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もやもや。

作者: よる

 もう何度目かの春が来る。

 暖かくも寒くもなく、ただ毎日が水飴みたいにねっとりと過ぎていく、そんな季節。


「いってきます」

 溜息混じりに呟いて玄関を出る。

 町を歩いてみえてくるのは勢いよく伸びた雑草。町を覆い被さるように伸びて伸びて伸びきっている雑草はその場所を、町を隠してる。何も見えない、雑草しかみえない。

 もっと他に見えるものがあったはずなのに、雑草が邪魔して何もみえない。見させてくれない。


 もっと歩いて見えるのは無表情なコンクリートの構造物。いたる所に建っているそれは町の風景に馴染めずにいた……と思っていたのは最初だけで、今はもう馴染んでいる。何年も前からあったみたいに風格を表してそこに建ってる。


 見慣れていたはずの町なのに、何年も住んでいる町なのに、どこになにがあったのか、思い出せない。

 雑草もコンクリートの構造物も、ずっと前からあるような気がする。

 雑草が生えている場所には何があったのだろう。公園? 住宅?

 コンクリートの構築物の前に建っていたのはなんだっけ。工場? 会社?


 その場所だけが虫に食われたみたいに穴があいて真っ黒になる。真っ黒になった場所がどんどん大きくなっていく。

 こうして忘れていくんだろうか。きっと忘れていくんだろう。




 大きく息を吸い込むと微かに感じる磯臭い風。もう一度息を吸い込んで、磯のにおいを全身で確かめる。鼻にツンとくる磯のにおいを胸いっぱいに吸い込んだ。吸い込みすぎて少しむせる。

 このにおいは忘れたくない。

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