プロローグ
小さい頃、男の子が誰でも憧れる存在『ヒーロー』。
俺も漏れることなく仮面〇イダーやウル〇ラマンに憧れたものだ。
でも、年齢が上がるにつれて「ヒーローなんてこの世にいない」ということ知る。
いや、形は違えども『正義の味方』は存在すると思っていた。
警察・医者・弁護士・自衛隊・・・正義や人助けをするはずの職業は数あれど、それは市民の味方ではない。
金持ちだったり、企業だったり、法律だったり『人』は後回しである。
それだけならまだいい。
『正義の味方』のはずが犯罪に手を染めるなんて今の世の中では当たり前になりつつある。
正直者が馬鹿を見る。正義を振りかざせば加害者扱い。人助けをしても免許がなければ犯罪者。
その場しのぎの正義感は弱者にさえ疎まれる。正論を言えば怒鳴られるか暴力沙汰になることも・・・。
この世には『ヒーロー』なんていない。
触らぬ神に祟りなし。見ざる聞かざる言わざる。は、少し意味が違うか。
兎に角、この世は完全なる正義も悪も存在しない。
価値観は人によって違うのだ。
佐藤毅33歳。独身。彼女いない歴=年齢。
ローカルスーパーの正社員で、過去の栄光にしがみつく上司に怒鳴られながらも毎日を淡々と過ごしていた。
この日までは―――。
きっかけは『万引き』を見つけたことだった。
正義感からではなかった。お店の損失は結果的に正社員の給与に反映されるから・・。
だから、お店を出たところで呼び止めた。
本来なら、捕まえるよりも万引き自体をさせないようにすればよかったのだ。
きっと、俺のどこかに「悪い奴は許すな」というバカみたいな正義感があったのだろう。
取っ組み合いになり、突き飛ばされた俺は当たり所が悪くあっけなく死んだ。
「何やってんだろうな・・」
何もない真っ白な世界。
影もないはずなのに『真っ白』だと感じる空間。
ただ、ここは『死後の世界』だと理解できた。
ここから『天国』か『地獄』に行くことになるのだろうか?
『君は面白い死に方をしたね』
それは直接脳に聞こえた。
いや、響いたと言うべきか・・。
「面白い・・のか?」
まあ、バカ丸出しだったのは認めるが・・・。
決して面白くはない・・はずだ。
『いやいや、今の世では珍しいよ。君みたな一般人がなけなしの正義感をふるって死ぬなんてさ』
「若さゆえの過ちってやつじゃないか?」
『ないない。今の一般人は見て見ぬふり、我関せずが普通でしょ』
「まあ、それが利口な生き方でしょ」
正義感で口を挟めば痛い目に合うのはざら。
悪くすれば殺されることさえある。
正義など、正論などだれも望んじゃいない。
『そうだね。正しいことを言うのも正しいことをするのも自己満足にしかすぎない』
「結局、『力』が無ければ何をやっても何を言っても誰も聴いちゃくれない」
『じゃあ、君はその『力』があったらどうするんだい?』
「そりゃ・・・正義の味方、『HERO』にでもなるかな」
『君の言う『ヒーロー』って何だい?まさか、全部を救うとか言わないよね?』
「それは物理的に無理だろうな」
それは『ヒーロー』とは言えない。
それが出来るとしたら、『神』だけじゃないのかと思う。
『ヒーロー』ができるのは、自分の手の届く範囲で『自分の持つ正義の価値観』を行使することだけだ。
『じゃあ、君の『ヒーローの価値観』を試してみるかい?』
「はぁ?どういうことだ。生き返らせてくれるってこと?」
『元の世界じゃないけどね。君がいた世界よりももっと混沌とした世界』
「地球以上!?」
『全てが『力と地位と金』で決まる剣と魔法の世界・アレイア。どうだい、君の正義を試してみないか?』
「正義って・・。人によって違う物なんじゃ・・・」
人によって倫理観は違う。
しかも、一つの世界としてすでに構築されているのだ。
そこに異物が入ることは良いことと言えるのだろうか?
『だから言ってるでしょう。君の正義に基づいて行動していいんですよ』
「・・・もし、それで俺が悪意に染まったら?」
『それはそれですよ。それも君の望んだ道なのでしょうからね』
「・・・・・」
どこかで『試してみたい』と考える自分がいる。
昔、男の子ならだれもが憧れた存在。
もし、なれるのなら・・・と。
『じゃあ、君に『力』を与えよう。上手く使ってくれよ』
異世界・アレイア。
俺の・・俺だけの『ヒーロー道』が始まる。
『ああ。言い忘れたけどヒーローは最初からヒーローだったわけじゃないからね』
「それってどういう・・・」
『じゃあ、ガンバってね』
俺の視界は暗転していった。