初めての戦い
「戦闘の準備をしないと・・・」
なるべく冷静にと言葉を口にすることで行動の確認をする。
銅の大剣を鞘から抜き、剣道の竹刀を持った時と同じように構える。
「中学の授業でやって以来だけど、これでよかったはず・・・」
両手持ちで大剣を持って分かったことは、竹刀とは比べ物にならないほど重いってことだ。
振り回せないほど重くはないが、自在に使いこなせるほどではない。
「魔法との併用で戦うしかないな」
あとは、『ヒーロー』の能力が発動してくれれば・・・。
ようやく肉眼で馬車の状況が把握できた。
馬車の周りを複数の犬?いや、オオカミが追走しているようだった。
「相手が隙を見せるのを待っているのか・・・」
馬車が俺のところに来るのはあと5分と言ったところか・・。
俺は大剣の柄を握り込み馬車が来るのを待った。
「来た」
覚悟を決め俺は馬車へと駆け出す。
すれ違いざまにオオカミを斬るんだ。
「たあ――っ!」
馬車の脇を駆け抜け、一匹のオオカミの横を斬りつける。
力の加減もできず、力一杯に振りぬいたことでオオカミの胴体は斬り裂かれ血飛沫を上げた。
「やったのか?――うぷっ」
斬り裂いたオオカミを見て確認すると、腸が飛び出て血だらけのオオカミが息絶えていた。
そのあまりにも残酷な姿に俺の体内の胃液が逆流するのを必死で抑えた。
通り抜けた馬車の後方から身をひるがえし、3匹のオオカミが俺の方に駆けてくる。
「惹きつけて――プチ・ファイア!」
掌から激しい火が溢れる。
オオカミ3匹を全部包み込んだ。
焼け爛れたもののオオカミたちは生きながらえていた。
「ィヤ―――ッ!」
焼かれた身体を引きづりながら何とか立ち上がったオオカミたちを斬っていく。
一匹は首を切断し、また一匹は胴体を斬り裂き、最後の一匹は背中に大剣を突き刺した。
「あと何匹?」
興奮と高揚感が心が満たされていく。
「ダメだ・・」
今、抱こうとするこの感情は俺の求める『ヒーロー道』じゃない。
「スゥ――――ハアァァァッ」
息を整え視界を広げる。
クールダウンしろ。
冷静に対応しないといけない。
2匹のオオカミが左右から挟み撃ちの要領で仕掛けてくる。
「プチ・ラファール」
左の掌をかざして言う。
突風が生まれ2匹のオオカミを吹き飛ばした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方そのころ馬車は、少し距離を取って止まっていた。
「旦那様、いかがなさいましょうか?」
「しばし様子を見る」
「御意」
馬車を運転する執事風の『タキシード』に身を包んだ男は、馬車の中にいる『旦那様』と会話する。
既にオオカミたちの視線はタケルを標的に変えていた。
「何の目的で私に近づいたのか・・・」
自分を『リガール領の領主・リーガル・フォン・ラインバッハ』と知ってのことか・・。
それとも・・・。
小さな木枠の穴を隠すようにかかったカーテンを少しめくり、そこからタケルをノゾキ見る。
タケルの火の魔法で燃えるオオカミたちがそこにいた。
すかさず、止めを刺していく。
手際は悪くない。
しかし、次の瞬間ラインバッハは信じられない物を見ることになる。
「なぜ、そこで切り替える必要があるのだ?」
普通、一つの戦いにおいて戦闘が終わるまでは良い流れを崩さないようにするのが定石なのだ。
一度、自分の『勝ちパターン』に入った場合はそのリズムを崩さないように行動することを心がける。
なのに、目の前の少年は息を整え、今までの闘いの流れをリセットしたのだ。
相手の流れを断つと言うためなら分かるが、明らかにタケルが有利の戦いであるにも関わらずそれを断ち切ったのだ。
「ほぅ・・」
気を取り直し左右から連携を仕掛けるオオカミ。
タケルの謎の行動でオオカミたちの動きが変わる。
しかし、その攻撃もタケルは風の魔法で軽くかわしたのだ。
「面白い少年だな・・」
ラインバッハはタケルの戦い方を見て、笑みをこぼした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2匹のオオカミを吹き飛ばし、オオカミたちの行動に視野を広げる。
何で、このオオカミたちはわざわざ馬車を狙ったのか?
