/100) 光魔術Lv.1(0/100) 闇魔術Lv.1(0/100) 火法術Lv.1(0/100) 水法術Lv.1(0/100) 風法術Lv.1(0/100) 土法術Lv,1(0/100) 光法術Lv.1(0/100) 闇法術Lv.1(0/100) 精霊術Lv.1(0/100) 召喚術Lv.1(0/100) 錬金術Lv.1(0/100) 薬術Lv.1(0/100)
技:「 ヴァッシュ(疾風斬り) 」
呪文:「 プチ・ファイア(弱火魔法) プチ・アクア(弱水魔法) プチ・ラファール(弱風魔法) プチ・ラピス(弱土魔法) プチ・ヒール(弱風回復魔法) プチ・キュアー(弱水治癒魔法) 」
特殊:「 土の造形 自動翻訳 心眼 」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンに向かうため、中心街から西に向かう。
「タケル様」
「はい?」
呼ばれて振り向くと、そこにいたのはルードだった。
「ルードさん?」
「お会いでき、よかったのでございます」
「あの?俺に何か用事でも?依頼の件はちゃんと・・」
「いえいえ、そちらの件はちゃんと確認が取れております」
「じゃあ・・」
「まずは、これが今回の報酬でございます」
「え?そんなの受け取れませんよ。そんな大したことしたわけじゃないのに・・」
「フフ・・やはり我が旦那様がおっしゃられた通りでございますね。しかしながら、この報酬は受け取ってもらわねばなりません」
「どういうことですか?」
「報酬はどんな依頼であっても発生しなくてはなりません。一度でも『タダ』を認めればそれを生業としている者たちの生活に支障をきたします。これも義務だと思ってお受け取りください」
「分かりました。謹んで受け取らせていただきます」
袋を受け取り、中身を確認すると金貨が山のように入っていた。
コレ・・多すぎじゃないか?
「金貨50枚になります。多いですが、これには理由があります」
「理由・・ですか?」
「はい。旦那様からの伝言でございます。奴隷ギルドで奴隷をお買いになられるように・・と」
「奴隷・・ですか・・・」
苦い顔になる。
やっぱり、リーガル氏も貴族と言うことか・・・。
「やはり、そう言う態度をおとりになりましたね」
「それも、リーガル殿の?」
「はい。旦那様がそうおっしゃっておりました。タケル様は奴隷を買うのを嫌がるだろう・・と」
「そうですね。ソロでの限界と言うのは理解できるのですが・・こう、心情的に」
「フ・・タケル様は本当に旦那様に似ておりますな」
「似てますか?」
う~ん・・・リーガル氏と俺が似ているねぇ。
思い当たらないんだけど・・。
「旦那様も若いころ、タケル様と同じように奴隷制度を嫌っておいででした。しかし、奴隷制度の本当の意味と『奴隷』でなければならない理由を知って変わりました」
「どういうことですか?」
「まず最初に、旦那様は闇市上がりの奴隷を買い開放しました。その奴隷はどうなったと思いますか?」
「え?解放されたなら元の生活に戻れたんじゃ・・・」
「旦那様もそう考えました。しかし実際は、奴隷に戻されていたのです」
「それって・・・」
「そうです。闇市に流される者は見つかればまた同じように売られるのです。だから旦那様は考えを変えました。奴隷であるからこそ救われる場合もある・・と」
「それは分かりましたが、それと奴隷制度の本当の意味とどう関係が?」
『奴隷』が『奴隷』であるからこそ救われる。
そう言う場合もあるのだろう。
でも、心のどこかで理解できないと思う自分もいる。
だからこそ聞きたかった。
奴隷制度の本当の意味を・・。
「奴隷制度とは元々『エルフ』と『ドワーフ』と『獣人』を救うために作られた制度だったのでございます」
「え?」
聞いた話はまさに驚愕だった。
まず、この世界の格付けは『力の魔族』と『文化の人族』が他の種族の中でも群を抜いて世界に君臨していた。
しかし、魔族と人族にも完璧にこの世界を支配するには足りないものがあった。
魔族は力こそ最強だった。しかし、慢性的な純血者不足だった。つまり、魔族同士では中々子供が出来なかったのだ。他の種族との間には子供は作れたのだが、これも問題だった。
純血の魔族に比べて『ハーフの魔族』は力が圧倒的に劣るのだ。
だからこそ、圧倒的な力を持ちながら魔族は世界を支配できなかった。
人族は人口もそこそこ文化の高さによる武器開発も他の種族に真似のできないレベルのものをたくさん作った。
しかし、人族もまた世界を支配できなかった。
それは、人族が他の種族よりも圧倒的に非力だったのだ。
そして、『エルフ族』は長寿だったが、自然との調和を謳いながらもそれが仇となり文化の低さと閉鎖的な考えが格付けを下回ったのだ。
また『ドワーフ族』も違った意味で閉鎖的だった。彼らにあるのは好きなことにのみ全力になると言う単純なものだ。酒と物作り・・特に鍛冶としての能力は他の種族よりも秀でていた。しかし、彼らにあるのは好きなことすることだけだった。だからこそ格付けも低くされた。
最後に『獣人族』。彼らは最も人種が多く世界での6割は獣人族と言っても過言ではなかった。
しかし、獣人族は圧倒的に『知能が低かった』。
知能の高さは『モノを覚えられる』ことではない。『新しいものを作る』という『考える能力』に他ならない。
獣人は物事を教えれば教えた分だけ吸収していくが、自分たち自らは何かを生み出すと言うことは不得意だった。
だからこそ、種族格差では底辺と言う扱いだった。
では、奴隷制度はどうして生れたのか?
