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プロローグ:決戦の裏側

初投稿、不定期更新、作者豆腐メンタル故厳しいコメントはご勘弁ください、誤字脱字ご指摘あれば修正していきたいと思います、又、設定で詰めが甘い部分があると思いますが明らかな矛盾だった場合は修正していきたいと思います、あくまで暇つぶしで自己満足の為の駄文ですのでコメントに対して個別返信等は行いません。m(_ _)m

薄暗く広い空間に剣戟と爆音が響き渡る、それを奏でるのは二つの人影、一つは青白い光を放つ剣を握りしめ純白の鎧を纏う金髪碧眼の青年、険しい表情で目の前の敵を睨みつける、かたや漆黒の鎧に豪奢な外套を纏い闇を凝縮したかの様な剣を持つ黒髪金目の偉丈夫は己に挑む存在を見据える、二つの人影はぶつかり合い鍔迫り合いの後弾かれた様に間合いを取りながらも術法の応酬をし、またぶつかり合う、何度となく繰り返し相手の命を刈り取ろうとあの手この手で攻めたてる両者、永遠に続くかと思われた白と黒の喰らい合いは一際大きな激突の反発の後間合いを保ち対峙する、白の青年は肩で息をし玉の汗を流している、その身に纏う鎧は所々が欠けそこから少なくい量の血を流しているが、黒の偉丈夫は平然と佇み構えを崩さない、その漆黒の鎧には傷一つなく当然本人は無傷であった、互角に見えた先程までのやり取りは白の青年の後先考えない全力を、黒の偉丈夫がその有り余る魔力によって張り巡らせた障壁で受け流していたに過ぎなかったようだ。


「たかだか百にも届かない様な寿命の内十数年で辿り着いたとは思えない実力には敬意を払うが、もう諦めたらどうだ?」


黒の偉丈夫は敵対しているとは思えない程穏やかに、いっそ慈悲深いと言えるような表情で白の青年に語りかける。


「ふざけるな!お前を倒して世界を救うまで諦めたりしない!」


対する白の青年は己が使命と激情のままにその提案を跳ね除ける。


「このまま続けたとしてどう転んでも結果は変わらんぞ?今なら楽に終わらせてやろうと思うぐらいには我はお前を認めているのだがな?」


なおも言葉を重ねるも返答は…。


「くどい‼︎ここまで幾多の試練と犠牲を積み重ね貴様を倒す力を手にして来たんだ!例え骨の一片肉の一切れ血の一滴になってでもお前を倒す‼︎」


ボロボロの身体であっても未だ光を失わないその眼に意思を乗せ言葉とともに叩きつける。


「犠牲と力…か……、成る程、ではお前の足下に転がっている者達もお前の贄となった訳だな?勇者よ?」


「ッ‼︎……貴様が…、貴様がそれを言うか‼︎魔王‼︎‼︎」


白の青年:勇者の足下には倒れ伏す三つの人影、

その逞しい体躯に重鎧と大盾でいつも仲間と敵の間に身を置き続けことごとくその身で受け止め弾き返し護り続けた戦士、

深い叡智と卓越した技量で術法を操り幾千幾万の敵を薙ぎ払い仲間の進む道を切り開いて来た魔法使い、

戦いに傷つき疲れた仲間達に慈悲と癒しの光で支え前に出る力を与えてくれた、そして自分にとってかけがえのない恋人でもある神官、

この最高の仲間達と旅を続けここ魔王城謁見の間まで辿り着き魔王に戦いを挑んだ、結果は見るも無惨な有り様でありその三人が今自らの血に沈み身じろぎ一つしない、魔王の力を侮る程愚かではないが絶対に敵わない相手ではない、と思っていたが甘かった、まだ辛うじて息があることは分かっているが治療行為に及べばその隙を逃さず畳み掛けてくるのはあきらか、彼女達を助けたければ目の前の敵を倒したあと治療するしかない、それ故の先程までの無謀とも言える攻勢であったのだ。


「我にも護り率いねばならん民草がいるので負けてやる訳にもいかん、名残惜しくもあるがそろそろ幕としようではないか勇者よ」


「いい気になるなよ魔王、まだ切り札は残っている!」


「ならばその切り札とやら使ってみるがいい、死出の旅路のはなむけに真正面から叩き潰してやろう」


「……その傲慢ごと切り捨て平和と秩序をこの世界にもたらす、オレはお前を越えて仲間とともに未来を生きる‼︎」


それぞれが己の剣に極光と深淵を纏わせ次の一手にて雌雄を決する覚悟を決める、張り詰めた空気が部屋を覆い些細なきっかけで最後の激突に至る、それが分かっているが故に動き出せない勇者とあくまで真正面から打ち砕く為待ちに徹する魔王、極限まで高まった集中力で呼吸を読み最大最強の一撃を叩き込まんと己を研ぎ澄ます、互いの戦意が極限を迎えいざ決戦の時と最初の一歩を踏み出


