王都・グランディーレ
今俺は『王都・グランディーレ』にいる。
と言っても、王都の中ではなく『入り口』・・。
正確に言えば、王都の貴族専用門の前であった。
今は、この『グランディーレ王国』の王への謁見を求め、返事待ちである。
俺が乗せてもらった馬車の持ち主はやはり偉い方だった。
名前を『リーガル・フォン・ラインバッハ』と言い『リーガル領』を治める御方だった。
リーガル領はこの『アークランド大陸』に点在する島国の一つである。
話によれば、人口は5万人と島国でありながらかなり有望な国であることは確かだろう。
今回はこのグランディーレ王国で行われる『アークランド会談』のために足を運んだと言うことだ。
元々、リーガル氏はこの王都出身の出で、功績を上げて今のリーガル領を与えられたと言う。
しかし、リーガル氏曰く、「体ていの良い左遷」とのことだ。
どうやら、『やり過ぎ』てグランディーレ・バル・コルディオ王の側近たちに追いやられたらしい。
最初は1000人程度での開墾から始まった島の開拓だったが、敵性種も少なく豊富な土地であったこともあり、わずか15年で人口5万人にまで増やすことが出来たのだと言う。
でも、俺はこの『リーガル氏』の『宰領』があったと考える。
そういう「出来過ぎる」せいで疎まれているのだろう。
急な王への謁見と言うことで『側近』たちが渋っているのだろう。
あれから1時間も経っているのに待たされたままだ。
「アツツツ・・・。尻が痛い。しばらく座りたくない・・・」
馬車に乗ること1時間で王都に着いた。
通常なら6時間はかかるところを・・だ。
スピードも尋常ではなかったがそれよりも馬車の揺れが半端なく、絶えず尻を叩かれているような状態だったのだ。
尻の皮がズル剥けたんじゃないかと思ったくらいだ。
まあ、赤く腫れあがってたのだが・・・。
「タケル。王都に入ったら例の件、頼むぞ」
「リーガル殿から預かった書状もあるし大丈夫ですよ」
そう言って、俺はリーガル氏から受け取った家紋の入った書状を見せる。
俺は、ここで待つ間リーガル氏の話の他に、この王都での頼まれごとの話もしていた。
俺の役目は、この王都にある『冒険者ギルド』に赴き『ジルダの森のヌシ討伐クエスト』の『改定』を頼むと言うものだった。
しかし、まだ『冒険者カード』も持たない俺では信用に欠ける。
そこで、リーガル氏からの書状を見せることで速やかな改定をしてもらおうと言うわけだ。
改定内容はこうだ。
『ジルダの森のヌシ大討伐クエスト』
パーティ・ソロを含む総勢20名での大規模討伐。
拘束期間は3日。ジルダの森から王都までの行き返りで2日。討伐に1日という計算とする。
募集期間は2日。先着で20名揃った時点で討伐開始となる。
ランクはA~Dの混合。報奨金20G(一人頭金貨1G)。
なお、無料でポーション(Lv.2)&マナポーション(Lv.2)を5本ずつ与えるものとする。
ただし、監視者が同行して討伐終了まで見届けるので支給品持ち逃げには罰金が課せられるものとする。
破格とまではいかないが、ポーション(Lv.2)とマナ・ポーション(Lv.2)は売れば銀貨2枚に、買えば銀貨10枚と言う価値のあるものなのだ。上手くいけば金貨2枚分の追加報酬を得たと言ってもよいのだ。
「タケル。依頼が済んだら『冒険者カード』を発行してもらえ。監視者に同行し、クエスト終了後私に報告してくれ。討伐の連絡が来次第、ルードを冒険者ギルドに向かわせる」
「分かりました」
まあ、初めからそのつもりだったので問題はない。
それよりも問題なのは・・・。
「ついでに、装備も揃えておくとよろしいでしょう」
ルードの言葉に「それだよ、それ」と心の中で突っ込む。
ただ、問題は・・・。
「そうですね。ただ、武器屋と防具屋はどこにあるのか・・・?」
「冒険者ギルドで聞くがよい。金に余裕があれば『王都の地図』を購入することを進める。種類も多いから自分に合ったのを選べるしな」
王都の地図なんて売ってるのか。
これは買いだよな。
「何から何まで教えていただきありがとうございます」
「なに、『先行投資』というやつだ。タケルには期待しているからな」
「期待に添えられるといいんですが・・」
「なに、私の目に狂いはないさ」
食えない御方だ。
だけどまずは、『実力』が伴わなければどうにもならない現状。
どうすればいいのか?
