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統合

 ごおぉ

 激しい風がベランダの屋根を、激しく揺らす。遠く、どこかでバタン! て何かが飛んでいく音がした。


 ああ、今日は風が強い。

 けど、俺はこういう日が好きだ。

 ベッドの中で暁斗とぬくぬくと抱き合えるから。


 手を伸ばすと甘い暁斗の匂いがして彼の肩に触れた。そのまま彼を抱くと体を密着させた。ああ、愛しい少年は俺の腕の中で眠っている。なんて幸せなんだ。


 そして不意に気づいた。

 今まで違う世界にいたこと。

 徐々に徐々に、記憶が蘇ってきた……


 目を開けてじっと暁斗を見た。黒髪の美少年は、スースーと寝息をたてて寝ている。

 はあ、よかった。俺の腕の中に暁斗はちゃんといる。


 今度はベッドサイトの灯りをつけて部屋を見わたした。うん、パラレルワールドに行く前の俺の部屋だ。暁斗と俺のために母さんが改装してくれた新居。よかった……戻って来られたんだ。


 けど。


 あの暁斗はどうなったんだろう。


「まさむねぇ……」

 暁斗が手を伸ばして俺を求めた。どうやら少し目が覚めたようだ。灯りのせいかな。

 暁斗の求めに応じるため俺は彼に向き直って彼の腕に抱かれた。


「ああ、まさむね」

 半分眠りながらも、抱きしめる手に力がこもっていた。何度も俺の名前を呼びながら頬や首に、自分の頭をつける。


「あきと……愛している」

「うん。もうどこにも行かないでね」


 数秒。

 間があいた。


 ゆっくりと目を開けた暁斗。じっと見つめあった。


「大丈夫だよ。オレもちゃんといただろ? 」

「おぼえてるの? 」


「……なんとなく……夢……みたいな感じだけど。オレは正宗と混じっているからね。正宗が見た世界はオレの世界でもあるんだ。あっちの暁斗ともリンクしていたし……結局、オレは正宗ともあっちの暁斗とも同時にいたんだ」


「……そうなの? 」


「そうだよ。混じってるんだ」

 暁斗はそう言って俺をぎゅって抱きしめた。


 そうか。


 ふたつの世界、ふたりの記憶を、統合しよう、混ぜよう、って思ったのは、ある意味達成できたんだ。


 けど、よかったのかな。あっちの暁斗、これでOKなのかな。


「暁斗は幸せだったらいいんだよ」

「だって、こっち来たら鏡子伯母さんいないよ。それでもいいのかな」


「……暁斗の幸せは、正宗といることなんだよ。それはどの暁斗も同じなんだ。……で、どの暁斗が一番正宗を愛しているか、って言えば、エネルギーを一番かけたこの世界、ってことになるんじゃないかな? 過した時間、密度、思い……トータルに強い。だから、この世界に吸収されてしまうんだ」


「ほんと? 」

「さあ……けど、いつもオレは正宗のそばにいる。どんな世界にいても」


 微笑んだ暁斗は綺麗で、マリアさまみたいに慈愛に満ちて、ひまわりのように暖かかった。


 大好きだ。


 その微笑が。

 暁斗のすべてが。


 俺は目を閉じた。

 綺麗な暁斗にキスしてもらうために。


 彼の密なエネルギーが近づき、きゅって唇を吸われた。そのままお互いに、ちゅ、ちゅって吸いあった。キスって相手の愛を吸いあう行為なのか。心がとても気持ちいい。


 ゆっくりと目をあけて見つめあった。

 美しい……

 きっと俺も同じような顔をしている。今の俺は美しいと思う。

 暁斗は美しいままでにっこりと笑った。


「まさむね、オレ、セックスしたくなっちゃった」


 こんな美の中で、そんな気になれる暁斗に俺はびっくりした。と同時に、下半身があっという間に反応したのに笑いそうになった。


 どうやら、暁斗の申し出は俺の希望でもあるようだ。








「パラレルワールドから帰るヒントは、『橋をつくる』だったみたい」


 あっちの世界で気になっていた、俺の部屋にあった不思議本を開いて、気になる箇所をチェックしていた。

 そこには、パラレルワールドに入り込んだ人のエピソードが載っていた。そして、その対処法も。


 簡単にいえば二点を意識して、つなげる、てことだけ。


 二点というのは、元いた世界、と、迷いこんだ世界。

 つなげる、ていうのは『橋』をかけると意識すること。


 それを意識していたら、その『橋』にエネルギーが投下されて、その橋をつたって帰ることが出来る……らしい。


 ま、本当かどうか分からないけど。


 俺の場合は、こっちの暁斗とあっちの暁斗が二点になって、橋がかかったようだ。彼に対する思いはハンパないからエネルギーは勝手に注がれていたんだろう。


 もし、あなたがパラレルワールドに入りこんだら、この方法を試してみるのも、ひとつの手かもしれない。おためしあれ。           

                             (完結)


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