「「「「失礼しまーす」」」」


……そうとした所で緊張感のない断りとともに謁見の間の扉が開かれる、出鼻を挫かれ相手から意識を切らさぬままではあるが苛立ち混じりに視線を転ずるとそこにいたのは珍妙な格好をした者達だった、布で動物を模したとおぼしき全身を覆う衣装、所謂「着ぐるみ」を着込み正体を隠した集団で手にはそれぞれ自分達が使う得物を持っている、先程声をあげたからこそ一人は男で残り三人は女と予想は出来るがそれ以外は一切が謎な集団に両者は警戒と困惑を募らせる。


「……今日は招かれざる客が多い日だな、勇者もそうだが我は道化者を招いた憶えはないぞ?」


「あ、お気になさらずどうぞ続けてください、こちらからそちらに干渉する気は御座いませんので」


と微妙に噛み合わないやり取りをしつつ外周を周り玉座へと向かう不審者達、それに対し城の主として又決闘を邪魔された当事者として重ねて誰何する魔王。


「待て貴様ら、ここで何をする気だ?そもどうやってここに入り込んだ?我と勇者達との決戦を邪魔せぬよう他の者達には人払いを命じたが警備自体はさせていたはずだ」


「いや大した事じゃないんですがね?ここには仕事を片付けに来ただけで終わり次第速やかに撤収する積りですよ?警備の方は大分お疲れのご様子でしたので休暇をお勧めしておきました」


なおも歩を進める不審者達、その内先頭の男以外の者はよく見れば赤黒い汚れの付いた得物を手にしている、魔王の目が細まる。


「貴様ら外の者らをどう「失礼、仕事が立て込んでいますので会話をご希望ならばしばらくお待ちください」した…」


今の地位に就いてから食い気味に台詞を潰されるなどあり得なかった魔王はしばし呆然とした、その間に不審者達は作業に取り掛かる。


「確かこの下だっけかなー?」

と先頭の猿の着ぐるみ(尻が赤い)の男が言えば。


「この椅子作業の邪魔ですね〜」

と牛の着ぐるみ(ホルスタイン柄)の女が続き。


「どうにかずらせないでしょうか?」

と鳥の着ぐるみ(黄色いからヒヨコ?)の女が提案し。


「む?どうやら床材に窪みがあってそこに嵌まり込んでいるらしいぞ?」

と犬の着ぐるみ(なんとなく凛々しい、狼?)の女が状況を把握する。


四人であーでもないこーでもないと言いつつ実況検分をし結局持ち上げて退かす事にしたらしい、それぞれが前、左肘掛、背もたれ、右肘掛に分かれて玉座を掴む。


「せーのでいくぞー?いいかー?…せーのっと!」


「う〜〜、結構重たいですね〜」


「ぐ…、流石に黒曜石の塊から削り出しただけの事はあるな、大した重しだ」


「しかも…ン、持ち運び…は…考えられていまっ…せんからね、フゥ…フゥ…取っ手が無くて掴みづらンッ…いです!ハァハァ……後衛にはつらいです…」


「まあ焦らずゆっくりやろうや、壊したら事だしな」


「「「はーい…」」」


「「……」」


魔王だけでなく勇者も状況について行けずただ惚ける、その間にも男とその仲間達は運搬作業を続けている、時間の経過により徐々に現状を把握する魔王、それに伴い赤く変化して行く顔色、さもありなん、魔王城の玉座とは歴代の魔王が腰掛けその配下に命令を下して来たいわば城の中心であり権威の象徴であった、それをどこの誰とも分からない不審者が勝手にやりたい放題イジリ倒していて、あまつさえ造られた当時から同じ場所で鎮座し不動の代名詞とも言える玉座を部屋の模様替えの如く部屋の隅に追いやろう等言語道断である、先程から質問にまともにとりあわない態度も含め苛立ちを多分に含んだ怒声を上げたとしても無理はない、無理はないがそれが破滅の第一歩だった。


「貴様らい「ヒャぁゥ‼︎?」い加減「ガキョ!」こちらの話を聞け‼︎」


人が一生懸命仕事をしている時に大声を出してはいけない、魔王の怒声に「ヒャぁゥ‼︎?」で牛着ぐるみが驚き手を離し、「ガキョ!」で玉座が床材にメリ込み角が砕ける、沈黙がその場を支配し誰も声を出さない、沈黙の重みに耐えかね牛着ぐるみが泣きそうな声で。