「どこかでレベル上げが出来れば・・・」
思わず口にしてしまう。
それを見て、リーガル氏が笑みをこぼしルードに目配せした。
「では、ダンジョンを利用するのが良いでしょう」
「ダンジョン?」
「この王都には5ヵ所のダンジョンがあります」
「5ヵ所も?」
「はい。ただ、初心者が入れるのは2か所です。『探求の洞窟』と『歯車の塔』。まずは『探求の洞窟』がよろしいかと」
「それはどうして?」
「ソロで入るのでしたら1階から5階層まではモンスターが固体ででしか出ないのです。ですから、『探求の洞窟』が安全ですので」
「なるほど」
ここはルードの言う通り『探求の洞窟』に入るとしよう。
「タケルよ」
「はい」
「討伐クエストの募集枠が埋まるのは早くて明日の夕刻だろう」
「えっと、どして分かるんですか?」
「今日、または明日の朝方に決まると明日には討伐に出ることになる。準備もそうだが、これだけの規模の討伐となると覚悟も必要だからな。ギリギリまでは皆考えたいのだ」
「それで募集期間を2日にしたのですね?」
「そういうことだ。だから、明後日が討伐の出発日になる」
「は、はぁ・・」
いったい、リーガル氏は何が言いたいのだろう?
「丸1日くらいはダンジョンでレベル上げが出来るな」
「ああ。確かに」
言ってニヤッと笑うリーガル氏に、俺も笑顔で答えた。
「リーガル様、王がお会いになるそうです」
「うむ。早かったな。ルード」
「承知しました」
「やっと王都の中に入れるのか・・・」
待つこと2時間。
ようやく王都へと足を踏み入れる。
馬車で5分ほどの場所に結構大きめな建物が見える。
馬車が止まり、ここが『冒険者ギルド』だと確信する。
「では、頼んだぞタケル」
「任せてください」
馬車は走り出した。
俺は見送ってから冒険者ギルドの中へと入る。
「う・・。酒クセ―・・・」
ギルドって組合のことだろう?なのに、なんで『酒場』があるんだよ。
やけに大きい建物だとは思ってたが、こういうことだったとは・・・。
しかし、元の世界での俺は酒は嫌いではなかったのに、歳が若返っているせいなのか?
酒の匂いが辛い。それに・・・昼間っから酒盛りって・・・。
早いとこ受付に行くか。
手っ取り早くすぐ目の前の受付の椅子に座る。
「受付のルアンナです。冒険者ギルドへようこそ。今日はどのような要件でしょうか?」
美人と言うより可愛い系の受付嬢が接客してくれる。
年齢は俺とさほど変わらないくらいか?
