タケル、四葉亭を拠点にする
地図を広げてみると、『四葉亭』は意外と近い場所にあった。
歩いて5分と言うところか・・・。
お、武器屋や防具屋も近いなぁ・・。
でもまあ、とりあえずは『四葉亭』だ。
四葉亭に向かって歩き出し分かったことは、『ホテル街』のように宿が連なって建っていることだった。
高級そうな宿から酒場を宿屋にしたものまで様々だ。
「ここが、『四葉亭』か・・」
見た目はお世辞にも良いとは言えないが、『味のある』と言う形容詞がピッタリと当てはまる『俺好み』の宿だった。
1階は食堂兼フロント、2階から6階までが客室だろう。
あ、1階に宿屋の主人の家も兼用していると思われる。
宿屋の大きさからしてそうだと推察できる。
「いつまでも店の前にいるのは邪魔だな。中に入ろう」
中に入ると、初めに感じたのは料理の匂いだった。
「良い匂いだなぁ・・」
「ぐ~ぅ」とお腹の虫が鳴る。
そう言えば、何も食べてなかったなぁ。
「いらっしゃいませだぜ」
カウンターらしき場所に、顔が傷だらけの『元・冒険者』と言わんばかりの風体の爺さんが出迎えてくれる。
どうやら、この四葉亭の主人のようだ。
「すいません。宿をお願いしたいのですが?」
「冒険者カードはだぜ?」
「えっと、はい。これですよね」
サトー・タケル
年齢:15歳 種族:ヒューマン 職種ジョブ:戦士 ランク:G アイテムボックス:所持
Lv.3 HP:21/21 MP:15/15 Exp:(2/100)
「いいだろうだぜ。1泊2日食事は朝夕の2食付きで銅貨500枚だ。、で、何泊するんだだぜ?」
「えっと、一応1週間でお願いします」
「冒険者カードがあるなら、1週間で銀貨3枚になるがだぜ?」
「はい。よろしくお願いします」
「部屋は3階の303号室だだぜ。これが鍵だだぜ」
「どうも。あと、食事をしたいんですが?」
「ランチでいいのかだぜ?」
「はい。構いません」
「銅貨3枚と銅銭80枚だだぜ」
「銅貨4枚でお願いします」
「銅銭20枚のお釣りだぜ。一度部屋を見てきなだぜ。戻って来るころにはここに飯を置いといてやるだぜ」
「はい。ありがとうございます」
303号室まで階段を上がる。
部屋は木ドアで、鍵を入れて回すと『ガチャリ』と重々しい音が響く。
「結構、広いな。それにベットが2つある。掃除も行き届いていて木の匂いが心地いいな。これは、ルアンナさんに感謝しないとな」
荷物もないし、窓を少し開けて風通しを良くしておく。
このくらいなら急な雨でも大丈夫だろう。
さて、部屋のドア閉めて1階に下りるかな。
1階に下りると、ランチが置いてあった。
美味しそうな匂いだ。
「おう、どうだっただぜ」
「良いお部屋ですね。気に入りました」
「そりゃよかっただぜ。だが、早く巣立っていくのが一番だぜ」
「えっと、オヤジさんとしては宿が潤う方がいいんじゃないんですか?」
「逆だぜ。俺も元・冒険者だからこそ言えるんだぜ。初心者が宿屋を拠点にすると言う考え方は正しいだぜ。しかし、仲間を集めて稼げるようになったら自分たちの家を持つことでさらなる飛躍が望めるのだぜ」
「なるほど」
一つのところ落ち着くのではなく、成長の中で自分たちに見合った暮らしをすることが大事と言うことか。
楽な場所の落ち着けば一見すれば裕福そうに見えるが、それ以上の成長は望めないと言うことなのだろう。
「さ、食っちまえよだぜ、タケル」
「いただきます」
ランチメニューは、どう見ても『ハンバーグ定食』だった。
見た目だけは。
「まずはメインから・・」
パクつくと、ジューシーな味わい・・・あれ?ハンバーグじゃないなこれ。
どっちかと言うと『ステーキ』のような味わいだった。
見た目はハンバーグだが。
見た目シチューのスープは、まんま『スープシチュー』だった。
とろみが全くないサラサラシチュー。
フランスパンよりちょっと堅いパンがサラサラシチューに浸すとちょうどいい感じになる。
これはくせになる。味も触感も。
最後のサラダはパリッパリの触感が新鮮さと清々しさを感じさせる。
「うめ―――っ!」
もう、唸るほどの美味さだ。
「これ、オヤジさんが作ったんですか?」
「いや、そいつを作ったのは俺の娘のアリカだだぜ」
「娘さん、天才ですね。もう、惚れちゃいそうです」
「そいつぁ、嬉しいだぜ。貰ってくれるかだぜ」
「いや、本人の承諾もなしに貰うも貰わないもないかと・・」
「そうかだぜ。今は買い出し中だから、あとで合わせてやるだぜ」
「期待してます」
黙々と食べ続ける。
そこで気になることひつつ思い出す。
「そう言えば、部屋ですけど・・」
