「Ψ┗А、⊆Λ┻∵⊥┘λゞ仝〆」
ご覧いただく前に、ご案内を二つ。
ひとつ、異世界の言葉を、記号を羅列することで表しています。
ふたつ、お食事中の方は、お食事の後しばらく経過してからお読みください。むせても当方は責任が負えません。
――時は近未来、場所は日本。
かつてこの国には、一部を除き、国を閉じ、国交が途絶えた時代が存在した。
かつてこの国には、異文化交流なるものが頻繁に行われ、国交が活発化していた時代が存在した。
どちらも過ぎ去りし日の話。どちらも既に終わった時間の話。
そして近未来の現在、今。
正反対な過去ふたつの時代、前者は国交鎖国時代、後者は国交繁栄時代と呼ばれる。
前者は正式名称を江戸、後者は平成という。どちらも遥か昔の過去の時代だ。
そして、平成の世が存在した二十世紀、二十一世紀。人類はある広大な夢を見ていた。それは手の届かない青い空、広大な宇宙への船出だ。
そして何世紀か前に、人類はついに宇宙開闢時代を迎えた。宇宙開闢時代を経て、宇宙開発は圧倒的速度で進んでいき、ついに他惑星へ居住地を開拓するまでになる。
しかし過去の人類が夢想したような、SFといったジャンルの物語で描かれたような、宇宙の地球以外の知的生命体とはいまだ遭遇していない。
人類は未だに、遭遇していない彼らと会う夢を捨ててはいない。
しかし、しかし。
望む物事とは裏腹に、まるで晴天の霹靂のように、新しい出会い、そして未知の発見・遭遇はある日突然やってくる。
『%〜ゞ&§@=£??』
『えっと、今なんておっしゃられました??』
――地球人と異世界人との全くもって予想外の遭遇、ファーストコンタクトの会話である。
そして、全く想定も予想もしていないこの出会いから、一世紀と半世紀が経とうとしている現在。
異世界人――平成の世に広まり、ひとつのジャンルまで作り上げたライトノベルに、必ずといって登場する彼らと、地球人は今も交流しようと、様々な試みを試行錯誤している。
彼らは、平成の世に地球に到来していれば、さぞや一部のファンから大歓迎を受けただろう。彼らと交流するための業務に携わるミハナはそう思う。
いつも、切実に思う。何で平成、国交繁栄時代に貴方たちは来なかったんですかと。
いまだって、目の前にいる相手に問いたい。何で今の時代なんですか、と。
「メィファーニャ、§〇Χ‡Ζヰ!!」
朗々たる低音が室内に響き渡った。ミハナのテーブルの向かい側に座る一人の異性がその声の持ち主だ。頭に真っ黒な猫耳、下半身に同じく真っ黒な尻尾を生やしたスーツ姿の青年の男性。
顔も海外の俳優みたいに彫りが深い甘いマスクだ。そんな猫耳男性が、どこの国の言語かわからない言葉を、早口で捲し立てている。
精神を落ち着かせるという、薄桃と乳白色の混ざった柔らかい色合いの壁を背景に、ミハナは何度目かもはやわからない溜め息を、どうにか飲み込む。室内の壁の色は全くもって無意味だと、心中で愚痴りながら。
「……シグマさん? 私はミハナ、橘ミハナです。シグマさんの言語の言い方では、ミハナ=タチバナです」
ミハナの顔に張り付く笑顔は、今にも顔面から剥がれ落ちそうだった。誰がメィファーニャだ、誰が。ミハナは笑いだしそうになるのを、どうにか堪えた。
きっと、この時代をいい表すなら、異世界交流時代の幕開け、というのだろう。ミハナとしては異世界交流遭難時代といいたいところではあるが。
……今から一世紀前の話だ。
