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元工作員、異世界の殺し屋「死神」に拾われる  作者: 丸ノ内きみこ


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深夜の離宮調査

深夜二時。学園を包む深い静寂の中、シオンは漆黒の隠密服に身を包み、庭園の樹影を縫うように移動していた。


(……見張りの歩数、呼吸の間隔、そして魔力探知網の波長。すべて同期完了。今の私は、警備システムの『バグ』に過ぎません)


シオンが使っているのは、派手な不可視魔法ではなく、周囲の光を魔力で微細に屈折させ、背景の風景を自分の体に「投影」する、現代科学の光学迷彩に近い技術。  彼女は、高さ五メートルの離宮の壁を、関節の音一つ立てずに垂直に登りきり、ルミナスの寝室へと続くテラスに降り立った。


薄暗い室内。そこには、昼間の優雅な微笑みを捨て去り、苦悶に顔を歪めるルミナスの姿があった。彼は上半身を露わにし、ベッドの縁を白くなるまで握りしめています。その胸元では、あの「呪印」が脈動するたびに、禍々しい紫色の光を放っていました。


「……くっ、あ、ああぁ……っ!」


王子の心臓から伸びる紫の「根」のようなものが、彼の血管を内側から焼き、魔力を吸い上げている。  そして、その傍らには、女子会で噂になっていた「黒い影」――フードを深く被った謎の人物が立っていました。


「殿下、耐えてください。この『代償』を払い続ければ、貴方は次期国王としての絶大な魔力を手にできる。……さあ、さらに魔力を流し込むのです」


「……黙れ……。こんな、化け物のような力……っ!」


(――仮説の修正。あの影は侵入者ではなく、呪印の『管理者』。そして呪印の目的は殺害ではなく、宿主を『生きた魔力バッテリー』へ改造することですね)


シオンは冷静に状況をスキャンする。放っておけば王子は数分以内に心不全を起こし、学園の三分の一を吹き飛ばす魔力爆発を起こす。


「(……非効率な死に方です。掃除の手間がかかりすぎます)」


「そこまでです。その『過充電』、私の担当範囲外のゴミですので、処分します」


闇の中から、シオンの声が響きました。驚愕して振り返る影。しかし、その時すでにシオンは王子の背後に音もなく着地していました。


「貴様、何者だ……っ!」


「清掃員です。……師匠、そっちの『粗大ゴミ』をお願いします」


「ああ、任せろ。定時前だが、特別残業だ」


天井のステンドグラスを突き破り、ジークハルトが猛烈な質量で落下してきました。彼はそのまま、黒い影を問答無用で床に叩き伏せ、ナイフの柄で意識を刈り取る。


その間に、シオンはルミナスの胸元に指先を突き立てた。指先には、二年目に習得した「論理爆弾ロジックボム」の応用。魔力の逆流を防ぐための『絶縁パルス』を打ち込む。


「あ……がっ……!?」


「暴れないでください。今、あなたの心臓の回路を一時的に『バイパス』しています。……三、二、一……接続解除」


シオンが指を引いた瞬間、王子の胸の紫光が、ふっと消えた。激しい呼吸と共に、ルミナスの瞳に正気が戻る。


「……シ、オン……? なぜ、君が……」


「深夜の環境調査です。……殿下、あなたの心臓のプログラム、非常にスパゲッティコード(継ぎ接ぎだらけ)で不快でした。今夜は応急処置をしましたが、根本的な『デバッグ』には、もう少し時間が必要です」


シオンは乱れた服を整え、何事もなかったかのように立ち上がった。


床で伸びている黒い影を見下ろし、シオンはジークハルトに目配せしました。


「師匠、このゴミの処理と、証拠隠滅をお願いします。私は殿下の『事後処理』を」


「へいへい。ったく、俺を便利屋か何かだと思ってやがるな……」


ジークハルトが影を担いで窓から消えた後、シオンは呆然としているルミナスに向き直りました。


「殿下。今回の件で、私の秘密(師匠)の一部を見られました。……口封じにあなたを解体するのも効率的ですが、提案があります」


「……提案?」


「私に、この学園の『全システムのアクセス権』をください。そうすれば、あなたの心臓を完璧に修復し、この汚い陰謀をすべて『清掃』して差し上げます」


月光に照らされたシオンの瞳は、美しく、そして底知れない冷徹さを湛えてた。ルミナスは、自嘲気味に笑いました。


「……いいだろう。僕の命も、この国の未来も、君に預けるよ。……ただし、一つ条件がある。……たまには、僕の前で『擬態』ではない、本当の笑顔を見せてくれないか?」


「……検討しておきます。……あ、もうすぐ午前三時ですね。睡眠不足は美容と暗殺の天敵ですので、失礼します」


シオンは優雅に一礼すると、王子の返事も待たずに、影に溶けるように部屋を去っていった。

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