よくよく考えたら変な話だ。
テリトリーを荒らされたとしても深追いする必要性はない。
餌として獲物を狙うにしても、『馬車』を狙うと言うのは利口ではない。
だとしたら・・・?
オオカミたちの視線はすでにタケルだけに向かっている。
残るは6匹。
1匹だけほかのオオカミより二回りほど大きい。
「あれが群れのボスか・・」
・・あれ?なんだろう。
違和感を感じる。
よく観察するんだ。
「―――っ!?」
オオカミたちが一斉に駆けだしてくる。
だが、同時ではない。
微妙にタイミングをずらした動き・・統率が取れた行動だ。
だけど・・・。
「動きが悪い・・・?」
統率はしっかりとれているし、迷いもない。
なのに、動きが精彩さに欠けている。
『俺』でも回避できるくらいに。
目を凝らし、よく観察してみることにする。
「・・・・・・・・・・」
攻撃をかわしながら観察を続ける。
すると、俺の目に変化が起きる。
―ボワウルフ(森狼)ー
森でのみ生息する魔物。
群れで行動し、連携のとれた動きは容易に獲物を狩る。
自分よりも各上(知力の高い)の相手を察知する能力に長けており、その前に姿を見せることは滅多にない。
オオカミに『ピント』が合うと、頭の中に『相手の説明』が入ってくる。
「・・なんだこれ?あ、もしかしてこれは『心眼』の能力か?」
そこで、まだ終わってはいなかった。
―ボワウルフ(森狼)ー
森でのみ生息する魔物。
群れで行動し、連携のとれた動きは容易に獲物を狩る。
自分よりも各上(知力の高い)の相手を察知する能力に長けており、その前に姿を見せることは滅多にない。
Lv.3 HP:3/25 MP:0/0
10日間、草以外食しておらず空腹で限界にきている。
もはや、理知的な判断はできず、本能の赴くままに行動している。
森に新しい主ヌシが現れ、森の食べ物食い荒らしているため困っている。
「そう言うことか・・・」
どうやら、森に現れた新しいヌシの出現によって、森の食料を根こそぎ食べられたということだろう。
それで空腹に負けて食料になるならと襲ってきたと言うわけか。
「アイテムボックス、オープン。干し肉を全部・・・」
手元にある干し肉3つを取り出す。
「おい。これをくれるから食べろ」
そう言って居俺は干し肉を投げ渡す。
オオカミたちが寄っていくのを確認して、俺は馬車に向かった。
「すいません。自分の名は、サトー・タケルと申します。ぶしつけなお願いですが食料を分けていただけませんか?」
「食料?」
訝しげな表情を見せるタキシードの男。
当たり前か、こんなことを急に言われたら誰でも怪しむ。
「はい。お金なら金貨が一枚ありますので・・・あの『ボワウルフ』たちは腹を空かせているだけなのです。ですから・・・」
「ルード。食料を分けて差し上げよ」
「承知いたしました、旦那様」
馬車の中にいるであろう男性の声が聞こえ、タキシードの男はすぐに行動に移す。
「一つ聞いてよいか?」
「なんでしょうか」
タキシードの男が袋に食料を詰め込んでいる間に、馬車の中の男性が口を開く。
「相手はモンスター。君の腕なら退治できると思うが?」
「できます。ですが、相手は知性を持ち普段なら私たちの前には姿さえ見せない『無害なモンスター』と言えるでしょう。そのボワウルフがここまで大胆な行動をとったとするならば、テリトリーを荒らされたか、それとも・・」
「追い込まれた何かがあったか・・と言うことだね?」
「はい。そう言う答えが出るかと・・」
馬車の中の男性は教養があり知性も十分に高いことが窺える。
これは、さぞ名のある『御仁』なのだろう。
「今回、ボワウルフたちの統制は取れていましたが動きに精彩さがありませんでした。そこで観察してみるとボワウルフたちが痩せ細っていることに気づき、餌不足ではないかと・・」
「良い観察眼だな。しかし、ジルダの森は食料の宝庫と言われ、狩人の良い狩場になっていたはずだが・・・ルード、何か知っているか?」
