第6話 新人教育おわっちゃいました。
あまりの勢いに、みんなボケーっとしてました。
しばらくしてイカ男が言いました。
「冒険者たるもの酒をたしなんでこそ、一人前と言える。貴様らは酒が飲めるのか?」
モブ二人とコフリンは、返事できる状態じゃありません。
残った一人も、きちんと答えられそうな人じゃありません。
イカ男、やっと気づいたようで「チッ」って舌打ちしてました。
でも、当然答えられそうじゃない人ことドンちゃんは、全然求められていないのに口を開きました。
「くだらぬ愚問だ。昨日の昨晩もカルアミルクを軽く簡単に十三杯はあおり呑んだばかりだ」
カルアミルク、そんなに飲めるんだ。ある意味すごいと思いました。
「わあ! すごーい。酒豪ですねぇ。今度ご一緒してもいいですかぁ〜」
ビッチ、なんちゃらフレンズばりに、手放し放題でほめまくりました。
このほめ方は、人を伸ばさないほめ方です。キミは男をダメにするフレンズなんだねっ。
ドンちゃんはだらしなくヘラヘラしてました。
だけど視線だけはいっさいブレずに、ビッチのゆるい胸元をとらえてました。骨抜きにされたのに、ここだけ芯がしっかりしてました。
「なんなら、一杯やるか?」
イカ男はビン一本とコップ二個、とり出しました。
そしてビッチにお酌をさせます。
ビンのラベルには『ヨーメー酒』と書かれてました。健康に気を使うフレンズ?
おかげで絵面は、酒場で冒険者たちがジョッキになみなみつがれたエールを、ゴクゴクって感じにはなりませんでした。
ドンちゃんはあろうことか、コップをくるくる回しはじめました。もしやスワリング?
そして匂いを楽しんでます。十四種類の生薬の匂いですけど……。
そうこうしていると、イッテツが洞窟からでてきました。
キビシイ顔で右手に黒い物体をもってました。なんだろ?
「これが目に入らぬかっ!」
イッテツはそれをつきだしました。
私は反射的に土下座しちゃいました。
でも土下座をしながら、殺ってしまうタイミングをうかがってました。なんでだろ?
「そ、それは……ゴキ虫……」
ビッチ、イカ男、ドンちゃんがハモりました。
ひゃー! キングオブ害虫! キモさマックス! マックス・ア・ゴーゴー! ゴキ虫ですと!
悪寒と頭痛と吐気と震えと寒気とめまいと……あとなんだっけ? 武者震い? とにかくいろいろでした。
うずくまってる私にハチベエが言いました。
【カンナ。ただの虫じゃないか。平気だよ】
平気ならアレ喰えや!
余計なことをぬかしやがる人形風情は、おクチにチャックを縫いつけて心を叫ばせようと思いました。
「そう言えば聞いたことがある。体にゴキ虫を取り込むと、不死身になるとかならんとか」
イカ男が呟きました。それってどこのマンジさん? それともマトー何夜?
「アキコ! しっかりせいっ!」
イッテツはコフリンのスカートをめくりました。言ってることとやってることが、ちぐはぐです。
そしたら、スカートからゴキ虫が一匹でてきました。
コフリンはスカートの中にゴキ虫が入って、あばれてたようです。人さわがせだな、もう。
ついでにモブ二人は、ゴキ虫の巣、ゴキ穴におちてゴキ汁まみれになったようでした。あれなら放心しても仕方ないです。
ゴブリンとのヒメゴトもイヤですが、同じくらい間違ってるダンジョンの出会いです。よく戻ってきたと泣けてきました。もう一生めんどうみてあげるからね。でも食事の世話とシモの世話は誰かにたのんでね。それと食費と住むところも提供できる人も自分で探してね。
ビッチはゴブリンがいないこと、知ってたみたいでした。
ついでにゴキ虫の巣だってことも、知ってたようです。ケラケラ笑う顔が、久々にゲスく見えました。
「試練を乗り越えたキサマらに、言っておくことがある」
イカ男、全員を一列に並ばせました。相変わらずの上から目線です。試練ってゴブリンいないじゃん。虫のいい話に、虫唾が走り虫の居所が悪いです。でもみんな虫も殺せない顔で見上げてました。
「俺の名を言ってみろ!」
「ヤスヒロ」
わたしは間髪入れず言いました。
みんなビックリしてこっちを見てました。そんなにおどろくこと?
「お嬢ちゃん、いつの間にきたんだ?」
ステルスのスキルはサスガです。
ビッチ以外、だれも気づいてないだろうなぁってことは、うすうす感づいてました。
オチが酷いです。