6、一人の部屋
ドアノブを回して、優太はアパートの二階にある、自分の部屋に入った。
手探りで電気のスイッチを探し、押す。途端、カーテンで閉め切られた暗い部屋が、明るく照らされた。
玄関を入って、一歩進んだ右手にトイレとお風呂がある。その先は六畳のフローリング。そこには折り畳み式の小さなテーブル、ベッド、本棚、クローゼット代わりに使っているプラスチック製の引き出し、そしてテレビが配置されている。
さらに進めばカーテンのかかった窓があり、その向こうは狭いベランダだ。
部屋にキッチンはあるが、一人分の大きさしかない。キッチンの下に小さな収納スペースと、同じく小さな冷蔵庫。
これが今優太の住んでいる部屋だ。
幼い頃両親が他界し、優太は伯父と伯母に引き取られた。だが高校入学を機に、一人暮らしすることを提案したのだ。
部屋に入り、優太は鞄をベッドの上に放り投げた。肉じゃがは一旦テーブルの上に置く。
「ふう……」
優太は無意識に息を吐く。自室に戻ってきたことによる安堵だろう。
「今日は『幽霊さんと仲良くなろうの部』略して幽霊部に入部したよ。まあ部って名乗ってるけど、実際は同好会扱いにもされてない、非公式のものらしい」
自分一人しかいないはずの部屋で、優太は説明口調でそう口にする。
「あと柚莉香のお母さんが肉じゃがくれた。正直助かるや」
制服のブレザーを脱いで、これもまたベッドに放り投げ、優太はそこで振り返った。見つめる先は本棚。もっと詳しくいえば、本棚に飾ってある、写真立て――。
優太は優しく微笑むと、ネクタイごと、カッターシャツの襟を握った。その下にあるのは、隠すように着けた十字架のネックレス。
「ただいま、姉さん」
優しい声音は、一人きりの部屋に、静かに響き渡った。
* * *