ある日、海域や空域で異世界と繋がった。繋がった、としか表現の出来ない事態は、意外と民を混乱には陥れなかった。
予想外だけれども、人類の順応性は凄まじいものだった。
世界は、異世界との出会いに、心踊ったのだ。漫画、映画、小説の中だけの夢物語が現実となったのだから、人類の興奮はさめることはなかった。
平成の世の日本が広げた、ジャパンカルチャー。いまや伝説の域に入ったジャパンカルチャーが、異世界トリップの世界が向こうからやってきたのだから。
しかし、宇宙人ならぬ、異世界人との接触はなかなかスムーズにはいかなかった。想像とは違い、やはり現実は現実だったのだ。
――言葉が、繋がらなかったのだ。
異世界人の来訪、接触――ファーストミッションはかなり難航したと伝えられている。
ファーストミッション後、身振り手振りのボディランゲージは馬鹿に出来ないという考えに至ったとか。
以来、身振り手振りを交え、どうにか意志疎通が図られていき、現在。
当初危惧されていた、文化などが違うためのトラブルや、異世界からの来訪は戦争目的などとの妄言は、一切合切消えた。
“言葉も意志も全く通じなければ、起こるものも起こらないらしい”、というのはこの一世紀での一番の名言になった。
言葉も、文化も違う異世界。交流するにはどうすればよいか。そこで、当時の世界各国の重鎮方は、薄い――失敬――万国共通の、頭髪事情に悩まされた頭を突き合わせて、どうすればよいか考えあった。
当時国家間で争われていた事象などは、全て文字通り無に帰したという。それどころではなかったからだ。地球の人類は、異世界人との接触をどうするかという、優先すべき共通の課題が目の前にあったのだから。
――結果、各国の重鎮方は、異世界間文化交流調整機関というのを立ち上げた。国連のように、世界各国全てが加入し、運営する公的機関である。
橘ミハナは、その機関にある交流準備部署・通訳翻訳課に所属する言語調整担当だ。
そんな長い肩書きを持つミハナは、常々、平成の世を席巻した“異世界トリップ”の王道主人公が羨ましくなってしまう。簡単に言葉が通じる彼ら、彼女ら。
それは神様のプレゼント、もしくは主人公が特別だから、はたまた魔法で。
けれども、蓋を開けてみれば、異世界には便利な魔法も、便利なスキルも存在しなかった。
特別なんて、夢物語だった。
(現実ではそうは簡単にはいかないけどね!!)
――結論、お話はお話。現実は現実。
それは、地球の人類側も同じ。
人類は宇宙まで進出し、それに応じ機械も工学も発達した。なのに、“食べればあら不思議、言葉が通じるよ!”という、平成時代の某アニメーションの猫型ロボットの素敵アイテムなんて、いまだに開発されてはいない。
だから、異世界人が地球語を覚えるなら……、異世界間文化交流調整機関の門を叩かねばなるまい。シグマはその一人だ。故国ではやんごとなき身分にあるシグマは、日本にある彼の国の領事館で、毎週三回のミハナの日本語指導を受けている。それはもう三ヶ月も経つ。
けれども、なかなか指導は進まない。日本語の聞き取りはできても、発音と単語の使用、文法の使用が怪しい。
「£ヽ!、〇Κ★□←⊃Κδ?」
目の前で、シグマが手振り身振り交えて、何かを伝えようとしている。もちろんこの手振り身振りは、シグマの育った国の手振り身振りだ。日本人から見たら“しぇー”だったり、“あっかんべー”だったり、“べろべろべー”だっとしても、手振り身振りだ。
(あ……駄目、吹く、吹く!)