「なんだ、気に入らなかったかだぜ?」
「いえ、そうじゃなくて逆って言うか・・」
「逆だぜ?」
「俺、一人なのにあの部屋2人部屋ですよね?」
「・・俺が思うにだぜ、ソロで冒険者するのは一つとして良いことはないだぜ」
「と言うと?」
「ソロでやると、すぐに気づかされるだぜ。一人で続けるには限界があるって・・だぜ」
「そんなにキツイですか?」
「ソロで対応できるモンスターの数は3体が限界だろうだぜ。だけどよ、そんなのは続きはしないだぜ。ダンジョン攻略しようとすると、あっという間に限界を感じるだぜ。だから、早いうちに仲間を作るだぜ」
仲間か・・。でも、そんな簡単にできないよな。
それに俺の『ヒーロー』の能力を感づかれるのもなぁ・・。
「・・奴隷を買うと言う方法もあるだぜ」
「奴隷・・ですか・・・」
「まあ、抵抗はあるだぜ。でもよ、それも一つの選択肢だぜ」
奴隷か・・・。
正直、抵抗はある。
同じ『人』のはずなのに否応なしに格付けされる。
その底辺が『奴隷』なのだ。
「奴隷にゃ、4つの種類があるんだぜ」
「4つ?」
「1つ目は、犯罪に手を染めた者たちが奴隷になった場合だぜ。盗賊・山賊・海賊はもちろん、重い犯罪行為をした者は奴隷落ちするだぜ。それも、鉱山での素材採取や砂漠ダンジョンの探索などの重労働が基本になるだぜ」
「なんか、重労働と言うよりも使い捨てのような・・・」
「本当に使い捨てだぜ」
「そ、そんな・・・」
「だが、それだけのことしてきた奴らだから仕方ねぇだぜ」
その後も、奴隷について教えてくれた。
基本は、最初の重犯罪での奴隷落ち以外はさほど違いはなかった。
軽犯罪、税金の未払いなどでの奴隷落ちは、『期間内労働』や『罰金の支払い』で奴隷解放になる。
この奴隷のほとんどは農業やお店関係で働くことが多いらしい。
孤児や種族格差での奴隷要員の確保と言うのは一番堪えた。
孤児は否応なしに奴隷にされる。ヒューマン・魔族以外の種族は年に一定量の人数を奴隷として納めなくてはいけないのだと言う。
この場合の奴隷たちは、『性奴隷』や『冒険者メンバー』として扱われることが多いのだと言う。
そして最後のが一番腹が立った。
「人さらいや人買いでの奴隷落ち?なんなんですか、それって?」
「まんまだぜ。人さらいは賊や冒険者崩れなんかが小遣い稼ぎにやるだぜ。そして、中には賊が襲った女・子供・若い男などを殺さずに闇市で売るんだだぜ」
「どうして、取り締まらないんですか?」
「取り締まらないのではなく『取り締まれない』んだだぜ。裏で『貴族』が手を回していると言うのがもっぱらの噂だだぜ」
「そ、そんな・・どうして?」
「需要と供給が一番の理由だだぜ。タケルは、どんな性奴隷が売れると思うだぜ?」
「え・・。美人とか可愛いとか、後は・・・『床上手』とか『人妻』とか?・・ですかね」
「分かってるだぜ。そう言うのは、『選ばない』と手に入り辛いんだぜ」
「確かに一定以上の美人とかが納められるとは限らないし、人妻なんて無理ですよね基本」
「だから、需要と供給・・・嫌なもんだだぜ」
「ですね」
『貴族のお遊び』に巻き込まれる人たちがいる。
やっぱ、神様(?)が言った通りこの世界は『力と地位と金』が全ての『クソッタレな世界』だ。
それでも、『力も地位も金もない』今の俺じゃあ、何もできない。誰も救えない。
今はまず『力』をつけないと・・。
食事が終わると、俺は王都の地図と睨めっこしていた。
まずは、ネクタイとか革靴は売りたい。
そうなると、まず防具屋と服屋を優先で回るとして、それからネクタイとYシャツと革靴は売ろう。
下着とズボンは残しておきたい。
「服屋か・・だぜ。防具屋ならお薦めを紹介してやれるんだぜ」
「防具屋と武器屋もいくつもりなので紹介していただけると嬉しいです」
「分かっただぜ」
防具屋と武器屋を紹介してもらい地図にチェックを入れる。
後は、服屋だ。いつも戦闘服ってのは気が落ち着かない。
やっぱ、普段着が欲しいところだ。
「ただいま~」
「お帰りだぜ」
「あ、お帰りなさい」
「・・はい?」
地図と睨めっこしていたので思わず返事を返してしまう。
目の前にいたのは、買い物籠を背負った女の人だった。
もしかして、オヤジさんの・・・。
「お父さん、この人は?」
「今日からうちの宿を使う、サトー・タケルだだぜ」
「タケルでいいです。今日からお願いします」
「アリカです。よろしくお願いします」
美人と言うよりも活発な可愛い系、ポニーテイルが良く似合っている。
年齢は同じくらいか?ヨレヨレのエプロン姿が元気さを物語っている。
「おう。アリカ、晩飯の下ごしらえまでまだ時間あるだぜ」