「う〜〜、ごめんなさい〜〜」


「あー、まぁ仕方ないな今のは、俺もチョイびびったし」


牛着ぐるみの頭を撫でながらそう慰める猿着ぐるみ、ある程度牛着ぐるみの落ち着きが戻って来たところで。


「まったく、驚かさないでくださいよ、イッパイイッパイの時に大声出されたらこうなるのは分かるでしょうに…、とはいえ壊したのはこっちですからなんとか修復しておきますけど、あんまり期待しないでくださいね?」


猿着ぐるみはそう言うと破損箇所を確認する為屈み込む。


「えーと、破損範囲がこっからここまでで無事な所と質感を合わせないとだから…、んー、修復って難しいんだよなー、いっそ全部造り換えちまうか?」


魔王に背を向けゴソゴソし始める、ここで魔王が俯き肩を震わせていた事に気付いていれば身構える事ぐらいは出来たかもしれない、魔王は既に話を聞いていなかった、目の前で玉座を砕かれ一気に感情が振り切れ煮え滾っていた、既に勇者の事など眼中になく直前まで高めていた魔力に憤怒を乗せ叩きつける。


「自分の愚かさを地獄で悔めこの痴れ者共が‼︎‼︎」


「ひゃん!?」(牛着ぐるみ)


「なっ‼︎」(狼着ぐるみ)


「危ない‼︎」(ヒヨコ着ぐるみ)


「へ?」(猿着ぐるみ)


得意とする爆炎を着ぐるみ達へ放ち一気に薙ぎ払おうとする魔王はそんな物を使えば玉座も消し飛ぶ事を忘れている、これに驚いたのは着ぐるみの内女三人、まさか大事な玉座ごとやられはしないと思っていただけに慌てて飛び退く、が…。


「ッちょっまっ‼︎ぶわっぷ……」


背を向け屈み込み他の三人同様気を抜いていた猿着ぐるみは逃げ遅れ直撃を受け爆炎に包まれる、その様を見てやや後悔する魔王、頭に血が上り玉座まで消し飛ばしてしまった事と一撃で殺さず拷問にかけるべきだったのではと思うが終わった事でありどうにもならない、一気にやる気が失せ残りの三人と次いで勇者達を始末したら酒を煽って寝てしまおうとうっそりと牛着ぐるみに向き直り怪訝な顔になる、おそらく不審者の頭目だろう猿着ぐるみを殺されたにも関わらず動揺も悲嘆も無い様子、それどころか着ぐるみで表情は見えないが申し訳なさと憐れみが入り混じった視線を感じる、他の二人を見渡せばやはり同じ気配、苛立つ感情を抑えつつどういう事かと誰何するべく口を開いた時爆炎の中から濃密な殺気と魔力を纏った影が飛び出してきた。


「熱いだろがボケェェェェェ‼︎‼︎」


出て来た影に咄嗟に障壁を張り正体を見極めようとした魔王は驚愕する、出て来たのはあちこち焼け焦げた着ぐるみを纏った頭目らしき男(焦)だった、衝動的に放った為収束が甘いとはいえ勇者の切り札ごと押し切る為の爆炎の直撃を受け生きているなどあり得ない状況だ、猿着ぐるみ(焦)は頭部パーツを手で支えながら回し蹴りを放って来たがあり得ない状況と信じられない気持ちと障壁への自信から棒立ちでそれを受ける、そしてまたあり得ない状況が続く、障壁に回し蹴りが当たる直前ガラスの砕けるような音を立てて障壁が崩れ側頭部に吸い込まれるように回し蹴りが直撃する、無防備な状態で回し蹴りを受けふき飛び轟音を立て頭から壁に突っ込む魔王。


「だーー‼︎あっちぃなー‼︎おい魔王!仮にも王を名乗ンならブッパはやめろブッパは‼︎落ち着きが足りなさ過ぎんぞゴルァ⁈キレ易いにも程があンだろが‼︎オメェは最近の若者か?‼︎あぁん?‼︎」


「ご、御主人様落ち着いてください〜」


「そ、そうだぞ主殿、あまり目立たないように進めると言ったのは主殿だぞ?」


「その目立たないように用意した変装用着ぐるみが丸焦げダヨ⁈せっかく夜なべして作った力作がダヨ⁈これが落ち着いてられますかっての‼︎エルさんの《おまじない》が有ったから無傷だけど無けりゃ俺まで丸焦げダヨコレ⁈」