そう聞かれ、ルードは俺に食料の入った袋を渡すと馬車の中に向かって顔を向ける。
「はい。ポルトの港町で情報得たところ、森にヌシが現れ食料を根こそぎ食べつくしているらしいと」
「討伐以来は?」
「1週間ほど前に出した・・とのことです」
「依頼における報酬はどうなっている?」
「金貨2枚だと」
「少ないな。それでは冒険者も依頼を受けまい」
「ですが、旦那様が出られるのは問題かと」
「ゴルディオ王に直接願い出るしかないか?」
「それが良いかと」
テキパキとした受け答えに俺は少々ビビっていた。
馬車の中の御仁はどうやら、ある程度の地位にいる御方らしい。
「タケルよ」
「は、はい」
「早く、その食料をボワウルフにあげてやるがよい。お主には一緒に王都に来てもらわねばならんのでな」
「一緒に?」
「頼みたいことがあるのだ。早くせい」
「りょ、了解しました」
急ぎボワウルフの下に行き、食料を与える。
「悪いが、食べ終えたらおとなしく森に戻ってくれよ。必ず森にいるヌシは何とかするから・・」
ク~ンと鳴き声を上げ、ボワウルフのボスは仲間を引き連れて森へと戻っていった。
「お待たせしました」
言ってルードの横に座る。
「うむ。ルード、急ぎ王都に向かえ」
「全速力でよろしいですか?」
「構わぬ」
「では、失礼して―――八ッ!」
掛け声と鞭を思いきり馬に叩き付けるルード。
馬の走りは一気にハイスピードに乗る。
あぜ道のせいで度々馬車が跳ね上がる。
ケツがイテーよ。
「タケル。王都に着いたら冒険者ギルドにいってくるか?」
「それはいいのですが・・俺、田舎の出なので王都は初めてで・・」
「そうか。詳しく案内したいところだが、今は時間が惜しい。今回は頼み事を優先してくれ」
「分かりました」
「詳しくは、王都に着き次第話すとしよう」
色々あったが、タケルの思惑と違い王都に向かうことになった。
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ただ今のタケルのレベルは、
サトー・タケル
年齢:15歳 種族:ヒューマン クラス:ヒーロー 職種ジョブ:戦士 ランク:G 所持金:10G
装備:「頭部: 腕部: 胴部:異世界のYシャツ・異世界のネクタイ・皮の鎧 脚部: 足部:革靴 武器:銅の大剣」
Lv.3 HP:21/21 MP:13/15 Exp:(2/100) アイテムボックス:(9/999)
筋力:15 体力:19 敏捷:10 器用:10 知力:13 理性:29 幸運:8
アーツ: 剣術Lv,2(0/100) 武術Lv.1(0/100) 槍術Lv.1(0/100) 斧術Lv,1(0/100) 弓術Lv.1(0/100) 棒術Lv.1(0/100) 刀術Lv.1(0/100) 忍術Lv.1(0/100)
マジック:火魔術Lv.1(75/100) 水魔術Lv,1(0/100) 風魔術Lv.1(55/100) 土魔術Lv.1(0/100) 光魔術Lv.1(0/100) 闇魔術Lv.1(0/100) 火法術Lv.1(0/100) 水法術Lv.1(0/100) 風法術Lv.1(0/100) 土法術Lv,1(0/100) 光法術Lv.1(0/100) 闇法術Lv.1(0/100) 精霊術Lv.1(0/100) 召喚術Lv.1(0/100) 錬金術Lv.1(0/100) 薬術Lv.1(0/100)
技:「 ヴァッシュ(疾風斬り) 」
呪文:「 プチ・ファイア(弱火魔法) プチ・アクア(弱水魔法) プチ・ラファール(弱風魔法) プチ・ラピス(弱土魔法) プチ・ヒール(弱風回復魔法) プチ・キュアー(弱水治癒魔法) 」
特殊:「 土の造形 自動翻訳 心眼 」
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明日はUPできないかもしれません。
一応、頑張ります。