第3話 おじいちゃん先生にたのまれちゃいました。
「カンナ! なんで勝手に帰っちゃうかなぁ」
ビッチ、腕を組んでつま先トントンしながら、ほっぺたふくらましてます。
ビッチ、ごめん……怒りたいのはこっちなんだけど。
豪華な馬車は、ほぼ荷馬車。豪華なスイーツは、黒バナナ。極めつけに、勇者様はただのオッサン。
海のように広く深い心でも、限界はあるからね。覚えておいてね。
「あのさ〜、カンナ。またお願……」
「やだ」
間髪入れずに断りました。
「話だけでも聞いてくれないかなぁ〜」
少し考えましたが、話だけ聞くことにしました。
「サンキュー、カンナ! お〜い、こっちこっち〜」
ビッチ、手招きしてます。このセツナ、話だけではなくなりました。
そして、セツナと思ったわたしは、のちのち後悔することになりました。
「あのね〜、あそこの神殿のナントカ・ナントカっておじいちゃんいたでしょ〜。その人に頼まれちゃったんだよね〜」
そこには5人の若いだけのパッとしない男女が並んでいました。
ってかビッチ、あのおじいちゃん、ナントカ・フォン・ナントカ・ナントカ伯っ。「フォン」と「伯」くらいは覚えてよね、まったく。
で、ビッチが言うには、おじいちゃん先生に新人の教育をして欲しいってことでした。
と言うのも、あれから転生しては行方不明を繰り返しているようで、まともに冒険者になる人、0人。
行方不明とやんわり言ってるけど、はっきり言ってナムーです。ナムー。
「こっちはカンナ。君たちの大先輩ですっ」
ビッチ、私に構わずどんどん話、進めていきます。私、構わなきゃダメなんじゃないの?
「じゃあ〜、一人ずつ自己紹介してもらおうかな〜」
「アスカです」
苗字、ソーリューって言わない?
「ナオトです」
ダテ? キリハラ? シロガネ?
「イッテツです」
ちゃぶ台返す? 目、燃える?
「アキコです」
隣の人の娘? 弟、ヒューマ? 木陰で泣く?
「ボクは永遠の刹那。フェニックスの麒麟児。神童の申し子。アキラだ!」
一人、すごいのがいました。早くもここから立ち去りたくなりました。
【新人って初々しくていいねぇ〜】
なんの関係もないハチベエが、ひとごとのように横から口だししました。
ちょこっとだけ、その舌、引っこ抜きたくなりました。
「皆さん転生、お疲れ様で〜す。大変でしたね〜」
そのビッチの口調に大変さは感じられませんでした。とってつけた感、満載です。
「あの刹那、驚きを超えて驚嘆すら嘆いたさ。そうだね、あれこそまさに世界崩壊の崩れる足音の音。この世の終わりの終焉的深淵の淵。マルハゲドンの前兆の兆しを刹那に感じたね。刹那に」
「うんうん、分かります分かります」
アキラ改め、マルハゲドンのドンちゃん、刹那率高いわりに意味不明でした。
ハイ・セツナ・ロー・イミでした。ビッチ、本当に分かってるのかな?
ビッチ、ドンちゃんの言うことに、いちいち心配そうにコクコク頷いてます。
私はそんなビッチが心配でした。
その時、遠くから声が聞こえました。
「俺の名を言ってみろっ!」
どこか遠くへ行きたくなりました。