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小さな頃から一緒に居てくれたよね。

だから、私は萌に依存しているのかもしれない。私の全てを認めて許してくれる。それで間違っていたら、真っ直ぐとこちらを見て、「間違っている」とハッキリと言う萌に、私はいつだって救われてきたのだから。

頭の良い妹じゃなかった。運動神経もそこまで良くなくて、いつだって掛けっこは私が勝っていた。

実は負けず嫌いで、自分の出来ない所は影でコソコソと出来るように努力してるのも知ってる。まぁ、大抵は出来なくて諦めちゃう事の方が多いけど。

だから、私は心の奥底から萌との学校生活を楽しみにしていた。萌が受験に落ちるまでは。

学園長の孫が入る?そんなのどうでもいい。萌はどうして入学出来ないの?その孫のせい?そんな風に考えていたら、自然と学園長のお孫さんに良い印象なんて抱けるはずもなく、実際に接するまでずっと私は嫌いだった。

だけど、

「どうして、お互い不器用なんだろうね……」

気づけばポツリとこぼしていた。

楓雅君の事が大好きな悠雅君は、まるで私のようで放ってなんておけなかった。心配性で心根の優しい楓雅君は、ちょっと萌に似ていて、それで悠雅君は私に似ている気がした。あそこまで捻くれていないけど。

だから、そう思ったら二人の事をいつの間にか受け入れていた。

「第三走者、準備お願いします」

グランドに響く音楽や、火薬銃の音と匂い。青い空に、複数の雲がなんとも清々しい空気であるように感じた。実際は、排気ガスとかの影響で空気は薄汚れているのだけど。

「位置について、よーい…」

パンッという火薬音にせかされるように走り出す。運動神経が良い方である私はすぐに目的の地点に着いた。一番乗りというだけあって、選択肢の沢山ある私は、一瞬迷いながらも、玉投げ用の玉の下の紙を取って、開いてみる。

「……………」

荒い息を整えながら、その紙に書いてあるものを探しに走る。

「萌っ!!」

「ん?」

カメラのレンズを私の方に構えている萌を見つける。その横には私が今探していたモノがあった。これ書いたの、絶対会長だわ。本当にお腹の中真っ黒なんだから。

「五段重貸して!」

紙に書かれてあったのは、五段の重箱だった。五段の重箱とか持ってきている人居なかったらどうしてたの。

「はい」

手渡された五段重は冗談抜きに重かった。しかもこれは私と萌のお昼ご飯。落とそうものなら、今日のお昼抜きは免れない。

自然、小走りになりながらゴールに居る楓雅君の所まで行く。

「っ楓雅君!」

息を切らせながら、楓雅君に紙を渡す。それを確認して、私が持っている物を見れば、楓雅君の目が煌めいた気がした。

「それは、蓮華先輩の所のお弁当ですか?」

「え、えぇ、そうよ。ちょっと、いやかなり量が多いけれど、うちのよ」

「そうですか。わかりました。蓮華先輩は一位の旗の所で待っていてください」

よくわからないけど、私が一番乗りのようで、安心した。そこで、ふと後方を見れば、鬼の形相をした女の子が、楓雅君に襲い掛かるような勢いで走ってきた。

「……っこれ!」

「………連れてきていないようですが…」

綺麗な栗色の巻き毛の彼女は、どこかで見覚えがあった。さて、どこで会ったかしら。

平凡な顔を磨いて、綺麗になった感じの彼女の顔は、外国でいう所のエレガント美人というのかな。そんな感じの子だ

「わ、私の好きな人は、アナタです!」

「…………」

「…………あ」

思い出した。彼女は、楓雅君親衛隊の隊長だった。

誰よりも、楓雅君の平穏と安寧を願い、誰よりも、悠雅君の事が大嫌いな彼女は、よく悠雅君のファンクラブ会長と問題を起こしていた気がする。

「………すいません。俺、今は誰とも付き合う事出来ないんで」

「……え?」

悠雅君の存在は、残酷だと、私は偶に思う。悠雅君は、楓雅君に依存している。それを拒む事の出来ない優しい楓雅君は、いつもそうやって、女の子の気持ちを拒む。じゃないと、悠雅君が一人ぼっちになってしまうから。

「そんな事、わかっています!ですから、待ちます。悠雅君が、一人で大丈夫で居られる時が来るのを。私、待っていますから」

一途な女の子はどこまでも可愛い。特に彼女は、良い女に分類されるのだろう。相手にされないからと言って、嫉妬に狂うわけでもなく、ただひたすらに楓雅君の幸せだけを願っている彼女は、随分可愛らしい。

「……は?チンチクリンが楓雅の隣に立てると思っているのが間違いだね。節度を守りなよ。楓雅に似合う女は、天然で甘ちゃんな考えの女って決まってるんだよ」

「知っていて?そんな女は、少女マンガにしか居ないのよ」

そして、いきなり楓雅君の背後から現れた悠雅君は、彼女に元気良く喧嘩を売る。買っちゃいけないそれを、易々と買ってしまった栗色の巻き毛の彼女は、悠雅君を睨み付けるように、見上げた。

「悠雅…」

「ねぇ、蓮華ちゃんもそう思うでしょ」

「私?」

急に話を振られて、焦る私を余所に栗色の巻き毛は、私を睨み付けている。

「木野先輩。私、こんな捻くれた男性がモテるの、とっても気に入りませんわ!」

「そ、そうかな…?」

怒っている巻き毛ちゃんと、似たような反応を取る悠雅君に挟まれた楓雅君は、うんざりとした顔をして溜息を吐いた。

「私は、悠雅君の気持ち、ちょっとわかるけど、巻き毛ちゃんの気持ちもわからないでもないよ」

「何それ」

「だって、私も妹に依存してるから。妹と付き合う男性にちょっと、厳しくなりそうなのよね。しかも、なかなか離れられないし。それに…」

それに、こんなに一生懸命に恋している子を見ちゃうと、応援したくなるじゃない。

「それに?」

「なんでもないよ。良かったら、お昼一緒に食べな」

「はい喜んで」

「……楓雅君、早いよ」

ちなみに、巻き毛ちゃんは家族が見に来てくれているらしく、渋々といった感じでそちらに行ってしまった。

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