それは、『エルフ』、『ドワーフ』、『獣人』の3種族にとっては危機的な問題があったからだ。
『人口密度の多さ』からくる『貧困』に、『文化の低さ』からの『食糧難』がさらなる追い打ちをかけた。
その2つを解消したく、魔族と人族に協力を求めたのだ。
しかし、タダで3種族の求めに応じることは今のバランスの取れた均衡を崩しかねない。
そこで、人族から最低限の文化の提示を行い。人口過多の解消のために『奴隷制度』を作ったのだ。
しかし、この『奴隷制度』は3種族からの提案だったのだ。
切迫した3種族は、『衣・食・住』さえあれば自分たちを自由に使ってもいいと提案してきたのだ。
非力な人族からしてみれば、これ以上にない『力仕事専門』にしてくれる人手の確保に繋がり、尚且つ絶対服従と言うのであれば言うことなしだったのだ。
しかも、エルフ族が『奴隷』として受け入れない者たちの不満の声を買い手の人族や魔族に聞かれたくないため『沈黙の首輪』を作り声が出せないようにした。
また『奴隷』は主人に絶対服従と言うことで『呪印』と呼ばれる呪いの印を付けられ、『主人』の命令には逆らえないようになったのだ。
もし、逆らえば『死んで』しまうという。
だが、逆らいさえしなければ『衣・食・住』が与えられる。
もしこれを破れば、買い手自信が『奴隷落ち』するのだ。
これが最初の『奴隷制度』だった。
ここに、犯罪者の『犯罪奴隷』や税金の未払いによる『契約奴隷』、孤児や捨て子の『保護奴隷』などが増えていったのだと言う。
「じゃあ、元々『奴隷制度』って・・」
「3種族の救済から始まったものだったのです。大雑把に言えば『今も』ですが・・・」
「でも、意味合いが変わりつつある?」
「人は欲を持ちます。その欲が『奴隷制度』を曲解させてしまったのです」
「絶対服従と言うことは逆に言えばどんな命令にも従わなくてはいけない。たとえ、身体を求められても拒否できない・・」
「それもありますが、ダンジョンなどでは『人身の盾』にされることも・・・」
「そして最も忌むべきはエルフが作った『沈黙の首輪』ですね?」
「そうです。『沈黙の首輪』を悪用した『人さらい』による『奴隷』が増えることになったのです」
『沈黙の首輪』は『声が出せなくなる』と言うアイテムだ。
これを使えば、さらわれたと言う訴えもできず『奴隷』として売られ、買い手の物となれば『絶対服従』を強いられるのだ。
「でも、3種族は強く非難出来ない・・と言うわけですね」
「そうですね。未だに人口過多は完全に解消されていませんからね」
「だからこそ、『奴隷制度』はなくならない・・いえ、『なくせない』んですね」
「はい。だから旦那様も『奴隷制度』を逆手に取りました」
「逆手・・ですか?」
一体どういうことなのだろう?
「先ほども申しましたが『奴隷』であることを逆手に、旦那様は『自由』を差し上げました」
「あっ、なるほど。『奴隷』である限り名目上は主となる主人の物と言う扱いになる。その上で、『できる限りの自由を与える』と言うことですね?」
「そうです。『奴隷』である限り、売り買いはもうできません。『奴隷』をさらったとなればさらった者も買った者も『重犯罪者』としてすぐに裁かれ『奴隷落ち』します。何しろ『奴隷』が『新し奴隷』には絶対なれないのですから、さらうことは無謀以外のなにものでもないのです」
「まあ、さらう前に『呪印』があるかを確かめて難を逃れるしかないですもんね。だから、『奴隷』のままでいさせることが救うことになるとリーガル殿は考えたのですね」
「そうです。が、それでも旦那様が救えるのは年に4~5人が限度です」
「どうしてですか?」
「領主である旦那様が王都に出かけられるのは年に2回ほど・・要件無く王都に出向くことは立場上無理なのです」
「そういうことですか」
「しかも、今回は『討伐依頼の改定』を王に直接頼んだことで他の貴族様から『奴隷買い』を控えるようにと・・・」
「それで俺に・・」
コクリと頷くルード。
単に俺に『ひいき』したのではなく、自分と同じ志を持つのであれば協力を願いたいと言うことなのだろう。
「分かりました。そう言うことなら俺も納得です。奴隷ギルドに行きましょう」
「では、参りましょう。目指すは、奴隷ギルドで行われる『オークション会場』です」
「はい」
ダンジョンに潜る前に奴隷を買うことになるとはと思いもよらなかったが、それもまた『運命』と諦めることにする俺だった。
細かな話になりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございます。