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15、幽霊の少女

 不意に優太は、窓に何かがぶつかっているかのような音で、目を覚ました。

「ん……?」

 睡眠を妨げられ、優太は布団の上で小さく身じろぐ。

「何……?」

 寝ぼけ眼で呟く間にも、窓にコツ、と何かがぶつかる。ゆっくりとした動きで鳥が、嘴で窓を軽く叩いている、そんな音だった。

 眠気で重い頭は充分に回らず、優太はぼんやりとしたまま布団から起き上がる。

 眠気が勝って、奇妙な音に恐怖を感じることはなかった。ただ優太は、眠気を妨げる音の正体を知りたかった。そしてできることなら、この音を停止させてもう一度眠りたかった。睡眠不足といえるほど寝ていないわけではないが、明日も学校がある。一分でも長く寝て、気持ちよく朝を迎えたい。

 部屋の暗さから察するに、まだ明け方にもなっていないような時間だろう。こんな時間に起こされては堪らない。

 優太は立ち上がり、ベランダへと歩み寄る。ベランダのカーテンを勢いよく開き、音の正体を知るべく、窓の外を覗き込んだ。

 近所の家の灯りはすべて消え、街灯だけがポツポツと、夜中の闇を照らしている。こんな時間に出歩いている人もおらず、外は静かだった。

 きょろきょろとまずは遠くを見回して、優太は視線を動かす。そのまま目線をアパートの下に向け、そして、驚きに体を硬直させた。

「え……?」

 目を見開き、呆然と優太は呟く。

 アパートの裏手。立ち並ぶ住宅街と、今優太のいるアパートの間の、狭い道路。その街灯の下。

 そこに、一人の少女が立っていた。

 下ろした長い黒髪。白いワンピース。顔は帽子を被っているため、見えない。

 街灯の灯りに照らされて、少女は一人、奇妙な存在感と共に、いた。

「嘘……」

 予想外のことに、優太の眠気はいつの間にか、どこかへいっていた。冷静に、しかし驚きと困惑と喜びに、心臓が大きく脈打つ。

 優太はその少女の格好に、見覚えがあった。背丈は優太の知っているものとは違う。だがあれは、まさか……!

「っ!」

 瞬間、優太は踵を返して、走り出していた。

 靴も履かずに玄関から廊下へ飛び出す。

向かう先は、今少女が立っていたところだ。

 長くない廊下を駆け、滑るように階段を降りる。急いで優太は、アパートの裏手に回り込んだ。

 ……だが優太が着いたときにはもう、先ほどの少女の姿は、なかった。

「夢……か……?」

 思わずそう呟いてしまうほど、その場所には少女がいたような痕跡はなくて。

 ただあるのは、時折チカチカと瞬く街灯と、映し出すものは何もない、光のスポットだけだった。


* * *


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