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記憶と空間

 俺は父さんのアルバムと、家にあった鏡子伯母さんのアルバムを母に出してもらった。訝しげな顔をしていたけど、鏡子伯母さんのこと知りたいから、って言ったら、もうそれ以上は追求しなかった。


 陰陽師の仕事をしている俺が、ヘンテコリンなのはいつもの事だと分かっていたから。



 俺の部屋に入った暁斗。


 陰陽師の資料や、不思議本がごちゃごちゃと置かれている本棚を、興味深そうに眺めていた。やっぱ、性格は同じなんだ。


「これ、鏡子伯母さんのアルバム。高校から大学くらいのだけど」


 渡したアルバムを暁斗はちょっと戸惑ったように受け取った。部屋が狭いんでベッドにかけてもらう。ゆっくりとページを開けた。


「ふふ。母さん、女子高生してたんだ。これってテレビで見る、八十年代アイドルみたいな髪型」

「だって八十年代アイドル世代だろ、鏡子伯母さん? かわいいじゃん。暁斗に似ているよ」


「えー、オレこんななの? 」

 写真の中で微笑む少女と相似する目で、暁斗は照れた。


 なんか……もうすっかりいつも暁斗としゃべっている気分だ。丁寧語も無くなって、うちとけている。


 一応、お客さんだから、お茶くらい出さないとな。あっちでさんざん食べてきたから。

 えーと。暁斗はハーブティーが好きだったな。けど、今のうちにそんなのあるのかな。


 人の出入りが激しい家なので客用のお茶葉はあるけどハーブティーは無い。あ、紅茶のアップルティーがある。これ、暁斗、時々飲んでいたよな。これでいいか。


 もらい物の焼き菓子と、アップルフレーバーの紅茶を入れて部屋に戻った。


「正宗が嘘つきじゃないのは、よく分かった」


 紅茶に口をつけながら、暁斗は笑った。


「けど、母さんに何て言ったらいいんだろう。今日、母さんの実家に行ってきてアルバム見たよ……か……お祖父さんとお祖母さんは亡くなったみたいだよ、一度、お兄さんに連絡取ってみたら……か……」


 どう返事していいか分からなかった。暁斗は紅茶カップをデスクに戻した。


「それとも……イトコに会ったよ……か……」


 少し胸が痛い。

 失恋した、という暁斗の悲しい気持ちが伝わってきたから。


「オレぜんぜん分かってなかったよ。失恋ってこんな胸が苦しいんだ」


 そう言うと暁斗はみるみる顔をゆがめポロポロと涙を流した。ぎゅって目をつぶって、下を向く。

 俺の中で一番、可愛いと思っている暁斗のしぐさだった。


 ああ、もうだめだ……

 たまらなくなって暁斗を強く抱きしめた。


 愛しくて悲しくて

 ふたりで抱き合ったまま泣いた。


「暁斗は失恋なんてしていないよ…………だって、どんな暁斗だって俺は大好きだから。俺たちは離れない。きっと住む世界が違っても一緒に生きていくんだ」


 支離滅裂。意味不明。

 でも、俺の思いはそうだった。


 いったいこの悲劇をどうしたらいいのか。

 ふたりで鼻をすする音だけが時間を埋めていった。


 俺はメガネを外した。涙で濡れてしまったから。


 あっちの暁斗は今何をしているのだろう? 俺のいない世界で悲しんでいるのか、それとも、俺がこっちに来た先の時間は存在しないのか。


 ううん。


 そんなのアリエナイ!

 あの暁斗がいなくなるなんて!


 俺がこっちにきた時空座標に戻ればいいだけ。それまでは時間が凍結されているはずだ。


 けど、じゃあ、こっちの暁斗はどうなる? 俺に会わなかった時間は存在しなくなるのか? この空間と共に消滅してしまうのか?


 それこそアリエナイ!


 だいたい、時間は過ぎている。俺の体感時間としてサラサラと。砂時計は動いているんだ。そこにはちゃんと暁斗がいて、お互いの時間を共有しているじゃないか。ただ、ちょっと過去の記憶と、周りの空間が違っているだけだ。


 帰るんじゃなくて。

 統合したらどうなんだろう。ふたりの記憶、空間を混ぜてしまうんだ。


「暁斗、ちょっと待ってて」

 俺は暁斗の唇にきゅうってキスをした。


 軽くするつもりだったのに、暁斗は強く吸い付いてきて俺を放さなかった。ああ、あきと、あきと、あきと…………


 愛しくて愛しくて、何度もキスをした。

 甘い匂いもそのままだった。

 ハートのエネルギーセンターが大きく開いて、お互いのエネルギーの交換がなされていた。


「まさむね。あなたの事がこんなに好きだったんだ」

 まるで思い出したかのように暁斗は俺にしがみついた。


「そうだよ。俺と暁斗は永遠の愛を誓った運命の恋人だからね」

「うん、そうだね。運命の恋人…………もう離れないよ」

「うん」


 そのまま抱き合ってベッドに倒れこんだ。キラキラした胸のエネルギー、エメラルド色のエネルギーが密に交換している。気持ちいい……その快感に浸りながら俺たちは眠ってしまった。


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