少年レオ
黒髪の少年が私たちを庇うように前に立って、フラドたちと相対した。
少年の武器は木の棒。道に落ちていた木を拾ったのだろう。
その棒で後ろにいた男たちを殴り飛ばした。
少年は私と同じくらいの年齢だ。
子どもが大人を吹き飛ばすなんて普通はできない。おそらくこの少年も私と同じように魔力操作で身体能力を強化している。
「何だよ! 急に現れやがって。男のガキは呼んでねぇんだよ! お前ら! 早く殺れ!」
男二人がナイフを取り出して、左右から少年に襲い掛かる。
少年は木の棒を剣のように構えて、軽やかな動きで男たちのナイフを躱す。
少年の躱す動作に一切の乱れがない。
体の動かし方がとても上手だ。
この一連の動きだけで分かる、少年は強い。
少年は飛び上がり、左から襲った男の顎を棒で打ち抜いた。
男は意識を刈り取られて膝から崩れ落ちる。
少年は直ぐに身を翻して、もう一人の男の方に猛然と向かい、横薙ぎ一閃。
もう一人の男もあっという間に倒した。
残るはフラドだけ。
フラドは怒声を上げて地団駄を踏む。
「ちくしょう! ふざけんな!」
汚い言葉だけを吐き捨てて、フラドはこの場から逃げ去った。
血のついた木の棒を道端に捨てて、少年は私たちのもとに近寄ってくる。
少年は動きやすそうな紺の服を着ていて生地は上質そうだ。
真っ先に黒髪と黒眼に目が行った。
髪が真っ黒で、瞳も黒色だなんて一度も見たことがない。整っている顔立ちでもあるので、良く目立つと思う。
とりあえず、助けられたので私は少年にお礼を言う。
「先ほどはありがとうございました」
「お前たちのような者が来る場所ではない、早く帰れ」
「ここには所用があって来たんです」
「用? 見たところ上流街の者たちだと思うが、どうせ遊び半分で来たんだろう。さっきみたいに捕まる前に帰れ」
私はムッとした。さっきからこの偉そうな言い方は何なの?
まず私たち捕まってないし。心配してくれているのは分かるけど、言い方ってものがある。
「どなたかは存じ上げませんが、助けていただいたことには感謝します。ですが、助けがなくても問題ありませんでした。ごきげんよう!!」
「お、おい」
少年が何か言っているが、私は無視をしてシオンと一緒に先へ進む。
すると、少年が道を塞ぐ。
「何ですか? 退いてください」
「帰らないなら、俺も一緒に行く」
「は? どうして?」
「危険な場所で女だけにするなと父から教わった」
「いや、父って……」
私は少年にどう対応したら良いのか困った。
少年に聞こえないようにシオンと耳元で会話する。
「情報屋を知られちゃ駄目だよね?」
「もちろんです。目的地は教会なので、教会の外で待ってもらうのはどうでしょうか? ちゃんと頼めば、この方も分かってくれると思います」
「そうね、そうする」
私は作り笑いを浮かべて少年にお願いする。
「ご厚意に感謝致しますわ。実は不安だったので、一緒に来ていただけると安心します。ある者と教会で会うことになっているのですが、あなた様は教会に入らず外で待っていて欲しいのです」
「そうなのか。実は俺もその教会に用があったんだ。ちょうど良かったよ」
「え? あ、そうなんですか……」
この人も教会に? 私はちらっとシオンを見ると、黙って首を横に振られた。
情報屋との待ち合わせ場所にこの少年も来るみたいだけど、情報屋から何も聞いていないようだ。
「俺の名はレオだ。訳あって家名は明かせない。レオと呼んでくれ。お前たちの名は?」
家名を明かせないってことは、おそらく貴族。
私と一緒で、この少年も周りに内緒で来ているのかも。私も本名は明かせない。
「私はフレイ・ルーデンと申します。こちらは従者のシオです」
本名から少し文字を抜いただけ。でも、どこかにいそうな名前になった。
咄嗟に考えたにしては、見事な偽名だと思う。
「フレイ」
「…… え、あ、はい」
いきなり名前を呼ばれるとは思わなかったから、反応が遅れてしまう。
しかも、呼捨て。初めましてなんだから、フレイ嬢と呼ぶべきでしょ。
「分かった。一応、その名前で呼ぼう。それから敬語もなくて良い。フレイは敬語が下手のようだからな」
下手? そんなことないのに。
私の敬語は完璧だ。どんな時でも敬語が使えるよう小さい頃から訓練してきた。
使わなくても良いなら、使わないけど。使わないのは苦手じゃなくて、楽だから。
失礼な奴だから、私も呼捨てにしてやる。
「レオがそう言うなら、そうするね」
「それと作り笑いはもうするな。普通にしていろ。作り笑いも下手だ。顔が引きつっていた」
「そんな…… 完璧だと思ったのに」
「作り笑いって自分で認めるなよ」
「あ、しまった」
私の反応にレオが小さく笑った。
ふーん、その笑顔は嫌いじゃない。
ちょっとムカつくけど、レオは良い奴なのかもしれない。何となくそんな気がした。
話してみるとちょっと楽しいし。
「さ、行くぞ」
「レオが仕切らないでよ。私の護衛なんでしょ」
「一緒に行くとは言ったが、護衛とは言ってない」
「同じでしょ」
私はレオと言い合いをしながら教会へ向かう。
シオンの溜息が聞こえたのはきっと気のせいだ。