ミハナは日本人が誇る“曖昧な笑顔”を浮かべなおし、目の前のシグマの動作を流した。必死に笑いだしたくなるのをおさえる。そして、事を荒立てたくない日本人の保有スキル(笑)、わからなかったらスルーを発動した。
もし笑ってしまったら……どうなるか、恐ろしすぎてミハナには想像できない。江戸時代でいう切り捨て御免になってしまう。もしくは介錯人を設けて、ハラキリーか。
現実逃避しかけたミハナは、おかしくない程度に頭を軽く振って、現実に帰還した。もう、自分も平成のジャパンカルチャーみたいにトリップしたい。便器からでなくていいので、瞬きしたら「ここどこかしら?」になったりしないだろうか。
「……ΚΧ、ヾ┻ξ@? ΞЫЭヽЁ◯£▼¥?(訳:ねぇ、シグマさん。日本語の会話が駄目なら、英語から覚えましょう?)」
ミハナは最終手段を選択した。シグマの言語で話しかけたのだ。シグマは、目をぱちぱちしてミハナを見る。その美顔に浮かぶのは、驚きの表情だ。耳がピン! と立っている。
猫耳イケメンが自分を見て驚く。何得だ、誰得だとミハナは感慨も微塵もなく思った。少なくともミハナにとって得ではない。
(慣れってすごい)
最初のうちはミハナにも得だった。猫耳、尾に関係なく、シグマは美形だ。まるで物語の中から出てきた貴公子だった。ミハナだって、二十歳そこそこの若い娘、ときめかないはずかなかった。
(でも、耳が、尻尾が)
シグマは、見ての通り異世界の獣人族だ。何てファンタジーなのだろうと、ミハナは思う。
そんな猫耳、尻尾が動く様子に目がいってしまうのだ。整った顔でもなく、鍛えられた体躯でもなく、獣の部分に目がいく。
いい間違いをすれば猫耳が折れる、単語間違いをすれば尻尾がふにゃんと垂れる。喜ぶときは尻尾が激しく揺れ、機嫌が悪いと尻尾がばしばし床を叩く。ひとつひとつの感情に、獣の部分の動きが伴うのだ。
最初はだいぶ目の保養だった。しかし三ヶ月も一緒にいれば、見慣れてしまうのだ。慣れとは恐ろしいものである。
「……エゴ、嫌い」
しばらく目を見開いていたシグマだが、やがて視線を床にやり、ぽつっと呟いた。やけに“嫌い”の部分が流暢だった。尻尾も、ばしばし床を叩く。おそらく、エゴは英語だろう。ミハナの上司の江後でも、利己主義を意味するエゴイズムのエゴでもないはずだ。
また吹き出しそうになるのを堪えつつ、ミハナはシグマに問う。
「でも、近いでしょう?」
シグマは異世界では、地球上でいえば英語圏に当たる言葉を母国語としていた。規模や歴史的な話ではなく、発音や文法が英語圏的なのだ。新しい言語を覚えるなら、自分が使う言語と似ている言語の方が断然良い。
――でも、彼は頑なに首を振る。
「彫った晴れニンジンね! だからニンジン語ね」
低音ボイスが片言の雄叫びをあげた。ミハナは頭を抱えたくなった。ようやく日本語を話したかと思えば、これか。ミハナはまた笑いだしかけてしまった。本当にシグマが相手だと、笑い上戸の堪え上手になってしまう。
シグマは、ミハナを含めた何人かの指導役に、一年近く日本語を教わっている。一年ならだいたい話せるのだ。なのに、何だこの文法は。
「……ニンジンではなく日本語です」
何で何を掘るんだ、何で晴れだ、こっちは曇りだとミハナは嘆きたくなりつつも、わかる範囲で訂正する。彫ったと晴れは何と間違えているか全くわからない。だから後回しだ。
それにしても、何で日本人が人参だ。彫った晴れ人参て、どんな新種の人参だ。それに、彫って何がしたいんだ。彫りが深いのはあんたの顔だ。
ミハナは、顔がひきつりかけるのを制御しつつ、ゆっくりと言葉にした。かなり吹き出してしまいそうでやばい。限界も近い。