「…ここまでやっておいて「目立たないように」も何もないと思いますが、これ以上情報を残すのは得策ではないと思います、ここはやるべき事を済ませ速やかに撤退するのが最良であると提案致しますが如何でしょうか旦那様?」


「ウグ…、分かったよサッサと片付けて帰ろう、そして反省会の後みんなでイチャつこう、それでいいだろ?」


「あ、あの別にイチャつくのは必須では…」


「あ、ああ、反省会なのだからそういうのは控えるべきだぞ主殿」


「うふふ〜♪、今夜はどんな事されちゃうんでしょうかね〜♪」


「「そこの色ボケ自重しろ‼︎」」


先程までの丁寧な口調から一変、伝法に捲し立てる猿着ぐるみ(焦)達の会話を脳を揺らされ歪む視界のまま聞く魔王、登場から一連の会話先程の障壁の一件に至る迄何一つ理解出来ないが一つだけ分かっている事がある、やたらピンクな会話からも察する事が出来るのはこちらの事を舐めきっているという事、顔色は赤を越えてドス黒く変色させた魔王は壁材の欠片を撒き散らしながら抜け出しつつ。


「き・さ・ま・ら〜‼︎殺してやる‼︎塵一つ残さず完全に消しs「お前さっきからウルセェ‼︎‼︎」アッーーーーーーー?!」


壁から上半身を起こし腕を突き出して攻撃を加えようとした魔王だったが出の速い一撃で先制される、極々一般的な土系統の術で石で出来た槍を地面や壁、天井などから生やして敵を貫く簡単な物だ、だが先程の障壁破りと併せて使われた場合致命の一撃になりうる、すなわち、まだ壁に埋まったままの下半身に壁側から石槍を突き出した場合どうなるか、答えは後ろから串刺しにされ新しい世界の扉に手をかけている魔王の姿だった、まだ生きているが時折痙攣しながら「…おふ、…おっふ…」と呟くだけで完全に無力化された魔王を見て猿着ぐるみ(焦)は。


「大分予定と違うが取り敢えず当初の目的を果たそう、んでとっととトンズラな」


と何事もなかったように玉座のあった場所に幾つかのアイテムを置き、儀式の為の詠唱らしき物を唱え、玉座跡に一瞬閃光が駆け抜ける、その瞬間から場の雰囲気が変わった、何がどう変わったかは分からないが確かに玉座跡を起点に魔王城が、否、魔王城の建つ地域全体に何かが波及する。


「ふー、たったコレだけの為になんか凄く疲れたわー、コレはもう帰ったら最低でも三日はダラけながらイチャついて英気を養うしかないな‼︎」


「旦那様?発言が駄目人間過ぎませんか?」


「全くだ!戦士たるもの常在戦陣の覚悟で己を鍛えるべきであり三日も休もうなど言語道断‼︎まっましてやイチャつこうとは許されざる行為であって…ゴニョゴニョ」


「う〜ふ〜ふ〜♪帰りがけに保存食を買い込んで家から出なくてもいいようにしないとですね〜♪」


「「だから自重しろ色魔‼︎」」


「まぁ何にしろ俺達の用事は済んだから帰ろう、という訳で魔王の討伐とそれに伴う栄光とか報酬とか今後の政治に対する影響とかメンドイ戦後処理とかは全部お前さんがやっといてね勇者ちゃん?」


「うえぇ?オレ?な、なんでオレが?あんた達がやったんだから祖国に凱旋すればいいじゃないか!というよりそもそもあんた達何者だよ⁈魔王がザコ扱いだしなんだか分からないけど凄そうな儀式したりあきらかに普通jy「黙らねぇとテメェも串刺しにすんぞ?」スンマセンッしたーー‼︎」


ここで今の今迄状況について行けず空気になっていた勇者に声がかかる、あまりの急展開で混乱し捲し立てるも猿着ぐるみ(焦)の一言でジャンピング土下座に移行する、当初の精悍さが微塵も感じられないヘタレっぷりだが誰しも自分の尻は大事なのだから仕方がない。


「まぁアレだ、こんな着ぐるみ着てる時点で大体分かると思うが身元がバレるのがイヤなんよ、それこそ勇者だの英雄だの救世主だの祭り上げるアホ共と関わる位なら全ての権利を棄てても構わないってくらいにはイヤなんよ」


「…だからオレに魔王討伐の栄誉を譲ると?でもオレは魔王の足下にも及ばないくらい…」


「勘違いしないでくれ、ただ魔王が死んだってだけじゃ誰も信じないし信じても理由が分からないってんで騒ぎ出す奴らが出てくるのは分かりきってる、だからそいつらが納得できるストーリーが必要でそのストーリーの主人公をやってくれって話だ、譲るんじゃなくて引き取ってくれって事だ」


