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昼食が終わり、それぞれに用事があるのか散って行った。
お弁当の後片付けを済ませて、水飲み場に行く。始めてきたが、なんとなく人に着いて行っていったら行けた。
そこに、銀色の頭を発見した。
「……………飼育員さん」
「あ、れ?えーと…」
そういえば、自己紹介まだでしたね。
「俺は、佐賀八尋。この間17歳になったばかりの高校二年生。生徒会会計で一応、来年会長になる予定かな」
「……木野萌です高校二年生の16歳です。一応学年主席です。」
「知ってる。この学校でも有名なバカ校でしょ。そこで、学年主席取って嬉しい?」
「少なくとも、来年使う私の履歴書には有利に映るかと思います」
クスクスと控えめに笑った美形さんは、平岡さん程、身長は高くはない。平均ぐらいだろうか。
「ねぇ、テストって面白い?」
「面白くはないですね。午前授業で帰れる以外のメリットを感じた事がありません」
「ハジメちゃんは面白いね。ハジメってどうやって書くの」
この人、コミュニケーション能力半端ない。
話の繋げ方が絶妙というか、そこまで頭って回るものなの?
「草冠に、明るいです」
「あぁ、萌木のもえ?」
「そうです」
普通の人は、萌えのあの漢字だねって言ってくるというのに、この人はそう答えてくれちゃうのか凄いな。
「唐突だけど俺ね、テスト受けた事ないんだよね」
「え?」
テスト受けてないのに、生徒会会計で、来年会長ですか。ついついこの学校の未来に合掌せざるを得なかった。今年の会長は平岡さんだと聞いているし、なんとも残念感溢れる学校だ。
「なんか、失礼な事思ってない?」
「いえ。ところで、佐賀さんは」
「八尋でいいよ。俺も萌って呼ぶし。そもそも同級生だし、敬語もいらないよ」
「八尋は、なんでテスト受けてないの。サボってる?」
「うーん。学校側には一応言ってあるんだよ。無駄だからって」
無駄。それは、学校側でも対処できない程頭が悪いって事?ギリギリで入学出来たって事?
「うーんと、俺、一応海外の大学主席で卒業してるからこの学校の教師から何か習う事って全くなくてね、この学校受けた時も、うっかり」
「…………殴りたい」
「ビックリするぐらい遠慮がなくなってるんだけど」
そういえば、この人には私の受験事情を言っていないから知らなくて当然なのか。知っているのは、姉と平岡さんと斗鬼だけだし。
「まぁ、それで中学の担任の手違いで、俺は入学したんだよね。あのね、なんか勘違いしているようだから言うけど、受験枠とは別の特別枠ってのがあってね、簡単に言うと、特待生とかスポーツ推薦とか、そんな感じの特別枠で入学したんだよ。ほとんど受験とは関係ないから睨まないでくれる?」
自然と睨んでいたようだ。
グリグリと目尻をマッサージしながら、八尋の話に耳を傾ける。
「んで、テスト受けなくていいって学校側から許可もらってんの」
「へぇ。飼育員してたのはなんで?」
「あー、佐賀動物の園長って俺がなる予定なんだ。今は、母方の伯父が変わりに経営者やってくれてるけど、企画書とかは俺が考えてるし、必要書類があれば処理してるんだけど、最近は、それも回ってこなくなっちゃってね」
「え」
それって、まさか八尋の動物を代理園長が乗っ取…
「また勘違いしてない?違うから。伯父が動物園の経営に嵌ったって言えば、いいのかな。それで俺に仕事が回ってこないだけ。最終的な判断は俺がやってるけど、それも電話だけの確認だし」
経営にはまっ……。たったそれだけで、最重要責任者スルーだと?
佐賀家は一体どんな考えの元、生きているのだろうか。気になるような、気にならないような。
「流石に、俺が高校卒業したら意地でも返してもらうけどね…!」
「その前に、貸し借りのスケールが一般庶民には理解の及ばない所にあるんだけど」
「まぁ…そうだね…。そうなんだけど、それもどうなるかわからなくなっちゃった。今色々迷う事出来ちゃってね」
なんとも贅沢な悩みだ。出来る事なら私が踏み潰してしまいたい。
「会長が、自分の家の会社継ぐって言い出したら、きっと俺は揺らぐ。なんだかんだで、会長のそういうカリスマ性に惹かれている所あるし」
前言撤回。
それは贅沢な悩みじゃない。地獄に堕ちるか、天国に昇るかの簡単な選択肢じゃないか。ちなみに、地獄の方は平岡さんの方だ。
「………平岡さんは、ちょっと…」
「萌って人見る目皆無でしょ」
グッサリと心に刺さった包丁はなかなか抜けない。
違う。ろくでなしが私に近寄ってくるだけで、私がろくでなしに近付いているわけではない!
「会長は、確かにろくでなしだけど、信じるに値するだけの価値はあるんだよ。じゃなきゃあの人の周りに人は寄ってこない」
「顔のお蔭じゃないの?」
「スッパリ言ったね。違いますー。あー、これだから人見る目ない人はー!」
煩いな。これだから白髪頭は。
「まぁ、それは気になったら本人にどうぞ」
「で、八尋は平岡さんの部下になりたいって事?」
「そうなるんだけど、萌ってビックリするぐらい会長に興味ないんだね」
「興味が沸いて何か良い事でもあるの?」
あの人が何をしようと、どうなろうと私には知ったこっちゃない。興味など沸くはずもないのだ。
「そんな風に聞き返されたの初めて」
「へぇ」
「そっけない!!」
「話進めてよ」
一々リアクションしなくていいのに、リアクションを取る八尋はなんていうハイスペックなコミュ力なんだ。
羨ましいとは思わないけれども、素直に凄いと思う。
「大学卒業して、日本に戻ってきたんだよね。その時は何をしてたの?」
「不良」
その綺麗な笑顔にそぐわない言葉が出てきた。