「すいません、ジルダの森のヌシ討伐の件で改定を頼みたいのですが?」
「え~と、ポルトの港町の方ですか?」
「いえ、王都に来る途中でボワウルフに襲われている馬車に遭遇しまして、その馬車に乗っていたのがリーガル・フォン・ラインバッハ様だったのですが、ジルダの森の異変の話を聞いていたらしく今の報酬金では依頼を受ける冒険者はいないだろうから改定を頼むように・・と」
「では、リーガル領主は?」
「ゴルディオ王に謁見して今回の討伐改定のことをお話しする・・と。これは、リーガル様からの書状です」
そう言って俺はリーガル氏から託された書状を受付嬢に渡した。
「・・分かりました。今、ギルドマスターに書状をお渡ししてきますので少しお待ちいただけますか?」
「あ、時間がかかるようならついでに冒険者カードの発行の手続きがしたいのですが?」
「分かりました。では、この用紙の記入事項を書いて待っていてください」
「ありがとうございます」
用紙を受け取り、記入を始める。
氏名、年齢、出身地・・出身地はどうしよう・・・。
「どうかなさいましたか?」
「あの・・出身地ですが・・・」
悩んでいると隣の受付嬢が声をかけてくる。
「もしかして、廃村にでもなりましたか?」
「えっと・・」
「大丈夫ですよ。毎年、村が無くなるのは珍しいことではありませんので、一攫千金に冒険者になろうとやってくる人は多いですから。ただ、無理はなさらないようにしてくださいね」
「は、はい。ありがとうございます・・」
「では、出身地の欄は空欄のままでお願いします」
「あ、はい。では、これで・・」
「サトー・タケル様、15歳ですね。では、ジョブの確認をしますのでこれを握ってください」
「は、はぁ・・」
長さ20センチ、幅1.5センチほどの棒を握ると棒が色づき始める。
「棒が赤くなった・・」
「サトー様の初期ジョブは『戦士』ですね」
「色でジョブが分かるんですね?」
「はい。これは昔ある錬金術士が作った色でジョブを識別できる『識別くん』です」
そのネーミングセンスにタケルは苦笑いしか出ない。
「あの・・ジョブって変更できるんですか?」
「変更は可能です。ただし、変更できるジョブがあることと『設定士』に指定された金額を払って初めて変更できます」
「じゃあ、ジョブってどうやって増やすのですか?」
「基本となる『戦士』、『魔法使い』、『狩人』、『僧侶』の4つのジョブは設定士のところで売っています。他のジョブはダンジョンの宝箱に入っている場合と階層ボスを倒した時に稀に手に入ります。また、レベルを上げたことで得られる場合もあります。ですが、この場合どのようなジョブを得られるかは決まっていませんので、必ずしも欲しいジョブが手に入るとは限りません」
「宝箱や階層ボスを倒して得られると言っていましたが、ジョブって物理的なアイテムってことですか?」
「いえ、宝箱なら開けた本人の職種としてストックされます。階層ボスを倒した場合に得られるのは、倒した時にその場にいる者たち全員に与えられるのです」
「じゃあ、設定士は基本の4つのジョブを欲しい人に与えることが出来て、その上でジョブの入れ替えもできると言うことですか?」
「そうなります。しかしそのどちらもお金がかかりますけどね」
なるほど。
そうなると他にも気になることがあるなぁ。
「設定士は1日何人でもジョブ変更が出来るんですか?」
「設定士がジョブ変更が出来るのはMPがあるうちだけです」
「じゃあ、もしかして上級職のジョブなどの変更にはMPの使う容量が違うとか?」
「よく分かりましたね。系統の違うジョブへの変更や上級職のジョブへの変更に使うMPも上昇します」
「それで金額も違うわけですね。あと、ジョブの変更時に冒険者カードのジョブの表示は・・」
「そちらも設定士の仕事になります。また設定士にはジョブを変更する相手のストックしているジョブを確認するこもできますので、今、自分が持っているジョブの確認もしてくれます。もちろん、有料ですが・・」
ふむ。ここまでは思った通りと言えるだろう。
しかし、俺は設定士のところを使うことはないな。
となると、あとは・・。
「上級職になるには、ジョブを持っていれば設定士にジョブ変更してもらえるんですか?」