「彫る、はΠ℃κ┥ё、動詞です。晴れは£ヶг┫、天候を表します。どちらの言葉も、日本語に対してくっつけることはありません」
――日本語を彫った。
――晴れた日本語。
……脳内で文章に組み立てたことを、ミハナは凄く後悔した。表情筋がぷるぷるいっている。限界という名のゴールにまた近づいてしまった。日本語を彫ったらどうなるんだ。そもそもどこを彫るんだ。晴れた日本語ってなんだ。曇りや雨もあるのか。
シグマの国の言語を交えて、丁寧に説明するミハナに、シグマはただ呆然と大人しく聞いていた。
しばらくして、その整った顔がほんのりと朱に染まる。どうやら、間違いについてご理解いただけたらしい。
その時、室内にノック音が響いた。この領事館、執事がいる。毎回、日本語指導のお時間がお開きに近付くと、狐の耳と尻尾の初老の穏やかな執事がやってきて、終わりの時間を知らせに来るのだ。
「――たい」
ぽつっと、シグマが呟いた。あまりにも小さく、ミハナは耳で拾いきれなかった。けれど、確かに日本語の発音だった。
「え?」
か細い声がよく聞き取れず、ミハナは少し身を乗り出した。訝しげなミハナと、先ほどよりさらに顔を赤くしたシグマの視線が絡み合う。シグマの整った顔が、ミハナを見る。ミハナはなんだかドキドキしてきた。シグマを見て胸が高鳴るなんて、いつ以来か。十日で慣れたので、二ヶ月と少々ぶりだ。
「――たい」
もう一度、シグマは呟いた。やはり、ミハナには聞き取ることができない。
「シグマさん?」
ミハナももう一度問う。
先ほどまでは、一方が笑いを堪えていた状況であった。しかし、これ如何に――何て、今はシリアスなのだろうか。
「遺体、遺体!」
シグマが顔を朱に染め、真剣な面持ちで発言した語句に、ミハナは耳を疑った。
「い……たい?」
何で、そんな単語が。ミハナの聞き間違えだろうか。きっとそうに違いない。だって、何でそんな単語が――
「異体、板井、痛い、射たい、鋳たい」
音だけは同じ単語を、シグマは熱のこもった声で呟く。そう、まるで愛を囁くように。目をゴマ粒のような点にして、呆然とするミハナの脳裏に、「アモーレッ、はいアモーレッ」と声高に叫ぶオカマのバレリーナが現れては消えていく。……何で、白鳥の舞なんだ。ミハナはあまりにも現状についていけず、見事に現実逃避に入っていた。自分の妄想に、自分で突っ込むという虚しい行動に入っていた。
「え、と……」
少しずつ、無理やり固まった思考を解凍しつつ、ミハナは口を開いた。油断したら、オカマバレリーナがまたアモーレッといいだしかねない。が、いざとなれば続く言葉がでない。何を口にするべきか。
ミハナは思った――世界の英雄や傑人は、悩まされる決断を迫られたとき、こんな感覚を味わっていたのかと。
シグマは、彼の国でやんごとなき身分である。やんごとなき、の前に超が何十もつくくらいにやんごとなき身分だ。
……だからこそ、下手な解答ができない。
ミハナが戦々恐々していると、シグマが意を決したように口を開いた。
「……アー、タを、衰退」
シグマの口からでたその言葉は、ミハナを非常に危うくさせた。せっかく、シリアスな空気で消えかかっていた、ミハナの“吹き出す”行為が蒸し返しかけた。今にも笑い出してしまいそうだ。口がひくひくして、やばい。ぶふっといきそうだ。
(衰退、って何? アータは、貴女よね、私よね? 私を衰退って――)
シグマは、何をいいたいのか。何を伝えたいのか。
ミハナは、ふと閃いた。
(後ろに“たい”がつく言葉を、私に伝えたいの?)
