第1話 ビッチにおねがいされちゃいました。
「ねえ、ちょっとでいいからさ〜手伝ってくんないかな〜」
両手を顔の前で合わせ、首をかしげたと同時に片目だけを器用につぶる、したたかな態度のこの女はアヤ。
私と一緒に転生してきて、いろいろあって、今は「英雄」とか「勇者」とかともてはやされて最近テング街道まっしぐらです。
しょうもないメスブタです。この程度の女、ビッチで充分です。
たぶん、安っぽい男はイチコロなのでしょう。
そんな私はと言いますと、ビッチの媚びた仕草が気に入りません。
右拳を顔面の中心めがけて、メリッとやりたくなっちゃいました。メリッと。
いくら心が広い私でも、許せないこともあるからね。覚えといてね。
「いいでしょ〜、カンナ〜」
「やだ」
ビッチのお願いは、私にモンスター退治の手伝いをさせることでした。
だけど私は、カヨワイただの女の子です。
怖いし汚いし何より面倒くさいので、丁重にお断りをすることにしました。
「近くまでカワイイ馬車で行くんだって。きっとイスもフカフカできもちいいよ〜」
思わずピクッとしちゃいました。私としたことが。
「3時になったらスイーツもでるんだよ〜。絶対甘くておいしいよ〜」
今度はビッチがピクッてなりました。
私が、すごい速さでビッチの方に首を回していたからでした。いけない、いけない。
「隣の国の勇者様も来るみたいだよ〜」
い、今、なんつった?
隣の国の勇者様が、なんつった?
隣の国の勇者様が来る、なんつった?
【カンナ、食いつき過ぎだよ。ヨダレ出てるよ。アヤ、引いてるよ】
この鼻につく声の主は、呪の人形ハチベエです。以上。
【最近ボクのあつかい、密かに軽いよね。軽いよね!】
「気のせい」
最近じゃありません。ずっと前からです。
ついでに言うと、密かにでもありません。あからさまです。
「カンナ、どうする〜?」
ビッチが念を押しました。
「いく」
ビッチ、にへっと笑いました。
ハチベエはため息をついていました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
馬車がゴトゴトと揺れます。
どこらへんがカワイイ馬車といえばいいのでしょう。見るからにただの幌馬車です。
ザ・幌馬車ってフォルムです。超ドナドナです。
ビッチ、ペナルティ1ね。3つたまると退場だからね。
ちなみに悪質なのは一発退場だからね。
「カンナとこうしてるの久しぶりだね〜。楽しいね〜」
ビッチはそう言いながら、3時のおやつのバナナを、おいしそうに食べてました。
ってスイーツってバナナかいっ! ビッチ、早くもツーペナです。
「黒い部分はねシュガースパークって言って、すごく甘いんだよ〜」
ビッチ、アホ炸裂です。シュガー、スパークさせてどうすんの?
それシュガースペースって言うんだよ。ちゃんと覚えてね。
そういうビッチのバナナは、全体の90%以上がビッチ流に言うとスパークしていました。
私の手にも同じようなバナナがあります。甘いかもしれませんが、なんかイヤです。
ゴトン。
馬車が石か何かを踏んだのでしょう。衝撃が走りました。
木でできたイスは、その衝撃をダイレクトに私のおしりに伝えました。
ビッチの言うフカフカって何? 抗議の視線をビッチに向けると、にへらにへら笑ってました。
反省の「ハ」の字も「ン」の字もありません。ついでに「セ」の字も「モ」の字もありません。
これは完全にペナルティ案件ですが、3枚目は慎重に出さなければなりません。何故かそう思いました。
命拾いしたね、ビッチ。
注:バナナの黒い斑点は『シュガースポット』です。