「いえ、上級職にはいくつかの条件をクリアーする必要があります」
「それって、決められたジョブを持つこととかレベルを上げるとか?」
「持っているだけではダメです。一度はジョブ変更する必要があります。例えば、『魔法戦士』のジョブに変更したい場合『戦士』と『魔法使い』のジョブになったことがないと『魔法戦士』のジョブに変更が出来ないのです。また、『騎士』にジョブ変更したい場合は、『戦士』、『剣士』、『槍士』、『闘士』の4つのジョブに変更したことがあり、尚且つレベルが20以上の場合にのみ『騎士』にジョブ変更ができるのです」
「となると、持ったジョブは変更できる分は全部一回は変更した方がいいんですね?」
「お金に余裕があればですが・・・」
なるほど。
この世界でのジョブの認識が分かった。
1.ジョブは単なる「職種」ではなく、ジョブ自体にも『価値』と言うか『地位』があるのだと言うこと。
1.『設定士』というジョブに生まれたものにしか設定の変更はできない。
1.また設定士は、『基本職』と呼ばれる4種類のジョブを望む者にお金を対価に与えることができる。
1.設定士には相手の持っているジョブを見通すことが出来る。
1.設定士はジョブを変更した際、冒険者カードのジョブ欄の変更もしなくてはいけない。
1.上級職へのジョブ変更には定められた条件をクリアーしないと変更できない。
1.ジョブ変更は、系統別、上級職などによって金額が違う。
1.ジョブを増やすには、ダンジョンで宝箱か階層ボスを討伐した時に稀に得られる。
1.俺の場合は自分でジョブ変更するべきである。
「最後にですが、ジョブは一人一つしかつけられないのですか?」
「はい。一人につ一つしかジョブはつけられません」
だよな。
そうじゃないと、チートキャラだらけになってしまう。
「それでは、冒険者カードを発行させていただきますね。しばらくお待ちください」
「よろしくお願いします」
受付嬢は自分の持ち場に戻り冒険者カードの発行の手続きを始める。
そこで、ルアンナが戻ってきた。
「お待たせしました。ヌシ討伐の件は王国からの返事があり次第変更します」
「分かりました。よろしくお願いします」
「お承りました」
これで一応、俺の今できる『役目』は終わった。
ここからは、俺自身のために色々やらないとな。
「すいません。王都の地図を売っていただきたいのですが」
「5種類ありますので、今お見せしますね」
そう言うと、ルアンナは地図を取り出し見せてくれる
「細かく書かれているのが一番高い地図です。こちらは、冒険者御用達用の地図です。これは、簡略して書いてある地図で、これは、王都初心者のための要点だけで作られた地図で、最後のが安物紙に書かれたものになります」
5つを手に取り見比べる。
今の俺には、初心者用か冒険者御用達の物が良いだろう。
後々のことを考えると、冒険者用が良いだろう。
「すいません。冒険者御用達のでお願いします」
「では、銅貨30枚になります」
「これでお願いします」
金貨1枚を取り出して渡す。
何か、ルアンナさんの表情が笑顔のまま固まっているような・・。
「では、銀貨99枚と銅貨70枚のお返しになります」
「ありがとうございます。あ、そうだ。王都に拠点を作るべきだと思うので、良い宿屋はありませんか?」
「ギルド御用達の宿屋がいくつかあります。私のお薦めは『四葉亭』ですね。一泊二食付きで銅貨50枚とリーズナブルなお値段で、部屋もそれなりに奇麗なんですよ」
「料理も美味しいですしね。はい。冒険者カードになります。なくさないようにしてくださいね」
隣の受付嬢が、冒険者カードを渡してくれる。
「あら、ルージュが冒険者カードの手続きしてくれたのね」
「暇だったからね」
「ルアンナさん、ルージュさんありがとうございました。あと、色々と良い情報を教えていただき重ね重ねありがとうございました。じゃあ、早速『四葉亭』に行こうと思います」
「またいつでもいらしてくださいね」
「聞きたいことがあったら教えてあげるから」
「その時はよろしくお願いします」
こうして、俺は冒険者ギルドを後にする。
地図を片手に、まずは『四葉亭』を目指す。
全てはそこからだ。
書き足ししました。
次回はまだ細々した話になると思います。