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03

自分の人生は、世界は、




嗚呼、なんて詰まらないのだろうか。




俺の人生は、類希なのだろう。

母は、神の申し子なんて言われる程のデザイナーとしては天才だった。そういう職業だったから、よく芸能関係者との出会いは多かったのだと言う。父はカリスマ的人気を誇るモデルだった。男からも女からも絶大の支持を受けた両親は人気だった。けど、父が母を見つけてしまった。母の容姿は、十人並み。もしくはそれ以下かもしれない。絶世の美男子と言われた父はそんな母に何故か一目ぼれしてしまったのだ。母にベタ惚れの父は、あっという間にヤンデレの道を歩んだ。母に近付く男は半殺し、又は社会的抹殺。全部未遂に終わったのは、母が後ろから色々と手を回したらしい。そして、そんな二人の間に男の赤ん坊が生まれた。それが後の、佐賀八尋という俺である。

母は、俺を大層可愛がった。それを見た父はまだ赤ん坊であるはずの俺に大層嫉妬したのだと言う。赤ん坊の頃は毎日ギリギリと睨み付け、殺すだけじゃ物足りず、首に紐を結んで大型バイクで引き摺り回したかったと儚げな笑顔で言っていた。聞いた時は背筋が凍り付いた。それをしなかったのは、母が片時も俺を離さなかったから。そして、順調に可愛らしく成長した俺は、僅か6歳の時に父の母方の祖母が居るイギリスに預けられた。我慢ならなかったらしい。その時、最後に聞いた言葉は嫉妬に塗れていた。

「俺の真尋(マヒロ)の膝は俺だけの物だ!真尋のおっぱいも、真尋の尻も、真尋のプニプニの二の腕も、真尋の小さい手も、真尋の髪の毛一本だって俺の物なんだよ!クソガキにくれてやるか!!俺と真尋の愛の巣から出て行け!俺は今日から真尋を独り占めして、真尋を片時も離さず、セ===に励むんだよ!わかったか!わかったら出て行け!俺の真尋を返せ―――!!!!」

そんなボロクソに言われてまだ純粋だった俺は泣いた。泣きながらイギリスに行った。イギリスに着いてお婆ちゃんに会ったらもっと泣いた。夜になると泣く事が格段に多くなった。泣く度に、お婆ちゃんとお爺ちゃんが来て、俺の頭を撫でて、「八尋は可愛い。可愛いからあの子は八尋に嫉妬しちゃったのね」と言って慰めてくれた。

それから、俺はイギリスの小学校に通い、徐々に成績を上げて、8歳になる頃にはイギリスの大学に入学していた。そこで、年上に散々甘やかされ、可愛がられて、12歳の時に卒業して、日本に戻ってきたら、母に「やあ君良い子!流石ママの息子ね!ママ、やあ君が居なくてすっごく寂しかった」と言いつつ、母は後ろに居た父を睨む。が、そんな事はお構いなしに父がまた嫉妬して、寮のあるこの学園に追いやられたのである。

中学の時は、帰国子女として持て囃されたけど、教師が俺に向ける目が鬱陶しかった。いつもヘコヘコと頭を上下に振り、お誂え向きの笑顔を貼り付け、媚を売るその姿は、惨めだった。

そうして、俺が不良への道を辿るのに時間は要らなかった。

毎日、殴り殴られ、ボロボロになっていく体は、いつの間にか筋肉が発達していき強く頑丈になっていった。黒かった髪も、金色に染めて、“魔王佐賀”なんていう二つ名も付いて、いよいよ終わりだな。と思った時に、ふと電気屋のウィンドウに置いてあったテレビに目を止めた。そこには仲良く寝そべるパンダ達が居た。俺の目はテレビに釘付けになり、夢中でパンダを見た。子パンダが集団でコロコロと転がる姿と言ったら、もう…!!もう…っ!!

