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私は、コンプレックスの塊だった。

1つ上の姉は、とても美しく、頭も良く、運動神経も抜群。そんな姉の周りにはいつだって人が集まってくる。人気者の姉は、私は大嫌いだった。

そんな姉は共学の高校に通っているし、私は女子校に通っている。

姉が通う高校は、とても歴史の長い、名門の金持ち校で有名である。それとは打って変わって、私が通う女子校は受験の時のテストの総合が30点にいってなくても入学出来るバカ校である。





授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、閉じていた瞼を開ける。寝ぼけ眼で、授業が終わった後の黒板に目を向けると、そこにはびっしりと黒板に白いチョークで今日の授業内容が書かれていた。

私の愛用の紫色のペンを握って、板書を始める。私の唯一の特技、それは書くのが早い事だ。友人には、まるでパソコンの早打ちみたいだ。と褒めているのかどうかわからないがよく言われる。板書を終わらせ、ノートをパタンと閉じて、黒板の文字を消した。

私は、平凡ではない。ハイスペックな姉が居る時点で平凡とは掛け離れている。加えて、かなり根性がひん曲がっていて、扱いづらい事この上ないだろう。

もう、私の中の何かが壊れているのだ。それこそ、油の切れたブリキの玩具の方がまだマシと言わしめる程に、私の中の何かは、原型を留める事なく壊れているのだ。例えるのなら、高い所から落ちたガラス細工のように、事故で潰れた車のように、一秒進んで、一秒戻る時計のように、私の中の何かは、そうやって壊れたまま誰にも見向きもされない。

黒板消しを元の場所に置いて、私は教室を出る。教室はいつの間にか誰も居なくなっていて、そして教壇から眺めるクラスの中で一際異彩を放つ私の机の落書きは、きっと、一生消される事はないのだろう。




学校帰り、図書館に寄って適当に時間を潰す。これは私の毎日の日課である。早く家に帰れば大嫌いな姉が居る確率が非常に高い。そして、そんな大嫌いな姉が大好きな母も居る事だろう。鬱陶しいのだ。だから仕方なく、私は“勉強”という名目でほぼ毎日図書館に入り浸っている。

「また、来たんだ」

「私がいつどこに居ようが君に関係はないと思うけど」

私が座っているテーブルの正面にしかめっ面で座っていると思われる少年。少年の名前は知らない。けど、よく話し掛けてくるから答えないわけにはいかない。目立つのはあまり好ましくはない。

「それもそうだけど。アンタ友達居ないの?」

「居るよ」

他校に、という言葉を飲み込む。

真正面に座る少年に、目を向けずに参考書に目を走らせる。ぶっちゃけ、私は話し掛けてくる少年に目を向けた事がない。というか、視界にその顔を入れた事がない。少年はそれが不服なのか、しつこく話し掛けて来る。

「じゃあ、なんで図書館に来て、一人で勉強してんの」

「時間を有効に使おうとしてるだけだけど」

「僕と話すのは時間の無駄だと思ってる?」

「正直思ってる」

押し黙る少年を無視して、愛用のペンをルーズリーフに走らせる。静寂の中でカリカリと動くペンの気配とパラリと本の捲る音と、正面から苛立ちの籠った視線の中、私は手を休める事はなかった。

「……僕は、アンタがどうしてそこまで無関心でいられるのか、理解出来ない」

「それは違うよ。君の理解は、ただ言葉に出して言っただけ。君の私への理解は、せいぜい“気味の悪い女”程度で、ぶっちゃけそれ以下でもそれ以上でもなければ、君は私を理解しようとする気は毛頭ない。そして、君の私への評価は、“どうでもいい”だ」

息を飲む音がした。

言い当てられて、動揺したのだろう。

「………不愉快な程合っているよ。けど、一つだけ間違っている。“気味の悪い女”じゃない。僕のアンタへの評価は、“良い友達になれそう”だよ」

「反吐が出る」

「アンタは、偽善とか、綺麗事とか嫌いそうだね」

「大当たり。大嫌い」

先ほどとは打って変わって、クツクツと喉奥で笑う少年は、どこかの店のレシートの裏に何かを書き始めた。

「最初はメル友から始めない?」

「悪いけど、携帯持ってないから」

「それは残念。明日もここ来る?」

「来ない」

しょうがないから明日は別の場所を探そうか。

明日の事は明日考えよう。今は勉強に集中したいというのに、目の前の少年は動こうとはしない。まぁ、視界には入れてないけど。

「ねぇ、今何年生?」

「大学三年生」

「絶対嘘。そういう嘘は、自分の格好見てから吐きなよ」

バッと、顔を上げて初めて少年の顔を見た。金色の髪の中に所々ピンク色のメッシュが入っていて、大きく吊り上った目は赤色で、童顔のせいか随分と可愛らしく見えた。そして、大きなチャックが印象的な、左右で色の違う、赤と黒のパーカーを着ている。それが少年にはよく似合っていた。そして、それと同時に自分が制服を着たままである事を思い出す。しまった!私は嘘を吐くのが下手くそだった!

「ようやく僕を視界に入れたね」

蕩けるような笑みを浮かべる少年は、ペンを持つ私の右手に手を重ねて、やんわりと愛用のペンを取って行った。

「ちょっと…っ!」

「これ、よく使ってるよね。大事な物なら明日もここに来てよ」

そう言って、少年は私の愛用のペンを持ち去ってしまった。図書館内で走り回るのはルール違反だ。他の来館者の迷惑にも繋がる。

イライラしながら、筆箱に入っていたペンを握る。この黄色いペンは、中学校の修学旅行に行った時に無料配布された、愛用のペンの次に使い易いペンであるが、なんか、やる気でない。結局、この日は勉強を辞めて、小学校低学年の子が読むような漫画本を読んで閉館ギリギリまで読んで帰った。


はい。しばらくヒロインの名前は出ません。ワラワラワラワラ

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