第2話 勇者さまにあっちゃいました。
馬車が止まりました。
どうやら勇者さまとの待ち合わせ場所に着たようです。
どんな人かな? かっこいい王子さまかな? ワクワクが止まりません。
【カンナ、バナナ食べないならちょうだい】
感じの悪い声が幸せ妄想を打ち消しました。
せっかくのいい気分を人形ごときにジャマされました。
「ダメ」
人の気持ちがわからない人形に、あげるバナナはありません。
バナナのかわりに、ハチベエをむいてやりたくなりました。中身はなにかな?
ビッチがてくてく歩いて行きました。
どうやらあそこのテントに勇者さまがいるようです。
私もビッチについて行きました。
テントに案内されました。するとビッチに話しかけられました。
「勇者さま、今、寝てるんだって。だからシーだよ〜!」
そう言うビッチの声はしっかり普段の音量でした。
みんなこっちをにらんでます。ビッチの口、糸で縫い付けたくなりました。
「あはは! ごめんなさ〜い。ホラ! カンナもあやまろ!」
今の、ボリューム2割マシマシです。
そしてビッチはあろうことか私の頭を押さえ、グイッとおじぎさせました。グイッと。
私、何も言ってないよ。
さすがに寛大な私でも、その手を地面にグサッと縫いつけたくなりました。グサッと。
でも勇者さまにちょっとだけキチガイな女と勘違いされるのもイヤなので、グッとこらえました。グッと。
「まあいいじゃねえか。2人とも元気な証拠だ。がはははは!」
ドワーフ顔の男、ドワ男が言いました。
私、声だしてないよ。
それにかばうドワ男の声が一番大きいです。かばわれる身にもなってよ。
「どうせもう起きる時間だ。だれか勇者を起こしてきてくれ」
少しは皆のお役に立たなければなりません。使命感です。
よこしまな気持ちなんか、これっぽっちどころではありません。
なので、私は控え目に手を上げました。
「お、おう……。な、ならお譲ちゃんに頼もうかな」
ドワ男、すこし引いていました。なんで?
私は寝室に行きました。勇者さまはおフトンにくるまって背中を向けて寝てました。
「おきて」
私は勇者さまをゆすりました。私もこのままおフトンに入っちゃおっかな。
「おきて」
もう一度ゆすります。するとゴロンとあおむけになりました。
オッサンでした……。
おフトンに入らず正解でした。
オッサン、よだれをダラダラして、おしりをボリボリしてました。
とてもお似合いのしぐさでした。
なのに脳天にかかとを落としたくてウズウズしちゃいました。
ドワ男に、起こせとムリヤリ命令された手前、起こさないわけにはいきません。
しかたないので、その物体をもう一度ゆすりました。
タプン
おなか……ゆれました……。おうちに帰ることに決めました。