「あるけど・・」
「じゃあ、タケルを服屋に案内してやれだぜ」
「えっと・・」
「すいません。王都は初めてで・・迷惑なら別に」
「良いですよ。それじゃあ、時間も惜しいのでサクッと行っちゃいましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。アリカさん」
アリカの後に続き、服屋へと向かう俺だった。
服屋は中心街にあり、何件か並んでいたがアリカは中心街から少し奥まったところにある古着屋に連れて行ってくれた。
いや、古着も扱っていると言った方が正しいか。
「ここはお薦めです。店の前に置いてあるのが古着ばかりなので間違われがちですが、おてごろな価格で庶民に優し値段設定なんですよ」
「へ~。古着を扱っているってことはここって買取もしてくれるんですか?」
「はい。その・・血がついてても買取してくれます」
「それは嬉しいなぁ。――って、ここで話していても時間がもったいないから、中に入りますか」
「ですね」
中に入ると、驚いた。
整理整頓された店内。どこに何があるかが分かりやすく、普通の靴もある。
「らっしゃ~い」
「ジーナ、こんにちわ」
「あら?アリカじゃん。何?彼氏?」
「ち、違うよー」
ジーナと呼ばれた女性は頭にターバンっぽいものを付けた超美人だった。
色白で気品のある顔立ち。言葉使いが丁寧なら『貴族』だと言われても納得してしまうほどだ。
「どうも、アリカさんの宿を使わせてもらうことになりました。サトー・タケルです」
「タケル君ね。よろしく」
「よろしくお願いします。あの、上下の下着を4着ずつと普段着になる上下の服は3着ずつに、靴を買いたいのですが。あと、買取でこのシャツとネクタイと靴をお願いしてもいいですか?」
「まいど~。アリカも見立てを手伝って」
「え?まぁ、いいけど」
下着コーナーに案内され自分で上下の下着を選ぶ中、ジーナとアリカが普段着をキャッキャ言いながら選んでくれている。
下着はザラっぽいものから、スベスベの物まである。
パンツはトランクスタイプしかないが、ちゃんとゴムが使われている。
肌触りの良い下着の上下を4セット選び、二人の下へ行くとズボンはジーンズ似た厚手の物を色違いで3つ。上着はチェックの物と無地の物に緑の縦縞の3つが置いてある。
後は靴か・・・シューズかスニーカーのようなものがあればいいんだけど・・・。
ゴムがあるなら硬いものだけじゃなく柔軟性のある靴もあるはず・・。
「どんな靴をお探しだい?」
「え~と、柔軟性のある靴なんてあるんですか?」
「へー。変わった靴を欲しがるのが本当にいたよ・・」
「はい?」
「1足だけどあるよ。え~と、あ、この箱に入ってるんだが・・・」
「こ、これは―――」
シューズだ。しかも紐付きの。
マジか。
これは買うしかないよね。
「これ、買います」
「そんなに欲しかったんだ。じゃあ、また『グイス』に頼んでおくよ」
「できれば色違いのをあと2足ほどお願いします」
「・・分かったよ」
ちょっと呆れ顔になるジーナさん。
結局、下着の上下を4セットと普段着の上下を3つずつにシューズで銀貨2枚だった。
ついでに、体を拭く柔らかめ布の長いのと短いのを3つずつを銅貨5枚で買う。
「で、どれを売るんだい?」
「このシャツとネクタイと革靴を売りたいんですが・・・」
「そうだね~・・今回のお題は結構だ」
そう言って、ジーナは銀貨2枚と銅か5枚を出した。
「いいんですか?シャツとネクタイは血塗れですけど・・・」
「それを差し引いての値段だよ。その3つにはそれだけの価値があると見込んでの買い取り額だ」
「・・分かりました。それでお願いします」
こうして俺の買い物は、差し引き0で終わった。
「あの・・アリカさん。これを受け取ってもらえますか?」
「えっと、エプロン?」
「こんなもので申し訳ないんですが、ここまで連れてきてもらったお礼ってことで」
「ほんとにいいの?」
「ええ。俺のお古なんで申し訳ないんですが・・」
「ううん。ありがたく貰っておくね」
それは、かつての職場で着けていたエプロン。
どうせ、もう着ないしね。
使ってくれる人に使ってもらえる方が良いもんな。
「この後はどうするんですか?」
「防具屋と武器屋を回るつもりです」
「そうですか。私、そろそろ帰って下ごしらえしないといけないので・・」
「あ、すいません。長いこと付き合ってもらいまして。あとは自分で何とかしますので・・じゃあ、送っていきますね」
アリカを四葉亭に届けると、俺は武器屋街に向かったのだった。
書いてたら長くなったので、2回に分けることにしました。