よし、その方向で探ろう。直ちに探ろう。はやくしなければ、しびれを切らしてお狐執事が入室してしまう。穏やかな見目に反し、変なところで短気と聞く。
「……たいのつく言葉をお探しですか?」
シグマが発した、たいのつく言葉。遺体、異体、板井、痛い、射たい、鋳たい、そして衰退。全て、後ろに“たい”のつく、もしくは“たい”で終わる単語だ。
「イェーサー」
シグマは、しばらくきょとんとし、片言を発言し頷き返す。おそらく、イェーサーは、“イエス”か“イエス、サー”か“イエッサー”だ。
「なら――」
ミハナは、テーブルに置いてある辞書を取ろうと、手をのばした。シグマの国の言葉の日本語訳を書いた辞書だ。ちなみにミハナの先達の方々が書き連ねていった、歴史がつまった手作り辞書である。
その手を、シグマが掴んだ。シグマの地球人より僅かに高い体温の手が、ミハナの手首を優しく包み込む。まるで、触れたら割れてしまうガラス細工のように。まるで恋物語の一幕のようで、ミハナの胸が高鳴る。
「アータ、と、はな抜かれたく、ない」
しかし、やはり相手はシグマ。彼の発言はミハナを笑わせかける。ミハナを笑わせたいのか、それとも何をさせたいのか、ミハナは頭を抱えたくなる。
はなを抜かれたくないとはなんだ。鼻か、花か。何で、誰が抜くんだ。しかも鼻なら誰の、花なら何の花か。しかもアータ、ミハナとはな抜かれたくない、と。
ミハナは叫びたくなった。あなたは何を私に伝えたいんだ、と。せっかく“たい”で終わる単語とわかったのに、今度は抜かれたく“ない”と、“〜したくない”という表現になった。
彼は、何を“したくない”とミハナに伝えたいというのか。
「……ξ:&$α┓」
シグマは煩悶するミハナから目を離し、扉の方を向いて叫んだ。扉の向こうから、「┥ё〃*」と短い言葉が聞こえてくる。「ξ:&$α┓」は日本語で「もうしばし待て」の命令する言葉、「┥ё〃*」は日本語で「かしこまりました」。
かしこまりましたと応答した声は、例のお狐執事。先ほどのやりとりから、シグマはお狐執事に「しばらく待て」といったことがわかる。
――ならば。
(この状況、まだ続くの!?)
ミハナはそろ〜っと、視線を扉からシグマへ戻した。シグマはやはり真剣な面持ちを維持している。
(どうしろと!?)
本当に、ミハナにどうしろと。
しばらく、見つめあう時間が続いた。ミハナには拷問だ。
シグマが、少し悔しげな顔をし、呟いた。
「……э┨я≡、∞£※┗≠」
シグマの言葉を聞いて、ミハナは驚いた――「はやくこうすればよかった」、と彼は呟いたのだ。
何を、とミハナが思わず問う前に、シグマは言葉を続ける。
「∃Νο、Ч┸┬л……アータと、≡α$たく、ない。アータと、い、たい。アータを、好い、たい」 シグマは、どこか照れたような、気恥ずかしそうな顔だった。
∃Νοは日本語で欲しい、Ч┸┬лは日本語で愛しています、≡α$は離れる、離れたの意味。その後に続く、アータといたい、アータを好いたいという文章。
ミハナの顔が、だんだん赤く熟れ上がっていく。シグマはさらに言葉を続ける。ミハナが真っ赤になる言葉を。
「たい、∋Σ┠ψЫ┷〒ΦⅠю、∃゛#∃ΖⅦы。∃゛#∃ΖⅦыл、≡Φлψ」
――訳せば、“たいは、〜したいという意味で使った。なぜなら、あなたといたいから。”だ
「Ψ┗А、⊆Λ┻∵⊥┘λゞ仝〆」
ミハナは、ついに茹で蛸になった。
だって、Ψ┗А、⊆Λ┻∵⊥┘λゞ仝〆――ミハナ、あなたを愛していますといわれたら、誰だって茹で蛸になるだろう。
「――っ?!」
ミハナは、そのあと熱いアプローチの猛攻を受けたのだった。そろそろ、と様子を見に来た執事が、今にも気を失いそうになっているミハナを見て、さすがにと助けに入るまでそれは続く。
後の時代に、異世界交流幕開け時代と称されるこの時代。
この時代に、地球と異世界の初めてのカップルが誕生し、ゴールインする。地球人の一般女性が、異世界の王国の第三王子に見初められ、嫁入りしたのだ。第三王子夫人となった彼女は、夫婦ともに異世界交流に尽力し、各方面を東奔西走することとなる。彼女はやがて、異世界交流時代の幕開けは、彼女なくては語れない、といわしめるほどの人物となる。
そんな彼女には、有名な逸話がある。馴れ初めは? と聞かれると、彼女は顔を一瞬にして沸騰させ、真っ赤なって「ご、ご想像にお任せします!」と顔をふせてしまうのだ。
そんなミハナが、どんな熱烈アプローチを受けたかは、ご想像にお任せ、それでこの物語の締めくくりとしよう。