「でもオレは何も出来なかった…、そんなオレが…」


「あーあー分かった分かった、引き受けたくなる報酬を付けるからそれで納得しとけ」


猿着ぐるみ(焦)は懐から深紅の液体の入った小瓶を三つ取り出し勇者に放る。


「わったった!えと、コレは?」


「正規のルートにゃ出回らない最高クラスの回復薬、後ろで死にかけてる奴らにかけてやれば一発で全快する代物だ」


「っそうだ‼︎みんな‼︎」


目の前問題に手一杯だったとはいえ仲間の事を忘れるなんてと内心自分自身を罵倒する勇者だが自罰思考は後回しにして治療にかかる、二人には申し訳ないがやはり最初は恋人である神官に駆け寄り脈を診る、まだ辛うじて生きている事に安堵し薬を使おうとしてふと思う、コレは本当に薬なのか?あまりに都合が良過ぎないか?騙されてないか?と疑問が次から次へと湧いてくる、手持ちの回復薬は魔王との戦闘で使いきり自分は回復術が苦手で効果は薄い、この薬を使わずに自分の魔力だけで治療した場合三人を助けられるか?否、恐らく一人で魔力が切れ他の二人まで手が回らない、仮に神官か魔法使いを全快に出来ても二人共魔力は底をついていた筈、助けられて一人だけだ。


「あの!失礼を承知で一つだけ聞きたい事がってチョットどこ行くんですか!」


「んー?拠点に帰るんだけど?」


「帰る前に一つだけ!コレは本当に回復薬なんですよね?コレが駄目なら本当に仲間達の命が…」


「ホントに失礼だなオイ、殺す気なら最初から薬なんぞ渡さんわ、本物かどうかは自分の指に垂らしてみたら分かるだろ?」


言われてみればな事実に慌てて試してみる勇者、すると指先から手首を越え前腕中程までを熱を伴うむず痒さが走りそれと共に魔王との戦闘で付いた傷が塞がってゆく、本物だと確信し神官の傷口に半分程振りかけ残りを飲ませる、効果は劇的で傷口は時間を巻き戻すように塞がり土気色だった顔に赤みが戻ってくる、口元に耳を寄せれば穏やかなそして確かな呼吸を確認できた、涙が出そうになりつつもまだ終わっていない残り二人の治療にかかるとこちらでも同じように息を吹き返した。


「ッ…ありがとう‼︎本当にありがとうございます‼︎お陰で仲間を失わないで済みました‼︎」


「うんうん、感謝してね?そんでもってさっき言った事頼んだからね?」


「え…あ…はい解りました、オレ達で魔王を倒した事にしてみなさんの事は伏せておけば良いんですよね?でも本当にそれでいいんですか?上手くやれば領地持ちどころか小国の主にだってなれるかもしれないんですよ?」


「国王っていっても所詮大国のヒモ付きだろ?好きにできる訳じゃ無いしそもそも政治って大変そうだし?国民食わせる為に内政頑張って、外政で外国と仲良くしたり戦争したり、自分の子供の将来だって政略結婚一直線だし、それだけ苦労してもアッチコッチから足引っ張られるとかザラだし?全然魅力的に見えないぞソレ?」


「う…、それでも結果を出した人が何も報われないっていうのは…」


「いいんだよそれで、下手に有名になると女達とイチャつく時間が減る、だからもし今回の話がどっかから漏れて俺の自由が阻害されたりしたら地獄の底まで追い詰めて串刺すからな?」


「ワッカリマシター‼︎」


「んじゃお前ら帰るぞー、オツカレー」


「「「お疲れ様でしたー」」」


一人取り残された勇者、なんだか納得できないが言う通りにしなければ自身の尻が危ない、ふと尻で思い出したかのよう。


「そうだ、魔王にトドメ刺してやらなきゃ」


未だおふおふ言っている壁際の魔王に憐れみと同情混じりの視線を送り溜息を一つ。


「なんだかなぁ…」


全てを一言で表すならこれ以上最適なものもない呟きをこぼして立ち上がり壁際に移動する勇者、背が煤けている。


この半年後勇者による魔王討伐の報が祖国を中心に世界へ広がる、この功績により辺境伯の位に就き神官と共に自領でその生涯を終えるまで過ごす勇者、末期の言葉は。


「結局あの人達はなんだったんだろう…?」


この物語は歴史に名を残した勇者の物語では無く、唐突に現れ謎の行動をしどこへともなく消えていった「歴史に残らなかった者達」の物語である。



まさかの主人公チーム全員顔出しNG、次から主人公視点です。

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