第7話 使者が来ちゃいました。
王宮からの使者っていう、ただのえらそうな使いっ走りがきて、冒険者は町の広場に集められました。
そしてウダウダ長いだけで全く要約されてない説明をはじめました。
ファンタジーのこういった広場には、だいたい噴水あるよね。なんて考えながら、私はウトウトしてました。
「我々は具体的に何をすればよいのでしょうか? 説明を要求します」
たしか……誰だっけ?
せっかく気持よく眠れそうだったのに、急にハキハキしゃべるからびっくりでした。
じゃましないでよね、まったく。
しかもこの言い方、なんかハナにつきます。
「さすがシンジくん、堂々としてすごいね〜。センスもあるしソロバンも弾けるし……」
ビッチは何でもノーガードでアグレッシブにほめます。
しかも『会話のさしすせその法則』を見事なまでに使いこなしていました。なんか一つ二つヘンなのがまじってますけど、恐るべしです。
使者は咳払いをしてから親書を読み上げました。
『えっとぉ
ボクちんゎぁ
第一王子ってる (エヘン!)
ナントカーニ三世なんだけどぉ
ナントカ123じゃないからぁ
きぉつけてってゅぅかぁ
しれんのどーくつにいかないとぉ
つーかぁ
そのおくのぉ
きぉくのぃずみってとこにいかないとぉ
ぉぅサマになれないだってぇ
たすけてくれたら ぅれしーなぁ なんちゃってー
にょろしくどえーす!』
「か、かわいい感じですねぇ〜」
若い女子に媚びて、メールやラインでかわいく振るまうオッサンみたいでした。気がしました。
とくに「どえーす」から加齢臭がしました。
さすがのビッチも引き気味です。
「カンナ。ウチたち王宮に行けるかもだよ〜。きっとステキなところだよ〜」
ごめんです。
王宮なんてところは、インボーうずまき互いが互いを出しぬくことにヤッキになって、気の休まるヒマなんてありやしません。
だからナントカ王子は壊れモノになったと思います。
「かわいい、馬車でのお出迎えだよ〜。楽しいよ〜」
矢が向けられなければですけど。
「スイーツも食べたことないくらいおいしいよ〜。ほっぺた落ちちゃうよ〜」
一服盛られてなければですけど。
ひょっとしたら二、三服盛られてるかもしれません。
ひとくち食べたらさいご、ポックリ即死です。
ビッチの危機管理能力、疑ってしまいます。
「王子様もきっと見たこともないくらいイケメンだよ〜」
文面から、それはないです。
つまるところ、王位継承するためには『試練の洞窟』の奥にある『記憶の泉』に行かなきゃだめだそうです。
理由は分かりません。
今回、ナントカって王子さまが挑戦するそうで、その護衛を冒険者にしてほしいってことでした。自分たちでやればいいじゃん。
【違うよ。ナントカーニ三世王子だよ】
ハチベエ、地の文にツッコミ入れてきました。
そーゆーことすると感想欄でツッコミはいるかもしれないから気をつけてよね。空気読んでよね。というか一生黙っててね。
「ほほう。王家の王族を守る警護の護衛か。俺が最も最適かつ適任かつ妥当かつ公正かつである、と言えなくもないわけではないな」
なぜかマルハゲドンのドンちゃんもいました。
ドンちゃんは、いつものようにビッチの胸元ばかり見てました。
ビッチは腕組みして悩んでます。ってかそのポーズ、駄犬にエサをやっちゃダメだよ。
案の定ドンちゃん凝視です。目力みなぎってました。
そのとき、私たちと一緒に転移してきた赤髪ピアスのザコがビッチに近づいてきました。
そして耳元でなにやらこそこそ話をしてました。
「えー! みんなですかー! みんな廃人になっちゃうんですかーっ!」
ビッチは脳ミソがトロトロだから、ひそひそ話を大声で復唱してました。
王宮からの使者は、いやーな顔をしてました。図星のようです。
ザコは開き直ったのでしょう、大声をあげました。
「アヤ。行ったらダメだ。ここに残れ。そして、そして…………俺と付き合え!」
「ダメだよ。だって冒険者は、困っている人がいたら助けなきゃ、ですよ」
ビッチは間髪入れずに断りました。
ビッチにしては手負いの獣のはずです。仕留めるに絶好の獲物です。
なんで? と思ったとき気づきました。
ビッチの誘うような笑顔に、みんなトロンとした顔して籠絡されてました。
一を切り捨てて十を得る。さすがビッチです。しかもザコ、一ではなく〇.五くらいです。
今夜は、すんごい濃密な夜になりそうです。
結局護衛は、ビッチがすることになりました。
この間ドンちゃんの視線は、揺るぐことはありませんでした。