04
昔から、綺麗な物には興味がなかったのだと思う。
私は、小さな頃から漠然と姉とは違う普通な、普通過ぎる程普通な人生を歩むのだと思っていた。
教壇に立つ教師の話を聞きながら、頭や背中に当たるゴミを無視してボーっとする。考えるのは、昨日図書館で出会った少年。やたら顔立ちが整っていたが奇抜な格好をしていた。
想像してたのはメガネ掛けた黒い髪の、いかにも真面目そうな青年だった。
今日は、どうしよう、かな。図書館に行こうか…。それとも図書室に行こうか…。なるべくお金が掛からなくて、長く居れる場所、ないかな。あ、ペン返してもらわないと。
「木野、あんまり机の周りを散らかすな」
教師の注意に嘲笑いの声が四方八方から聞こえた。私はイジメられている分類なのだろう。毎朝、机の上には花瓶が乗せられ、白と黄色の菊が置いてある。よくわからないけど、意味はあるのだろう。気にした事はないし、持って帰った事もある。まぁ、その花達の末路は、適当な電柱の下にひっそりと置いて帰るのだが。そして、私の頭にぶつけられるこのゴミだが、消しゴムを細かくちぎって投げているようだ。消しゴムの消費量半端なくないか?そして、そんな千切りむしった後の消しゴムは使い辛くはないのだろうか。不思議だ。
そういえば、上履きに画びょうが入ってた事もある。その場で逆さにして画びょうを捨てて、靴を履いて自分のクラスに向おうとしたら、後ろで「いったー!画びょう刺さった」という声を聞いたが、当然無視した。教室のドアが少し開いていた。その時の私は、やっぱり放課後、図書館に行こうか、喫茶店に行こうか僅かに上を向きながら悩んでいたので気付いた。黒板消しが挟まっていた。当然、別のドアから入った。その後から入ってきたクラスの女子の前に、黒板消しが落ちてきて、スカートがチョークの粉に塗れた。私はここでもお約束事の無視を決め込んだ。やったの私じゃないし。ある時、私の机の上にネズミの死骸が置かれている事があった。問答無用で勢いよく右腕で払い落としたら、結構飛んで、女子達がきゃあきゃあ喚いた。ネズミの死骸如きで騒ぐほど、可愛い性格はしていない事がよくわかった私は、無言でカバンにくっついていたファ○リーズとコンビニで貰ったおしぼりで素早く自分の机を除菌した。流石にムカついた。
そして、放課後。とうとう呼び出しを食らったのだが、その呼び出しを忘れ、図書館に行ってしまったのが昨日の事である。
そして、今日はそのツケが回ってきた。授業が終わるなり女子達は私の机をグルリと囲んだ。女子特有の良い匂いがした。女子校、且つ男子が居ないという事もあって、女子達は学校でのお洒落をそこまで拘らない。それの代表的な例が、香水である。
「ちょっと。なんで昨日来なかったのよ」
「………忘れてた…」
何を言われたのか全く理解出来なくて、昨日の事を朝から思い出してみれば、あ、そうだ。呼び出し食らってたんだ。オマイガ。
「もういいわ!!ここでハッキリ言ってあげる!!あなた邪魔なのよ!目障りなの!もう、学校に来ないでくれない!?てか、いっそ死ね!」
「……………」
そう言われて、俯く。流石に、そう言われると、凹む。あ。ピンクの水玉。しかもフリル付き。最近の下着はなかなかセクシーで可愛いのが揃ってる。しかし、紐パンとはなかなか勇気のある…。スカートのホック下のチャック全開で偉そうにガミガミと何かを言っているその女子のホック下にドキドキしている私を余所に、授業開始のチャイムが鳴った。そうこうしている内に教師も来た。その教師は若い、比較的格好いい分類にある教師である。
「なんか言ったらどうなの!」
「ピンクの水玉、フリルのヒモでなかなかセクシーなパンツがスカートのチャックから見えてます」
沈黙が流れ、目の前のリーダー格の女子はゆっくりと教壇に目を向けた。そこには若い教師がキョトリとした顔で立っていた。
「きゃああああああ!!!!!」
女子は悲鳴を上げて教室を出て行った。「なんか」を言ったのに。
放課後。結局図書館に行くと、もうそこには金髪ピンクメッシュ君が居た。
「昨日は、来ないって言ってなかった?」
「気が変わったの」
重たいカバンを隣の椅子に乗せて、勉強道具を取り出す。
「私のペン、返してくれない?」
「代わりの物、くれたらいいよ」
「代わりの、物?」
サッと、カバンから出したのは私の机の中に入っていたエロ本だ。しかもロリっとした美少女があられもない姿で写っているやつだ。
「………………何、それ…」
「今日、私の机の中に入っていた本。処分に困ってたからあげる」
「…いらない」
「本当は欲しいのにやせ我慢とかよくないと思う」
「僕は、年上趣味なんだけど」
「熟女趣味?」
「飛び越え過ぎ!!」
人差し指を唇に宛てて、シーと言うと金髪ピンクメッシュ君は顔を赤くした。
「じゃあ、OL辺りが趣味?」
「…………同年代辺りが趣味」
「へぇ……やっぱり、あげようか?」
「いらないってば」
再度、カバンからエロ本を出すと、金髪ピンクメッシュ君は顔を顰めた。同年代イコールロリじゃないか。私は間違ってないと胸を張って言える。
「あ、そうだ。これもあげるよ」
カバンから、本日の戦利品である菊の花束を取り出す。
「なんの、嫌がらせ…?」
今まで一番の顔の引き攣りを見せた金髪ピンクメッシュ君は軽蔑の目で私を見てきた。
「今日、私の机の上に置いてあったら頂戴してきた」
「なんで持って帰ってんの」
今度は可哀想な目を向けてきた。なんで。