悶絶しすぎて、俺の鼻はパンクした。





「そこから俺は、更生への道を辿る」

「所々で笑い話が入っているんですけど、笑っていいんですか?」

意気揚々と語っていたら、たっちゃんのツッコミが入る。

たっちゃんは、見た目がチャラいけど、中身はビックリするほど人見知りが激しくて、真面目だ。何故、その金髪にピンクメッシュ?と尋ねた所、たっちゃんの趣味だそうだ。なんかちぐはぐな所がたっちゃんらしいね。と言ったら、先輩よりはマシです。と言い返された。ちなみに、ピンクメッシュはエクステだから、取り外し可能なんだって。

「先輩の人生って修羅の道ですね」

「そうだね。普通の家庭じゃなかったね」

ちなみに、大学時代の事は誰にも言っていない。親しい人にも言っていないんだから当然だけど。大学は、色んな事が学べて楽しかった。周りの人達も良い人ばっかだったけど、それよりも、“知る” という未知の世界が何よりも楽しかったのだと思う。今はもう、一流大学卒業したっていう教師よりも頭が良いし、正直言って、学べる事は何もない。それでも中学に通っていたのはただ単純に、日本の教育制度に乗っといただけで、高校まで進学する気はなかったのだが、俺の事情を全く知らなかった転勤してきたばかりの教師は、「佐賀君はこのまま進学でいいのかな」と言い、それに対して全く話を聞いていなかった俺は「はい!」と元気良く答えたせいで、気付いたら高校生になっていた。とたっちゃんに言えば、またツッコミが入るんだろうなぁ。

「佐賀先輩のお父さん怖すぎますよ。なんですか。赤ん坊を引き摺り回すとか…」

「パピーは過激だもの。たまに実家帰って、パピーとゲームして勝っちゃうとパピーが勝つまでやらされるよ」

「………仲良いんだか、仲悪いんだかよくわかりません」

「だよね!」

机上に置かれていた書類関連を全て綺麗に片付け、ファイルに仕舞っていく。

「俺も最初は、パピーに嫌われていると思っていた。殺したいほど、嫌われていると。だけど、そうじゃなかった。マミーが買い物で居なかった家の中、パピーと二人。最初に声を掛けてきたのはパピーからだった。パピーに呼ばれて行った先は、俺専用のウォークインクローゼット。そこには、無数の衣類。その中で、一際愛らしいデザインの薄手のニット帽を無理やり被らせられ、俺は悶絶した」

「またですか」

「パンダ帽サイコー!!」

ニット帽には耳が付いてあり、白いニット帽の耳だけが黒というなんともキュートな仕上がり。マミーの才能には惚れ惚れします。

「まぁ、元々嫌いって言う程嫌ってはなかったんだって!単純に嫉妬してただけなんだって!もう!それならそうと早く言ってほしいよね!早く言ってくれていたら、やあ君もこんなやさぐれなかったのに!」

「自分の事やあ君とか言わないでください。気持ち悪い」

鋭いたっちゃんのツッコミは無視。書類整理が終わり、来週帰ってくるはずの会長達の書類に手を付ける。

「いいんですか?」

「いいんじゃない?俺、来年は一応会長様だしねー」

「来年と今は違うと思います」

たっちゃんの言う事は正論だ。その通りである。けど、何も言い返さないけど、会長に言われた仕事の一つでもある。あの人は誰よりも仕事が出来る癖して、仕事をやりたがらない困った人だ。大人になったら大変だよ?と言えば、「やる気がないんだから、会社が潰れようがどうなろうが知ったこっちゃないね」と言う。結局、会長が何をやりたいのかはわからず仕舞い。まぁ、無理に聞く気もない。誰しも知られたくない事の一つや二つ持っている物だ。そう。それは、俺の目の前に居るたっちゃんだって変わらない。たっちゃんの家の事情は知らない。そこまで知るほど仲が良いわけではないからってのもあるが単純に興味がない。

「たっちゃん」

「なんですか」

「たっちゃんの初恋、叶うといいね」

「鯉に、叶うは不適当だと思います」

たっちゃんは鈍感で天然であーる。


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