第4話 イカ男にマルナゲしちゃいました。
「ゴールドさん!」
違う、ヤスヒロ。またはイカ男です。ややこしいな。
ビッチ、昔殺されそうになった男にも、平気で愛想ふりまいてました。
ビッチは頭がニワトリくらいだから、三歩で忘れちゃったみたいです。
「アヤちゅわ〜ん」
イカ男、すでに籠絡ずみでした。さすがビッチ、見境ボーダレスです。見境のないイシダンです。もうおどろきもしません。
ビッチはデレるイカ男に、かくかくしかじか説明してました。
だけどイカ男はビッチのゆるい胸元にくぎづけでした。話、聞いてるのかな?
ドンちゃんを見ると、ドンちゃんもガン見してました。
なのにビッチ、気づく様子はありません……ってまさか。すでにビッチの負けられない戦いが、始まってるのかな? さすがビッチです。ナチュラル・ボーン・ビッチです。
「分かったよ、俺に任せてくれ」
イカ男、ドンと胸をたたきました。全く板についていませんでした。私の胸は板がついてる? ほっといてよ!
心臓、だいじょうぶかな。口内炎、だいじょうぶかな?
イカ男は偉そうなそぶりで、新人の前にのっそのっそ歩いていきました。
なんだか法案に反対する人達がゆっくり投票する仕草ににてました。そんな気がしました。
「まずお前たちに、言っておくことがある」
みんなが静まり返りました。
「オレの名を言ってみろ!」
かたずをのんで、そんしました。
「ゴールドさんっ!」
なぜかビッチが答えました。おそらく脳みそが金ピカなのでしょう。
盛大にお手つきをしたビッチは、自分の犯した罪にも気付く様子なく、ヘラヘラしてました。
「うむ、極度に極めて上質にいい名前のネーミングだ。興味と関心がつきないこともないことはないな」
ドンちゃんの言いたいことは、わからない訳でもなくもないです。要するに分かりません。
「強くなるためには、どうすればいいか知ってるか?」
イカ男、そんなドンちゃんをスルーして、上から目線で言いました。ゴブリンより弱いのに。
ビッチ、う〜ん、う〜んと小首を右左にかしげてます。
ビッチ、一応、勇者なんだよね。英雄なんだよね。
新人たちは、だまってしまいました。たしかにフワッとして、返答にこまる質問です。
なのにイカ男、見下すように顎を上げてました。
「それはな…………実践だよ」
もったいつけたわりには、ありきたりな答えでした。
「実践ってモンスターと戦うんでしょ? 無理よ、怖いわ」
幸薄そうで古風な不美人、アキコ改め、コフリンが両手で顔をおおいながら、しゃがみ込みました。
しぐさがいちいち古臭いです。
レースの白い丸襟がついた濃いピンクのワンピースも、フリルのついた腰から下だけのエプロンも、膝小僧を半分だけ隠した白いソックスも、さびれた旅館のトイレにあるような木でできたつっかけも、中途半端な古臭さに拍車をかけてます。
「上等じゃ。受けて立つわい」
そう言いながら、両手を腰のところから頭の上へと勢い良く持ち上げたのはイッテツです。
ひっくり返ったちゃぶ台が見えたような気がしました。エアーちゃぶ台?
イッテツはイッテツでいいと思いました。
「えー!」
「うそー!」
「信じらんないー!」
残りは、ありきたりな反応でした。